第3話 【スキルセレクター】の強さ
目を覚ますと、見たことのない天井がそこにあった。俺はすぐに理解した。ああ、本当に転生したんだなぁと。
手や足を動かしてみる。現実世界とまったく同じように機能した。
ついに異世界に来れた!!!!!
舞い上がって踊ろうと立ち上がったその瞬間、思いとどまった。理由は簡単だ。
HPが2しかないからだ。
走ってつまずいて枝が手に刺さっただけでワンチャン死ぬ。それが今の俺だ。
まさに、ギリギリ、命がけの生活になるだろう。それでも俺は目指す。俺が目指している目標は、それほどに価値がある。
さてと、やることはすでに決定している。
計画の4段階目までを表示しておこう。
1.スライムを倒しまくる。そして【根性】スキルをまずは獲得する。
2.それからもスライムを倒しつづけ、得たスキルポイントを、【獲得pアップ】というスキルに全振りする。
3.【獲得pアップ】のスキルのランクが最大になり、その後、十分なスキルポイントが貯まるまでスライムを倒し続ける。
4.スライムを1匹選択し、パートナーにする。
ここはダンジョン第一層。
草原が広がっていて、スライムしかいない。
この拠点からずっと離れたところにはスライム以外の魔物や、プラスライム、ピノスライムなど、ただのスライムよりもほんのすこし上位の魔物も存在する。
まあ、そいつらには用はない。俺が最初にやること。それは、ひたすらスライムだけを倒すこと。HPが2しか無いのだから、慎重になるのは当たり前だ。
外に出て、ゆっくりとスライムに近づく。そして、足で蹴った。スライムは死んだ。
スライムとは、この程度の生き物である。ゲーム時代からよく知っている。これで、ゲームと違ってスライムが強かったり、いきなり攻撃してくるようなら、その時点で俺は詰んでいた。
まあ、神様がわざわざ嘘をつくとは思えない。この世界は本当に、あのゲームと同じと考えていいだろう。
さて、この調子でどんどん行こう。
6時間後。
疲れた。非常に疲れた。
思い切り蹴飛ばすだけでスライムは死ぬのだが、6時間歩き回っていたことに対して疲れたのだ。
ちなみに、この世界で食事は不要だ。まあ、もしダメージを受けていた状態で食事をすると、HPが回復するというメリットがあるし、単純に、美味しいからという理由で食事をする人も多い。
また、食事をした後の方がスキルポイントが多く手に入ったり、精神的な疲れを取ることもできる。加えていうなら、食べる必要は無いが、食欲は存在する。だからこそ食べ物を、美味しいと感じるのだが。
このように、食事には沢山のメリットがある。だが、必須というわけでは無いのがこの世界だ。
俺にはまだ食べ物が無いので、しばらくは食事とは無縁の生活を送ることになるだろう。食欲は湧くだろうが、なんとか我慢できる程度のものだ。
睡眠についても似たようなもので、睡眠欲はそこそこ湧くものの、実際には不要である。
ゲームにおいて、この世界の住民は、夜になるのに合わせてちゃんと睡眠を取る文化が主流だった。睡眠を取ることにもメリットは多数存在するし、欲求に従うことは自然であると言える。
さて、関係のない話はこのくらいにして、そろそろまたスライム狩りを再開しよう。弱い魔物ほど、殺してもすぐにまた誕生する。それがダンジョンの基本である。
俺は、三年以内に目標を達成しなければならないので、食事も睡眠もしている暇はない。先程の、「疲れ」という概念さえ、本当は必要のないものなのだ。なぜなら、実際にHPが減っているわけでは無いのだから。
それでも休憩した理由は、精神的に安定していた方が注意力も上がるし、効率がいいからである。
というわけでこの後も、おれはスライムだけを狩り続けた。
そして、【根性】というスキルを得るために必要なポイントが貯まったので、【スキルセレクター】を発動し、【根性】を獲得した。
通常スキル【根性】ランク無し
〔条件〕
○最大HPが2以上の人が獲得可能。
○最大HPの80%以上が残った状態から、一撃でHPがゼロになるダメージを受けた時に自動で発動。
〔効果〕
○HPが1だけ残る。
そう、このスキルは、まさに俺のためにあるようなスキルだ。最大HPが2しかない俺にぴったりである。というか、この【根性】のためだけに、おれはこの初期ステータスを選んだのだ。
この【根性】というスキルこそが、おれの目標、いや、夢のコンボのための重要なキーである。
さて、これで、不意な即死はまずなくなった。少しは安定して気楽にスライム狩りが出来る。
それからも長いこと狩りをつづけ、
ある程度スキルポイントが貯まる度に、
今度は全てのスキルポイントを、【ポイント獲得pアップ】というスキルのために使用した。
あれからさらに6時間が経過して、すでに【ポイント獲得pアップ】を獲得していた。
通常スキル【ポイント獲得pアップ】
ランク下
〔条件〕
○スキルポイントを得た際に自動で発動。
〔効果〕
○得られるスキルポイントが、100パーセント増加する。
簡単に言うと、現在おれは、通常の2倍ものスキルポイントを得られるということになる。
はっきり言おう。これだけのスピードでスキルを習得できることは異常だ。例えば小さな時から剣の腕を磨き続け、剣を用いて魔物を倒し続けたとしても、運が良ければギリギリ成人までに【剣術】のランク中 に届くかどうか、といったところである。
【スキルセレクター】がどれだけ強力なものなのか、お分りいただけただろうか。
どうしてこれほどまでに効率が違うのかを簡単に説明しよう。
魔物を倒した時、数多くのスキルに、勝手にスキルポイントが割り振られる。少なくとも10種類、多ければ100種類ほどのスキルに対して、スキルポイントが分散して割り振られてしまう。その中にはもちろん、一生入手不可能な物も含まれる。
前に説明したように、人間が得ることのできるスキルは5つまでだからである。
スキルポイントが少しずつ割り振られ続け、一定値まで溜まりきって初めて、そのスキルを獲得する。
そういう仕組みなのである。
だからこそ、スキルを得て、スキルのランクを上げることは困難を極める。
【スキルセレクター】の威力を改めて理解していただけただろうか。