第009話 告知
「ルートさ~ん、採血で~す。」
今、俺は埼玉県にある防衛省管轄の医大で健康診断を受けている。
地球に来てから、魔力回復力の減少に伴い、常に身体に巡らせていた魔力を完全にオフにしている。
省力モードだ。
だが、身体は正直だ。
とたんに年齢相応の痛みや衰えを感じるようになった。
いわゆる『ガクッときた』と言うやつだ。
もう70歳だぜ?
50年、検査などしていないのだ。
せっかくだから、じっくり診てもらう。
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あの戦いからしばらくして、少し心が落ち着いてきた。
悔しさ辛さは確かにあるのだが、『なるようにしかならん』という心境になった。
実際、その通りなのだ。
ペンゴアの50年は、戻れない身としては夢の中の出来事のようなものだ。
この地球上で異世界のことを幾ら考えても、もう全く意味が無いのだ。
しかも、俺が50年掛けて身につけた能力は、この日本では何の役にも立たない。
それが良くわかってしまった。
指導者の道も一度考えてみた。
しかし、魔力を持たない地球人には魔法を教えようがない。
剣技にしても体術にしても、全て魔力を巡らせないと実現しない。
たとえ魔力の素養を持つ人間がいたとしても、地球上では魔力回復は6ヶ月でやっと満タン。
6ヶ月に一度しか使えない魔法なんて、無価値に等しい。
つまり、地球人にとって俺は『何も得ることのない、役立たずのジジイ』というわけだ。
今後、ただのジジイとして余生を送ることにするよ。
特別年金も貰えるらしいし。
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「……残念ながら、あと1ヶ月位です。」
え?
先生、もう一度言ってください。
「末期のすい臓がんです。余命は1ヶ月持つかどうか……」
なんということだ……
健康診断の結果、俺にはすい臓がんが見つかった。
今までは魔力を巡らせていたおかげで進行が止まっていたのだろう。
ちなみに回復魔法は怪我や身体欠損の復元が可能でも、老化や病気には効果は無い。
俺が死ぬ?
いや、今になって思えば『何故、死ななかったのか?』という場面は戦いの中にたくさんあった。
死は、常に目の前にあったのだ。
病気か。
そうか、俺は病気で死ぬのか。
ペンゴアでは共に戦った仲間や弟子達がいた。
彼らは全員、戦いの中で命を落としていった。
今度は俺の番というわけだな。
不思議と腑に落ちた。
だが……
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すまない。
共に戦い死んでいった者たちよ。
俺は故郷で死ぬ。
奴を倒すことも叶わず、無様に病いで死ぬ。
とうとう約束を果たすことはできなかった。
本当にすまない。
許してくれ。
本当に…… 本当にすまない。
すまない……
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悔やんでも悔やみきれない思いを胸に押し留めつつ、俺は身辺整理を始めた。