第2話 届け物
午後も学級組織決めが行われおおよその学級での個人の役割は決まった。
高校生にもなると話し合いで多くのことが決まる。
そして下校となった。
教室を出ようとしたとき担任の山城葉月先生に呼び止められた。
「鮎川さん、申し訳ないけど頼み事していいかな?」
「なんでしょうか」
温泉旅館の次女って言われるとそう見えるような所作や物言いが見受けられることがある。
歩いているときにたまに、着物を着てないのに着物を着ているように見えたり言葉遣いが突然丁寧になったりする。
「ちょっとこの地図を見て欲しいんだけどね?」
先生はスマホにグーグルマップをだした。
「緊急時連絡先カードみたいなのを提出してもらったと思うんだけどそれによると君の家がここで」
先生が画面上をスクロールしていく。
「芹沢さんの家がこの辺なの。芹沢さんって言ってもわからないか……」
「学校に来てない人ですよね?」
「えぇ、そうなの。学校に来てないからいろいろ、書類が溜まってて…それをあなたに届けて欲しいんだ。ついでに書類について説明もして欲しい。あなたの家から芹沢さんの家までは近いでしょ?」
もう一度先生のスマホに映し出されたグーグルマップを見ると確かに徒歩5分程度の距離だ。
「一応、地図を送るわね。鮎川君のはiPhone?」
「はい」
「じゃぁ、Airdropできるわね?」
スマホを取り出しAirdropを受け入れられるようにする。
送られてきたのは、グーグルマップのスクショだ。
「よろしくお願いね。気を付けて〜」
先生は要件は済んだとばかりに大きな封筒(いろんな書類がまとめて入っているのだろう)を手渡し去っていった。
改めて送られてきたスクショに目を通すと本当に近かった。
「達希くん、また明日ね〜」
手をひらひらと振って六花も女子友達と帰路に就く。
「今のって俺に対して手を振ったんかなっ!?」
「いや、どうみても俺にだろ。聞いたか? 和樹君って言ってたぞ?」
見るからに野球部だろうといった男子二人がそんなことを言いながら昇降口に向かっていく。
「叶夢を待たせると心配させちゃうから僕も帰ろう」
一旦、家に帰って荷物を置いて着替えてから芹沢さんの家に行くことにした。
先生から送られた地図を見ながら(歩きスマホはダメ絶対)行くと芹沢さんの家は閑静な住宅街にあった。
「この家で間違いないかな?」
インターホンを押してから間違いに気づいたのでは恥ずかしいので地図を拡大して確かめる。
間違いはないようだ。
表札にもSerizawaとローマ字で書かれている。
インターホンを押す。
しばらくすると
「要件は何でしょうか?」
と案外、幼い声が尋ねてくる。
「芹沢さんと高校で同じクラスで学級委員長をやっている鮎川と申します。担任から書類を届けるよう頼まれたので来ました」
過不足の無い応答だろう。
「わかりました」
という声が聞こえてきて
ガチャっと鍵の開く音が聞こえて少しずつ扉が押し開けられる。
「芹沢さんかな?」
出てきた女の子は首を縦に振った後、横に振った。
「お姉ちゃんなら、自室にいる」
「そうか…じゃあ、この封筒を芹沢さんに……」
渡してほしいと言おうとしたところで担任から説明するよう頼まれていたことを思い出す。
「芹沢さんに説明しなきゃいけないことがあるんだ」
少女は少し考えた後
「上がる?」
と訊いた。
「お邪魔していいのなら」
普通は玄関先に呼んでくるだろうと思ったがもう、芹沢さんの家の中に入ってしまっていた。
階段を上がって二階の最奥の部屋の扉の前に来たところで止まる。
「お姉ちゃん、今いい?」
「…いいよ……」
少し低めの儚げな声が聞こえてくる。
「私はお茶とかもって来るからお話ししてて」
案内してくれた少女は扉を開けると踵を返した。
えっ……誰? みたいな顔をする芹沢さんと目が合う。
「お邪魔しちゃってすみません」
「……あ…」
僕の顔をしばらく見つめた後、短くか細く芹沢さんは声を上げた。
ベッドの上で本を読んでたらしい芹沢さんは体を起こした。
「芹沢さんと同じクラスの学級委員長になりました、鮎川達希と言います」