第035話 月の使者
「はい。到着。」
二人は地球から転移した当日の昼に戻った。
ふう。
ちょっとコーヒーで一服。
ペンゴア滞在は三ヶ月。
地球時間では、朝転移して昼戻ってわずか数時間。
確かに混乱するなぁ……
これを続けてたら時間と日付の感覚が絶対おかしくなる。
「優里さん、時差ボケ大丈夫?」
「時差ボケ? あ、そうか。これも時差ボケなんだ。」
「じゃ、優里さん。いつもの床屋行ってくるよ。」
「あ、はい。行ってらっしゃい。」
「あぁ、そうそう。床屋。オススメだよ。スッキリするよ。時差ボケ気にならなくなるよ。」
「あ、そうなんですか?」
そういう効能があるのか……
私も美容院行ってこようかな。
少し髪伸びたし。ちょっと傷んだし。
あ、でも報告書を書かなくちゃ。
「後で行ってきます。」
「そうかい? じゃ、行ってきます。」
「あ、ちょっと待って。行く前に、ペンゴアの貨幣の単位とか教えてください。あっちでは私の訓練中にずっとグレイザさんが買物してくれてたから分からないんです。」
「ああ。そうか。報告書用かい?」
「はい。」
……で、教えてもらった内容は
1G = 10S ≒ 1万円
1S = 10B ≒ 1000円
1B = 10I ≒ 100円
1I ≒ 10円
何か日本の硬貨の単位に似てるけど、ペンゴアじゃ銅貨が100円なのか。
十円玉とB硬貨を間違えそうだなぁ。
「一円玉に該当するものが無いなんて。その辺は『おおらか』ってことなのかな。」
「違うよ。貨幣の最小単位が1Iってだけだよ。」
「あ、そうか。やっぱり時差ボケなんですかね。ちょっと頭がボケてる気がします。」
「ん? そう……? いや……もういいかい?」
「あ、すみません。ありがとうございました。」
「じゃ、今度こそ行ってきます。」
ーーーー
優里は報告書を書いていた。
うーん……
やっぱり正直にそのまま報告すべきよね。
よし。
優里はペンゴアでのことを全て正確に漏れなく報告書に記述した。
そして室長に提出に行った。
「室長。今日の……三ヶ月間転移した分の報告書です。」
「ん? わかった。読んどく。」
「それから、あとで美容院行ってきます。」
「ん?何でだ?」
「転移による時差ボケの解消です。」
「へえ。効果あるのか?」
「グレイザさんによると、効果あるそうですよ。試してきます。」
「そうか。わかった。」
「経費で落としていいですか?」
「ああ、何度もあっちへは行くんだろ? 必要なものは全部経費でいいぞ。」
「ありがとうございます。じゃ、ついでなんですが……」
「なんだ?」
「……折り入ってお願いがあるんです……」
優里は室長にある事を相談した。
ーーーー
次の日。
優里はデスクで何かを一所懸命に書いていた。
「優里さん。」
「…………」
「優里さん!」
「はっ……あ、はい。何ですか?」
優里さんは手で書いているものをサッと隠した。
「どうしたの? 呼んでも返事しないし……」
「あ、すみません。」
「これ、次の訓練計画ね、見ておいて。……今日は何? 集中して何書いてんの?」
「ンフっ……内緒です。」
「なんだい?」
「後でのお楽しみですよ〜」
何を企んでるのやら……
ちらっと見えた文字はセーラー服がどうとか……
なんだろう。
ーーーー
それから2週間、優里さんは基礎能力向上を目指すため、長崎県佐世保市の相浦駐屯地で訓練をしていた。
自衛隊の精鋭部隊の訓練施設だそうだ。
どんどん人外になっていくみたいだが良いのだろうか。
2週間後。
優里さんは戻ってきた。
「優里さん、どうだった?」
「もう、びっしり鍛えられました!」
「見た感じ、ちょっとシャープになった?」
「でしょ? スラッとしたでしょ! 腕見てください! 全部筋肉ですよこれ。もうギルドで舐められませんよね? どうです?」
どんな訓練をしてきたんだろう。
たった2週間なのに無駄な肉が削げ落ちて筋肉が増量してる。
全体的にはスッキリスリムになって精悍さが増したみたい。
マッチョというよりモデルさんみたいになったな。
「そうそう……優里さんに昨日届け物が来てたよ。」
「あ、はい。とうとう来ましたか!」
何だかすごく嬉しそう。
「いったい何だい?」
「どうしよっかなぁ……教えちゃおうかなぁ……教えたいなぁ……ウフフ」
「教えてよ。何?」
優里さんはもったいぶって、送られてきた封筒から一枚の絵を取り出した。
「ジャーン! 私のコスチュームでーす!」
そこにはキレイなデザイン画が描いてあった。
「コスチューム?」
「ずっとグレイザさんだけオーガマンに変身するの羨ましかったんですよ〜」
「え? 優里さんも変身したいの?」
「良く考えたら私も子供の頃、テレビでヒーロー見てたんですよね〜 で、その作者の竹内さんに描いて頂いたんですぅ……ウフフ」
「で、これがその変身後の……でもこれってアクタースーツじゃないよね?」
「まぁそうですね。ぶっちゃけ、ただの衣装ですよ。でもグレイザさん魔道具作れるじゃないですか。これに変身させてくださいよ〜……ね?」
「ね?って言われても……うーん。このコスチュームねぇ。戦闘服なのにミニスカートって……肌が露出し過ぎじゃない?」
「だからワザワザ佐世保まで行って絞って来たんじゃないですか! この服はスタイルが悪いとカッコ悪いんです!!」
「いや、カッコイイとか悪いとかの話じゃ無くて、素肌出過ぎで危険じゃないのか?ってことなんだけど……いや、付与魔法で何とかなるか……でも優里さんのスタイルのために訓練に付き合わされた精鋭部隊の皆さんが気の毒……」
「良いんです。無駄な訓練なんて無いんです! あぁ……カッコイイなぁ……セイナームーン好きだったなぁ……」
ウットリしてデザイン画を見つめてる。
何だか優里さんが危ない人になってきている。
ペンゴアに連れて行ったのが原因かなぁ。
魔法に目覚めさせちゃったもんな。
失敗だったかな……
まぁ仕方ない、優里さんの防御力については私も考えなければと思ってはいたんだ。
うーん、変身以外に色々付加しないとなぁ……身体強化、物理防御、魔法防御、状態異常防御、自動回復、防汚…… 結構大変だなぁ………ま、なんとかなるかな。
じゃ、作りますか。
「優里さん、変身用の魔道具はブレスレットでいい?」
「あ、良いですね。あ、でも掛け声は『マーガレットパワー・ウェイクアップ!』でお願いします。」
「何それ。」
「だって、ペンゴアの月はマーガレットでしょ? だから『月の使者セイナーマーガレット』なんですよ。もちろん竹内さんの許可も貰ってますから。」
「あ、そう……いや、掛け声は不要だよ? ブレスレットに魔力を込めるだけでいいの。」
「そうなんですか? じゃ、そういうことで。」
うーん。
優里さんオタク嫌いって言ってなかったかなぁ。
これ、『オタク』ってやつじゃないのかなぁ。
違うの?
いつも読んでいただきありがとうございます。
仕事の関係で、しばらく不定期投稿になります。
出来るだけ毎日投稿出来るように頑張りますので、今後もよろしくお願いします。




