第008話 取り残された者
私はグレイザ。
オーガロード。
魔王軍の魔法技術顧問だ。
いや、魔法技術顧問だった。
異世界転移の魔法陣開発が私の主な仕事だった。
異世界転移魔法陣は完成した。
17年掛かった。
長かった。
しかし私は成し遂げたのだ。
すぐに魔王様に魔王城でお褒めの言葉、報酬としての領地、爵位をいただいた。
私は今までにない達成感を感じ、喜びに打ち震えた。
最初は恐ろしかったが、周りの反対を押し切り、伝説の魔王ディプロニス様にお仕えして本当によかったと思った。
そして、このような仕事を与えてくださった魔王様に感謝と忠誠を誓った。
その後、魔王城での華々しいパーティーを愛する妻と娘と共に笑顔で楽しみ、人生最高の時を過ごしたのだ。
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しかし、私はただの使い捨ての駒だった。
異世界転移の秘密を知る者として、最初から処分の対象だったのだ。
魔法技術開発局の技術者全員が、魔法剣士ルートの足止め役として意識を刈り取られ、ただの魔物として時空城の1階に入れられた。
あのパーティーの直後だ。
もちろん私の妻と娘も……
私が意識を取り戻したのは、魔法剣士ルートの従魔として強制的にテイムされた時だ。
私にとって下級の魔物たちを倒すことは容易い。
技術畑の科学者とはいえオーガロードだ。
下級の魔物に負けることはない。
しかし技術局員の他の者達は別だ。
優秀な局員であれ、ただの弱い魔族である者がほとんどだ。
もちろん私の妻と娘も普通のオーガだった。
私は従魔と成ったことで、魔王への依存は断ち切られたのだ。
私はすぐに妻と娘を探した。
必ずどこかにいるはずだ。助けなければ。
まずは従魔間の念話で妻と娘を探した。
すぐに見つかった。
良かった。二人ともテイムされていた。
二人は私より先にテイムされ、隣の城門に向かっていた。
すぐに追いかけたが、何万といるのだ。
なかなか見つからない。
念話で二人を励ましながら必死に探す。
魔物に追い詰められていることが声から分かる。
「あなた……ああ、魔物が!」
「お父様……助けて!」
そして隣の丸の内城門にたどり着いたとき、すでに念話は繋がらなかった。
城門から流れ出す下級の魔物を殲滅しつつ、あたりを必死で探した。
自衛隊と、ドラゴンが登場した時点で、私は皇居の大手門の扉の前にいた。
そこでふと皇居の堀の中を見た時に違和感を感じた。
私の目に映ったのは、多数の魔物の屍の中、場違いなパーティードレスに包まれた、妻リルクと娘カリナの亡骸だった。
私は……その場で泣き崩れた。
その後すぐ、大手門から出てきた自衛隊員に捕らえられ、捕虜となった。
私はすでに、抵抗する気力など欠片も無かった。
取り調べで、魔王の事、魔法剣士ルートの事、ルートは元々地球人であること、そして私と私の死んだ妻と娘はルートの従魔であり、敵では無いことを告げた。
妻と娘は、政府の人が日本式で丁重に弔ってくれた。
しばらく市ヶ谷の基地で軟禁された後、追跡用のGPSチップをインプラントした上で解放された。
私の事はどうでもいい。
どうなろうと構わなかった。
妻と娘には何も罪は無かった。
二人を巻き込んだ奴を絶対に許さない。
私は、魔王への復讐を誓った。