無自覚の罪過
「先生、娘をありがとうございました。先生がいなかったら、今頃娘は…」
「…○○さん、何度も言っていますが、どうか私が便宜を図った事は他言無用でお願いします。」
「分かっています、△△のような小さな子供の臓器なんて、こんなに直ぐに移植して頂けることなんて普通は…」
「○○さん」
「す、すいません。…先生、本当にありがとうございました。このご恩は忘れません。」
「いえ…私が勝手にやっている事ですので。△△ちゃん、退院おめでとう。手術、よく頑張ったね。」
「うん!先生ありがとう、またお手紙書くね!」
「それは楽しみだなあ」
(母親の電話の音)
「あっ、失礼します。…うん、分かった。先生、夫の車が着いたみたいですので、そろそろ行きますね。」
「はい、お大事に。」
「先生、ばいばい!」
「△△ちゃん、ばいばい」
(廊下を歩く音)
「ほら良かったじゃない。私のおかげよ、あの子供の命が救えたのは」
「…確かに、あの子は元気になった。だが、なんなんだあの適合率は」
「あら、そんなに不思議かしら。…悪魔の用意した臓器に縋る様な男のクセに、細かい事気にするのね」
「はっ、適合率”100パーセント”が細かい事とは、恐れ入るな」
「だから、拒絶反応なんて起きるワケもなくあの子は助かったのよ?命が助かる事に比べたら、そんな些細な事、どうでも良いとは思わないのかしら」
「…未来の医療技術とでも言い訳された方がマシだな」
「ふふ、”嘘”だけは吐いたことが無いのが私の自慢なのよ」
「じゃあ、あの子はこれからも元気に過ごせるんだろうな」
「それはその子次第じゃないかしら?」
「真面目に答えろ」
「やぁだ、怖い男ねぇ。…大丈夫よ、”その子”は。」
「…ふん」
悪魔から言質を取ったからといって、信用に足るものではとても無かった。だが、彼女の言葉を信じるしか無い俺は、それからも彼女から臓器を受け取り続けた。移植手術の頻度を不自然でない程度に抑え、カルテを改竄し、しかし、行った手術の患者は必ず助ける。そうして、気づけば数年が経っていた。
「父を、ありがとうございました」
「いえ、お大事に」
「母を、ありがとうございました」
「はい、お大事に」
「せんせー、ありがとー!」
「うん、お大事にね」
「先生、ありがとうございました」
「お大事に」
(お礼とお大事にがループする)
「ーー先生、先生?」
「あ、あぁ、今日の手術は◻︎◻︎さんだったかな?」
「いえ?今日は手術の予定はありませんでしたし、というか◻︎◻︎さんってどなたでしょうか、すいません」
「は?…確かつい先月に予定日を今日にしたはずだが」
「す、すいません、確認してきます」
「はぁ、頼むぞ」
しかし、確認させたところ、本当に手術の予定は無かった。それどころか、俺があの悪魔と契約したあの時にまで、時間が遡っていた。
「夢、だったのか?」
いや、夢なんかじゃなかったはずだ。今でも自分が手術をした人たちの顔は直ぐに思い出す事が出来る。取り出した生暖かな臓器の感触、血管を繋ぐ時の緊張感、移植した臓器がその役目を果たすべく、生命の熱を持っていく感動。嘘じゃない。俺が救った命は、現実だった。リアルだったんだよ!本物だった!だって、そうじゃなけりゃ俺は何の為にーー
「夢じゃ、ないわよ」
「あっ、悪魔!?一体どういう事なんだよ、こんな話聞いてないぞ!ぜ、全部説明しろ!!あれが夢なんかじゃなかったって!!」
「ふふ、落ち着きなさい。貴方が救った命はホンモノ。貴方のおかげで沢山の命が救われたわ。…だけど、手を組んだ相手が悪かった。貴方の悪かったところはソコだけ」
「説明になってないぞ、ちゃんと答えろ!!」
「今に分かるわ。救われる命があるなら」
「ーー失われる命もあるってこと」
(テレビのニュースの音)
「速報です。○○ △△ちゃん6歳が、突然臓器を消失し、出血死する事件が起きました。警視庁は原因を解明を急いでおりーー」
「お、俺が最初にお前の臓器で助けた子じゃーー」
「速報です。☆☆さんn歳が、突然臓器をーー」
「速報です。☆☆さんn歳が、突然臓器をーー」
「速報です。☆☆さんn歳が、突然臓器をーー」
「ぐっ、う、やめてくれ、やめてくれよ、やめろ!!!!!!」
(臓器の無くなる音)
(倒れる音)
「速報です。主人公さんn歳が、突然臓器をーー」




