第003話 暴走
もうもうと上がる土煙の中、祝田橋交差点から晴海通り沿いに回り込み、飛んでくる瓦礫と石を結界で防ぎながら魔王城に近づく。
日比谷交差点で立ち止まる。
「なんと巨大な……」
丸の内がまるごと消滅している。
ビルだった瓦礫の上に巨大な黒い城が鎮座している。
あちらで見たときは深い森に隠されて比較するものがなかったが、
ここではその大きさに圧倒される。
幅は、おそらく神田橋付近から有楽町駅あたりまで、
奥行きはおそらく新川や築地あたりまで達するだろう。
つまり皇居とほぼ同じ大きさの城が東京のど真ん中に転移したのだ。
「どうしたらよいのだ。」
と、一瞬の躊躇をついて、いきなり、目の前の有楽町駅があった辺りの城壁の門から魔物が一斉に溢れだした。
魔獣暴走だ。
とにもかくにも、晴海通り上の魔物を強大な雷魔法と剣でひとまず殲滅していく。
しかし、溢れだしているのはおそらくここだけでは無いのだろう。
空が少し明るくなってきたからか、丸の内の行幸通り辺りからも大量の影が流れ出しているのが、かろうじて見えた。
魔王は何十年もこれを準備していたのだ。
俺一人でどうやって止める?
何百万の大軍だ。
無理だ。止められない。
いや、それでも止めなければ。
せっかく帰ってきた故郷が無くなってしまう。
俺には50年かけて手にいれたスキルと魔術がある。
なんとしても止める。
どうする。どうする。
この物量には一人では無理だ。
まず、味方を増やそう。
まず、目の前の城門、そこから溢れ出てくる魔物全部に麻痺をかける。
次はテイムだ。
麻痺で動きを止めた魔物を片っ端から瞬時に従魔にしていく。
そして従魔化した奴は次々に他の門へ送る。
時間稼ぎだが、ひとまず敵の数を減らそう。
ーーーー
2時間は経ったか。
辺りはすっかり明るくなっている。
次々とテイムしているが、門から出てくる魔物の勢いが一向に収まる気配がない。
先程からふらつきと目眩が止まらん。
魔力を継続的にこれ程使うのは初めてかもしれん。
「まだ出てくるか!」
と思った瞬間、
ドーンドーン、と気象庁の辺りに煙が上がった。
戦車だな。自衛隊だ。
遅い。
が、よく来た。市ヶ谷からか?
「い、いかん」
有楽町城門の上空に一匹のドラゴンだ。戦車に向かってる。
間に合うか? 巨大な麻痺弾を射つ。
よし、落ちた。テイム。
頼むぞ。自衛隊を守れ。
飛び立ったドラゴンは大手町交差点辺りをブレスで焼き払った。
ーーーー
さらに1時間。
少し有楽町城門からの魔物流出が弱くなってきた。
目眩は止まった。やはり魔物の勢いが落ちたんだろう。
もう少しか? もう少しだな?
弱めの魔物、スライムやゴブリンなどは面倒なので剣で薙いでいる。
今は魔力温存のため、主に強力な魔物や魔族、上位魔人を従魔化しているのだ。
もう数十万はテイムしているはずだ。
他の門へ送りつづけている従魔は何とか半数以上は生き残っているようだ。
戦車の砲撃に巻き込まれているのもいるようだが、それは仕方がない。
自衛隊も区別なんぞつかんだろう。
さらに流出は弱くなってきた。
俺の魔力は50年で莫大な量を持つようになった。
おそらく今の調子なら使い続けても10日は余裕でもつはずだ。
そろそろ百万を越えるか。
あと少しだと思うが、テイムし続ける。
既に戦っている従魔たちよ。何とか耐えてくれ。