コント「取材」
明転(照明がつく)。
一人、乱れた髪の長い白いワンピースの女性のボケ役が一人立ってぼーっとしている。
スーツ姿のさえない男性のツッコミ役が、上手側から現れ話しかける。
ツッコミ「……あの、すいません。お聞きしたいことがあるんですけど……?」
ボケ 「ひっ?!」
ツッコミ 「ああ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたよね。すいません。私、取材をしておりましてここら辺でお聞きしたいことが……」
ボケ 「……ナンパね!」
ツッコミ「はい?」
ボケ 「こうやって、最初は何気ない言葉で何食わぬ顔で聞いて、そしたらお優しいですねとか、言葉巧みに私をほめちぎっていい気にさせて、わたしを連れていくつもりでしょ!ちょっといいホテルに!」
ツッコミ 「いきなり、妄想たくましくないですか?!違いますよ」
ボケ 「そうやって、部屋に連れ込んで、ビデオ回して、私がイスに座らされて、身長、年齢、3サイズとか聞かれて、ここ初めてですかとかいろいろとインタビューするつもりでしょ!いやらしい!」
ツッコミ 「いや、それスケベなビデオの手法!てか、そんなわけないでしょ!」
ボケ 「じゃ、なに?」
ツッコミ 「私、ここら辺で起きた最近の事故についてお話を聞いているんです」
ボケ 「ああ!それで、さえない記者がここで化けて出てきたのね、南無ナムナムナム…………」
ボケ、ツッコミに向かって、成仏してくださいとせがむ様に拝む。
ツッコミ 「いや、事故について聞きに来る記者の幽霊ってややこしすぎっ!違いますよ。生きてますよ」
ボケ 「じゃあ、生きている『さえない』あなたが、私に『さえない』質問をして、『さえない』メモをして、『さえない』記事を書くのね」
ツッコミ 「そんなに『さえない』を強調してまで伝えたいことですか?!自分でわかってますよ!」
ボケ 「で、どんなこと聞くの?」
ツッコミ 「ええ。単に、事故について知っていることお聞きしたいんです。ひき逃げなんで、事故ではなく、事件でしょうけれども」
ボケ 「見てないわ」
ツッコミ 「やはり、そうですか……。噂を聞いたりとかは?近くで住んでたりします?音を聞いたとか、事故現場を見たとか。被害者の方はちょうど、あなたと同じぐらいの方らしいのです」
ボケ 「へえ、そうなの。被害者って美人で器量が良くて、はつらつとしてて、ちょっとおてんばなのが玉に瑕の、残業、休出問題なしの即日雇用ができる私みたいな人?」
ツッコミ 「自信過剰なのが、羨ましすぎるわ!」
ボケ 「見てないわ」
ツッコミ 「そうですか……。ちなみに、失礼ですが、アナタはここで何を?」
ボケ 「待っているの」
ツッコミ 「待っていると」
ボケ 「ええ、待っているの。あの時ここで遭遇したあの人を。そして、あったら仕返しをするの。そう、顔も覚えていないあの人に」
ツッコミ 「……。(結構間を使って)結局、誰を待っているのかわからないんじゃないっすか。じゃ、そろそろ私はこれで……」
ボケ 「待って!!」
ツッコミ 「はい?」
ボケ 「あの……(チラッチラッ)、結局……(チラッチラッ)……ホテル……(チラッチラッ)……いかないの?」
ツッコミ 「まだ、ナンパだと思われてたの俺?!いかないよ!?」
ボケ 「ちぇ……」
ツッコミ 「若干、その気はあったのか……。じゃ、私はこれで」
ツッコミ、会釈をして上手側にハケようとする。ボケ、客席を見るようにぼーっとする。
ツッコミ、思い出したかのようにボケの近くに戻ってくる。
ボケ 「どうしたの?」
ツッコミ 「あ、ちょっと忘れ物を」
ツッコミ、ボケのおでこに、ポケットから出したお札のようなものをおでこに思いっきり張り付ける。
ツッコミ 「あなた、事故で亡くなった被害者の方ですよね」
暗転(照明消える)。