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記憶は彼方にとんでった

記憶は彼方にとんでった3~今は亡き愛すべき妻よ、ワシはどうすれば良い?~

作者: 陸昼すず

※時間を遡って、今回は元悪役令嬢のお父さん視点

寒さが厳しくなってきた秋の終わり頃だった


「貴方……お願い……私の、子供達を……」

「分かっておる、分かっておるから。あぁ、ラザメイラ……ワシを置いて、いかないでおくれ……」


最愛のワシの妻、ラザメイア

彼女はワシら最後の子供、妻に良く似た産まれたての1人娘を抱きながら静かに息をひきとった




それが今から5年前の出来事


おっとこれは失礼、自己紹介が遅れたな。ワシの名前はオースティン・ドルサーベル、爵位は公爵。主に武官として働き、我が王国の軍事顧問を拝命されて任されておる


最愛の亡き妻に託された子供は全員で3人


ワシそっくりの長男と次男に妻そっくりの長女

正直、長男と次男はワシを見ているようであんまり可愛げないが無事にくすくすくと育っている。が、妻に似た末っ子でもある長女エルメラは、もう目に入れても痛くないほど愛らしく5才でありながら神童と呼ばれる程に礼儀正しく賢く育ち、その姿はまさに神から与えられたドルサーベル家の天使!いや女神だ!!


……うむ、いかんな。可愛いエルメラの事となってしまうとつい熱くなってしまう

1日か、いや2日かけても語り足りないぐらいの我が家の天使エルメラに、なんと陛下から第3王子のグリフィス殿下の婚約者にぜひ、とお話が舞い込んできた


まだ5才、そうワシの天使エルメラはまだ5才なのだ

けれどもしかし、王族教育の期間を考えれば確かに妥当な年齢である。渋々ながらもお受けしますと陛下に答え、エルメラに伝えれば驚いた顔をされたが頷いて


「ドルサーベル家の恥にならぬよう、頑張りますわ。だからそんな悲しいお顔をしないで下さいな、お父様」


あぁ、ワシにまで気遣ってくれるなんて何と優しく出来た娘であろうか


正直、何度か剣の稽古をつけたことのあるグリフィス殿下は軟弱そうで軽そうだし、愛しい娘を頼みたくないのが本音だがこれから鍛えてやれば良いかと楽観的に考えておった


だがワシのその考えは甘かった


親元を離れ王宮学園に一緒に通い始めたグリフィス殿下は、婚約者であるエルメラを差し置いて他の女にうつつを抜かし始め、こともあろうにエルメラに仕事を押し付け周りの取り巻きどもと共に非難しているとゆうではないか


何という侮辱!我がドルサーベル家を舐めているとしか思えない行動に怒り、エルメラに話を聞きに行ったが


「大丈夫ですわ、お父様。グリフィス殿下は私を愛しているとおっしゃって下さっていたのですから」


そう気丈にそして頑なに言うものだから、せっかく陛下を説得(恐喝)してとってきたグリフィス殿下との婚約破棄の書類を渡す事が出来なかった

そんな頑固で一途なところまでワシの最愛の妻に似なくても良かったのに……いや、それを含めてもエルメラは素晴らしい子に育っているんだなと納得をしていた


そうして迎えた学園の卒業パーティー

家族総出で我が家女神エルメラの卒業を祝おうと準備をしていた最中(さなか)、エルメラの迎えに出した家の従者が駆け込んできて


「オースティン様!!エ、エルメラ様が卒業パーティーでグリフィス殿下に階段から突き飛ばされ、怪我をおったと!!」

「何ぃ!?あの馬鹿者!ついにやりおったなっ!!」

「バカだ。アホだ。と常々思ってましたがついに妹に手を出すとは……父上、これは戦争ですぞ」

「兄上の言う通りですぞ父上!!我がドルサーベル家を舐めているとしか思えません!!」

「言われずとも分かっておるわ!!アルフィ!ベルダム!!すぐに用意せい、城へ向かうぞ!!」

「「はい!父上!!」」


なんと心強く勇ましい返事か

妻よ、息子達はこんなに逞しく成長したぞ


そう感動を胸に、そして怒りを燃やしながら息子達と共に王城へ完全武装で乗り込む。慌ててふためく兵士達をしり目に陛下がいらっしゃるであろう謁見(えっけん)の間に向かえば、玉座(ぎょくざ)に座わって何やら頭を抱えておいでの陛下と慌てている数人の文官ども

これはちょうど良いとワシは陛下にむかって声をあげた


「陛下よ!我がドルサーベル家の娘、エルメラについてお話が!!」

「オースティン公爵!?待ってくれ、こちらも今大変なことになっておって……」

「ワシらの方が最重要案件ですぞ!陛下!!度重(たびかさ)なるグリフィス殿下の失態、あまつさえ我が家の天使、いや女神であるエルメラに怪我を負わせたなどとは王家はどうゆうおつもりか!!」

「今ついでとばかりにノロケるなオースティン!!貴公の親バカ、娘バカの話はもう懲り懲りだぞ!!」

「何を言いますか!陛下に申し上げたの話はほんの一部で娘エルメラの素晴らしさは語り足りないぐらいですぞ!!何でしたら今からでも……」

「それだけは切実に止めてくれ!オースティンよ!!」


なんと悲しい事か

アレだけ陛下には我が娘エルメラの素晴らしさを伝えておいたのに届いてなかったとは……


そうな驚愕に震えるワシの肩をポンっと叩かれた

ぐるりと勢いよくそちらを見やれば、同じ公爵家で顔馴染みでもある文官長を勤める宰相(さいしょう)のモーリス・カタトロフの姿


「落ち着きなさい、オースティン。エルメラ嬢でしたらコチラですでに保護しておりますから」

「おお、それはまことかモーリス!ワシとしたことがつい急いでしもうての」

「貴方のソレはいつもですけどね。あと完全武装で城に乗り込むのは流石に今後、止めていただきたい」

「これはすまんかった。なに、ついに陛下がワシらを見限ったものとばかり思うてしまってな」

「なんとまぁ……陛下、だそうですけど?」

「見限ってなどおらんわ!むしろこっちから急いで伝えようと思っておったら、突撃してきたのはオースティンの方だぞ」


そうゆうことだったのか

ワシとしたことがエルメラの事が心配過ぎて焦ってしもうたわい


「とりあえず、だ。今回の件で息子のグリフィス他数名が国家反逆罪を犯していたことが判明した」

「主犯は別の人物ですが、グリフィス殿下は知らなかったとは言え犯罪に加担した者。陛下がグリフィス殿下から第3王子殿下の身分を剥奪することを決定しました」

「すまなかった。我が息子が大変迷惑をかけたな、オースティンよ」

「なんと!?頭を上げてくだされ陛下!ワシは娘が無事ならばそれで良いのです!!」

「それでもこれは私なりのけじめだ。申し訳なかったな、オースティン」


そう言って、頭を下げる陛下

慌てるワシに対して隣に立っていたモーリスが続ける


「オースティン、王位剥奪と共にグリフィス様とエルメラ嬢の婚約も無かったことになりました」

「兼ねてから願っておったであろう?流石に今回の事は私ですら庇いきれんから当然のことだがなぁ」

「……あぁ、そうでした。伝えそびれてましたが、保護していますエルメラ嬢はどうやら落下の衝撃から記憶喪失になっているそうで」

「「なんだって!?!?」」


驚きのあまりハモった陛下とワシらを無視して、モーリスはさらに告げる


「今回の件はエルメラ嬢の方で把握し、きちんと対策も立てていたようで記憶喪失以外に問題はなく……」

「待て待て待て!!モーリスよ、なぜそれを最初に言わん。記憶喪失は大問題だと思うんだが??」

「そうだぞモーリス!!なぜそのような重要な事を迅速にワシに伝えないのだ!!」

「こうやって、煩くなるからに決まってるじゃないですか。治療に伺ったところ、エルメラ嬢ご本人もそこまで気にしていない様でしたし」

「いやいや。気にしてないってエルメラ嬢よ、それは……」

「あぁ、ワシの天使が、女神が。妻になんて顔をすれば良いのか……」


慌てふためくワシと、また頭を抱えた陛下を気にする様子などなく淡々と言い放ったモーリス

そんな奴に慌てた様子の文官が1人かけより何かを伝え、その話を聞いて少しだけ眉をひそめた


「そうですか、それはまた……。オースティンに陛下、おめでとうございます。エルメラ嬢と第2王子殿下のアレックス様が婚約者同士になったそうです。良かったですね、元通りですよ」

「「なんだって!?!?」」


おぉ、なんということだ

もうワシの想像を越えて全てが進んで行くぞ




あぁ、今は亡き愛すべき妻ラザメイアよ

ワシは一体これからどうすれば良いのだ……?

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