表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のんびり生活  作者: 鏡つかさ
第2巻【世界は美しい】
9/9

第4章『クリスマス』

 ここはアリマ王国か。


 思ってたよりとても立派な国のように見える。


 初めてイレナ町へと到着したように町の門番らしき兵士に挨拶と軽い質問をされ、早々に入ることを許される。


 ガタゴトと馬車が町中を進んで行く。


 見る限り人、人、人。


 とは言ってもその中に亜人や獣耳も混じっている。


 イレナと比べてこっちのほうはもっと大きい。


 雲の上に聳え立つのは高層ビルみたいな建物。


 もちろん、小さな建物もあちこちに散らばっていた。


 人は優しそうに見える。


 馬車が町中を進んで行くにつれ、よくこっちを見て手を振りながら微笑みかける。


 それに対して俺は微笑んで小さく頷く。


 目的地はとりあえず、宿屋だ。

 

 徹夜をしていた(何年ぶりかな)ので、ちょっと休みたい。

 

 残るのはあと一日目。


 明日、この手紙を王様に渡すことにした。


 女の子たちに目をやって、光景をキョロキョロすること気づいた。


 楽しんでいるように見える。


 でも、その気持ちが俺もわかる。


 わくわくしてる。


 これは冒険か?


 すっごく楽しかった。


 任務を受け入れて良かった。


 ましろたちも。


 まあ、そんな気がする。


「ああっ、

 凄いわ!!

 ビル大きい!人多い!

 光景めっちゃ綺麗!」


 とそう言った威厳に打たれたアリス。

 

 同意します!


「あとで観光しに行くから待ってて」


 そう言うと、町にさらに進んで行った。




 しばらく時間がかかると、やがて宿屋を見つけた。


 看板を飾っているのは己の尾を噛んで環となった蛇だ。


 ウロボロスだ。


 その名は『ザ・サーペント』。


 ええ?


 そういうことがここもあるか。


 すげぇ。

 

 見た目は三階建ての建物だ。


 煉瓦と木でできた、けっこうがっしりとした作りに見える。


 両開きの扉をくぐると、一階は酒場というか食堂らしき感じになっていて右手にカウンター、左手に階段が見える。


 イレナとあまり変わらぬ点だな。


 唯一の違いはやはり大きさ。


 ただそれだけ。


 でも文句なんかいないから大丈夫。


 そう考えると、元な声が聞こえた。


「いらっしゃーい。

 食事ですか。

 それともお泊まりで?」


 カウンターにいたお姉さんが声をかけてくる。


 青毛のポニーテールに、とても元気な人間のように見える。


 年齢は二十歳前後というところか。


 お姉さんに近づき、俺は声をかけた。


「えっと、

 宿泊をお願いしたいんですが、

 5泊いくらになりますか?」


「ウチは5泊、

 そちらの方も含め、

 2000エリスですよ」


 2000エリス?

 

 かなり安いよね。


 ポケットから財布を取り出して、それをあけて中から2000エリスピッタリ取り出すと、お姉さんに渡した。


「はい

 これ。あと、」


「ありがとうございます。

 じゃあここにサインをお願いしますね」


「うん。

 分かった」


 お姉さんはどこかから羽ペンと墨インクを取り出してこっちに渡した。


 その羽ペンを手に取って墨インクに浸すとカタカナで自分の名前を書いた。


 すると後ろにいる女の子たちに渡した。


 自分の名前を書いて、お姉さんに羽ペンと墨インクを渡した。


 それを手に取って引出しのような音が聞こえた。


 その中から5つの鍵を取り出した。


 

「じゃあこれが部屋の鍵ね。

 無くさないように。

 部屋の番号は鍵に書いてある。

 トイレと浴場は一階、

 食事はここでね。

 あ、どうする?

 お昼食べる?」


「あ、お願いします。

 朝からなにも食べてないもんで…」


「じゃあなにか軽いものを作るから待ってて。

 今のうちに部屋を確認してひと休みしてきたらいいわ」


「わかりました」


 6つの鍵を受け取ってましろたちに渡すと階段を上る。


 25か。


 自分の部屋の番号を探すと、見つけた。


 扉を開けて中に踏み入れた


 六畳くらいの部屋で、ベッドと机、椅子とクローゼットが置いてあった。


 正面の窓を開けると、宿の前の通りが見える。


 なかなかいい眺めだ。


 子供たちがはしゃぎながら道を駆けていく。


 それを見ると、微笑まずにはいられない。


 いいなぁ、青春って。


 俺には青春はなかったけどさ。


 首を振って、気を良くして部屋に鍵を掛けると、階段を下りるといい匂いがしてきた。


「はいよー。お待たせ」


 気楽な声


 あいつ本当に元気なヤツだな。


 食堂の席に着くと、サンドイッチらしき物とスープ、そしてサラダが運ばれてきた。


 そしてやはり、美味かった。


 でもまあ、ましろはたちは一体どこかな?


 まだ部屋にいるだろう。


 まあ、そりゃしょうがない。


 徹夜したんだからさ。

 

 じゃあ、俺も寝ようかな。


 そう決めて、お姉さんに礼を言うと、もう一度階段を上った。


 自分の部屋の扉を開けて中に入った。


 すると服を脱いで枕元に置いて、俺はベッドに横になると、盛大なため息を漏らした。


 気持ちいいな。


 暖かくって気持ちいい。


 これで寝ることができます。


 はぁ〜。


 満足。


 ………


 うん。


 イレナとだいぶ違い。


 アリスの言葉を借りればこっちは凄いんだ。


 ふぁ〜。


 あくびをした。


 まあ、そろそろ寝るか。


 そう決めて、ベッドに大の字のまま目を閉じた。


 全てが暗闇に包まれていた。


 ………


 ………


 ………


 心地よい沈黙。


 どれぐらい時間が掛かったのかはわからないのだけれど、いつの間にかようやく、眠りについた。




 朝、微睡みの中で目を開くと正面にぼんやりと女の子の顔が見えた。


 差し込む朝日の中、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てて、俺の横で眠りについている。


「………あ、アゼリアか……」


 嫁の一人である少女の顔に安堵して身をよじるとまた目を閉じる。


 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はぁ?ちょっと待って。


 再び目を開くと、ましろの可愛いらしい寝顔に迎えられた。


 そしてわけのわからない理由で、体のほうが重い。


 むしろ重すぎる。


 動きも拘束している。


 気付いたのはそのときだった。


 挟まれた。


 俯くと、アリサの小さな体を見た。


 そして背中で柔らかい感触を感じた。


 胸だ。


 しかも大きな方。


 絶対にティアだ。


 つまり、俺の脚にくっついているのはアリサに間違いない。


 なんだみんながここにいるんだろう?


 昨日、俺は確か一人で就寝したはずだが、どうやら夜中でみんなが俺の部屋に忍び込んできたらしい。


 何故?


 ってか息苦しい。


 何かしないと死ぬかもしれない。


 ………


 死ねないけど。


 それにしても、今何時?


 腹減った。


 なにか食いたい。


「ちょ、おまえら、起きてよ」


 それを言うと、体を起こそうとしたが、やはりできない。


「みんな、頼むよ、起きて」


 と、もう一回言ったが、やはりダメだった。


 声が小さいかも。


 だったらやるしかない。


 この場合では、2つの選択肢がある。


 1つ:叫ぶ。


 そしてもう1つ:一番近い女の子の胸を口で弄る。


 俺が選ぶのは一目瞭然だ。


 アリサ、おまえは犠牲だ。


 すまん。


 そう言うと、頭をアリサのほうに近づけた。


 どんな味がするかな、こいつの乳首。


 お楽しみ。


 ゆっくりと彼女の胸に頭を近づけて、もうちょい。


 もうちょい。


 もうちょい。


 額にアリサの寝息を感じた。


 暖かい。


 ほんの少し、口を開いた。


 すると、


「旦那様、

 なにしているの?」


 と、後ろから訝しげな声が聞こえた。


 アゼリアだ。


 なんで、いま?


「いやぁぁぁ、

 そりゃ………」


「まさか、

 アリサちゃんの乳首を味わおうとしたか」


 知ってんかよ!


 おまえ一体何者なんだ?


 探偵か?


 吸血鬼探偵だよな?


「うん、

 そうだよ。

 どんな味がするかぁって。

 もしかして、嫉妬か?」


「いや、

 全然。

 ただ、4Pしたらいいなぁと思ってて」


「おまえ、

 一体自分がなにを言ってるのかわからないの?」


「わたしは546歳の吸血鬼だよ。

 一体自分がなにを言ってるなんて愚問ですね、

 旦那様」


 うわっ〜


 ヤバイヤツだなぁ~






 12月25日、クリスマス。


 そして…まあ、みんなもう知っているだろう。


 クリスマス。


 そして、俺の誕生日。


 言うまでもなく、まだ生きているので涙が出るほど嬉しいけど、俺の中に潜んでいる、敢えて言うと悲惨な想い出が次々とこの細かい胸に蘇ってきて、止めまずに、手加減せずに、俺を襲い掛かって全身を支配していた。


 そしてそれに対して、俺はなにもできずに、全ての痛み、全ての悲しみ、全ての苦しみを受け入れて、まるで二度と地上に戻ることができないほど深い、とても深い穴に落ちた。


 ………


 呪いだな、クリスマスって。


 思えば、俺が入院していた頃、そして家族が死んでしまっていった頃はクリスマスだった。


 ………


 でもそりゃもう、昔の話なんだけど。


 過去を忘れざるを得ない。


 この貫けない壁を乗り越えられるためにそれしかない。


 まあ、言うは易し行うは難し。


 ようやく起きて、身仕度を整えると、俺たち六人が食堂に下りていって、食事を取っていた。


 同じく俺も席につくと、お姉さんが食事を運んできてくれた。


 朝飯は慎ましい野菜スープにトマトサラダ。


 美味そう。


 食べ終わると、早速この任務を果たすことにして、町にある城へと向かった。


 俺たちはいま、城の番人らしき兵士に尋問さている。


「なぜ、

 君たちがここいるの?」


「はい。

 アリマ王国の王様にこちらの手紙を渡すという任務に帯びられたのですが…」


「任務?

 誰から?」


「ルシアの王様からですよ」


「ルシアの王様?」


「はい。

 そうですよ」


 それを言うと、ポケットから手紙を取り出して番人に見せた。


「あ、

 それはルシアの印だ。

 本当だ。

 なんで、君がそれを持ってるの?」


「もう言いましたけど」


「あ、あぁぁ。

 そうなんだ。

 じゃあ、認めるが…名前は?」


「拓也です。

 鍵山拓也」





 手紙を持っているから俺だけが城に入ることを許された。 


 広い。


 1言で城を表すと、やはり『広い』という日本語において極々普通の言葉のほうがピッタリだと思う。


 でも空っぽ。


 どうにも人の気配が見えない。


 ヤバイ感じがする。


 足を速めて、目の前の長い階段を上った。


 そして見た。


 王座。


 でもやはり誰もいない。


 たぶんさらに奥かな。


 けど、どっち道を選べばいいのか?


 俺の目の前には、道がある。


 が、その道が2つに分かれていた。


 右?


 それとも左。


 もし、違う道を選んだら、一体なにが起こるのかさっぱりわからない。


 このような状況では、影分身の術が本当に役に立つ気がする。


 ………


 この力を使えば、たぶんいけるかもしれない。


 でも、どんな技を使えばいいのかな。


 人間体温調節検出器?


 そもそも一体なにそれ?


 現実に存在するか?


 まあ、この世界なら存在しないはずだが、俺が元いた世界なら存在するに間違いない。


 見たことないのだけれど、そんな気がする。


 でもまあ、そりゃいまのところ無意味だ。


 ………


 じゃあさ、五感を強化したら、どう?


 うん。


 悪くはない。


 耳や目、口や鼻、手まで魔力を送れば、たぶんできるはず。


 いや、できるに違いない。


 ただ……問題は一定の魔力流が必要ってことだ。


 まあ、そんな気がする。


 でも、アリアの力がある。


 そして彼女は神だから魔力容量が無限だ。


 とは言え、俺の魔力容量はどう?


 アリアによって俺は半神なんだけど不完全。


 つまり、俺には制限がある。


 でももし、もう一人の俺と一心一体になったら、その制限を凌駕することができるが、ここに残ることができない。


 悔しいけど仕方無い。


 それはさておき、そろそろ俺の理論を試してみるか。


 それを言って、目を閉じて魔力を集めると、身の中にある魔法回路から迸り出てくるその力を抑制する為に魔力流を緩める。


 意外と難しかったが、なんとなくできた。


 その後、耳に送った。


 ………


 ………


 ………


 音が微かだが聞こえる。


 誰かの号泣。


 右から。 


 やはりなにか悪いことが起こった。


 でも、チャンスまだある。


 魔力流を止めて、俺は右の道に目をやった。


 すると、その道を走り始めた。




 扉。


 目の前に、とても大きな扉がある。


 それを見ると、怯まずにはいられない。


 急に扉を開けたらなにが起こるのかさっぱりわからないのだが、それしかできない。


 まず、深呼吸。


 俺は息を深く吸い込んで一気に吐いた。


 これ何回も繰り返して、やがて目を再び開けて扉に向かった。


 開けた。


 迎えられてきたのは、人。


 そしてベッドに横たわる老人。


 苦しそうな顔をしている。


 あ、なるほどな。


 そういうことか。


 俺はため息をつくと、前に踏み出したが、


「なにやってんのか、

 貴様?」


 と、声が聞こえた。


 目の前には、鎧を纏った騎士みたいな人が立ち、鋭い武器を持っている。


 返事として俺は手紙をポケットから取り出した。


「落ち着いてください。

 任務です」


 と、そう言う。


 とは言え、よく見たらこれってかなりヤバイっすね。


 あとで謝る。


 そう決めて、俺は前に踏み出そうとしたが、遮られた。


「この!」


 そう言うと、騎士の1人が襲い掛かったが、俺はその剣を見ると、真っ2つに割れた。


 テレキネシスって、本当に便利だな。


 でもいまのって危なかった。


 いきなりなんで、俺を襲い掛かったの?


 俺はなにも悪いことしていないのに。


 変だな。


 とは言っても、もし知らぬ人が急に俺の部屋に飛び込んだらきっと、あの人に対して攻勢に出る。


 責められない。


 俺のその行動に対してみんなは体を強張らせる。


 そしてそのとき、俺が気付いた。


 やべー。


 犯罪を犯したよなぁ。


 犯したってゆーか犯している。


 間違いない。


 とりあえず、なにかさらに悪いことが起こってないうちに誤解を解こう。


「俺は敵ではありません。

 ルシア王国からのこの手紙を届けに来ました」


 俺が言うと、まだ手にある手紙を翳した。


 でも足りない気がする。


「ですが、王様は病気になったようだから、

 回復しようと思って…

 もしかして、嫌ですか?」


 と、口からでまかせを言う。


 もちろん、そりゃ俺のつもりではなかったが、もう仕方無いよな。


 でもそりゃ大丈夫。


 回復魔法や加護魔法が得意、女神様の力があるから。


 それさえあれば、なんとかなるさ。


 俺の宣言に対してみんながなにも言わなかった。


 ただ俺を見つめてくるだけ。


 やめて。


 痛いから、おまえらの視線。


 それを無視して、俺はため息をつくと再び手紙をポケットに入れた。


 それから王様がいるベッドへと向かった。


 さて、回復魔法か。


 なにを選べばいいかな。


 ありとあらゆる聖なる物を司るアリアさまから力を貰ったので、回復魔法をめぐってもうエキスパートじゃない?


 だったらこういうの余裕であるはずだが、回復魔法を一つも知らない。


 まあ、蘇生以外。


 つまり、こいつを回復するためにまず、死ななければならないってこと。


 避けることができないんだろう。


 ため息をつき、俺は王様の顔をまじまじのぞき込んだ。


 苦しそうように見える。


 なんかちょっと不安。


 だが、もうすぐ終わるから待ってて。


 頭の中でそう言うと、唾を飲み込んだ。


 すると左手を差し出して目を閉じた。


 その後、息を整えると魔力を集め始めた。


 ………


 ………


 ………


『そんなことできないよ』


 そのとき、頭の中に聞き慣れた声が聞こえた。


 紛れもなくアリアのだが、一体なにが用かな。


 彼女を無視するメリットの一つを見つけず、俺は返事することにした。


【はぁ?

 どういう意味?】


『もしかして、

 忘れてたの?

 聖なる物を司る女神って。

 アンタがしていることは無意味だ。

 犯罪だ』


【犯罪だと分かってる。

 けどこいつを回復するためにこれしかできない】


『いや、

 できるけど死ぬという呪文なんかないわよ』


【じゃあ、

 どうすんなよ?】


『アンタ、

 本当に馬鹿だな。

 その体にあたしの力が流れている限りほぼなんでもできるよ』


【じゃあ、

 例えば普通に《ヒール》と言ったら回復できんの?】


『一応。

 でもまず、

 原因を見つけなければならない。

 医師さんみたいに診断を行う。

 それをするためには標的に少量な魔力を送る』


 言われるがままに王様に少量な魔力を送った。


【うん、

 それで?】


『次は診断が問題を見つけた後、

 ヒールって言って』


【はぁ?

 それだけ?】


『神の力舐めないでよ』


 意外と簡単だな。


 じゃあ、やってみよう。


 目が閉じたまま、聖魔法の波動を送り出した。


 すると、待つ。


 ……


 ……


 ……


 ……


 あ、あった。


 毒だ。


 さて、


 言われるがままに《回復魔法:ヒール》っていう呪文を唱えた。


 するとなにもない。


 10−13秒が経つと、老人がようやく目を開いた。


 ゆっくりと上半身を起こして、部屋を見回す。


「パパ!」


 俺の隣から声が聞こえた。


 あ、そうなんだ。


 こいつは爺ちゃんの娘。


 俺の存在を無視して、隣にいる12歳くらい女の子は立ち上がってベッドに飛び込むと、爺ちゃんを抱きしめて。


 それに対して爺ちゃんは抱きしめ返した。


 本当にほのぼのだなぁ。


 なんかちょっと羨ましいぞ。


 周囲に安堵のため息が聞こえた。


 部屋中に響き渡る。


 それを聞くと、仕方無く微かに微笑んだ。


「君は?」


 と、そんな質問が聞こえた。


 え?


 もしかして、俺のことか?


 ベッドにいる爺ちゃんに目をやって、そしてやはり娘を抱きしめながらこっちを見上げてくる。


 仕方無く俺は爺ちゃんの顔にのぞき込むと、言う。


「俺は鍵山拓也です」


「カギヤマタクヤ殿?

 もしかして、

 鷲を救ってくれた?」


 その質問に対して俺はなにも言わずにポケットから手紙を取り出して王様に渡した。


 やはり急にそんなことを尋ねたら困るよ。


 でもまあ、物事の明るい面を見ればこうして任務を果たした。


 無事に。


「ルシア王国からなのです」


 それを言うと、手紙を王様に渡した。


 そして見た。


 なんで、そんな目で俺を見ているのだろう?


 ため息をつき、踵を返した。


 そして振り返ることなく部屋から出た。


 あいつの目……もうみたくなってきた。


 だってその目には光が輝き、まるでヒーローを見ているようだからさ。


 けどまあ、実際ってさ、残念だけど俺なんかヒーローじゃないよ。




 雪が降っている。


 任務を果たした後、アリマ王国の観光をすることにした。


「凄い!

 こんなに大きなビル、見たこと無いんだ!」


 と、目の前のビルを見ながら、アリスはいそいそと叫んだ。


 看板を見た。


 それを飾っているのは二匹の踊っているドラゴンだ。


 その名は思った通り『ダンシング・ツイン・ドラゴン』。


 たぶん、レストランだ。


 けど俺でもびっくりした。


 本当に凄いよな、ここ。


 その後、俺たちはあてもなく彷徨い歩き、風景を見ていた。


 イレナと同じように堂々たる石造りの噴水が中央にあるが、イレナと違ってその色が青空から降ってくる雪のように白い。


 一方でイレナのは淡褐色。


 噴水を飾っているのは天使みたいな彫像。


 なんで、あんなことがここにあるのだろう?


 中世ヨーロッパでそんなことあったのか?


 不思議。


 その噴水を囲んでいるのは夥しい群衆。


 傷口に侵入する、無数とも思われる蛆のごとくうじゃうじゃ集まって、永遠に続くという印象を与える立ち並んでいくビルを見ている。


 たぶん、俺らのような観光者だが…


「おい!

 パパパパ!

 こっち」


 と、アリスの声が聞こえた。


 彼女がいるところに目をやって、俺は手をポケットに入れたまま、


「どうしたの?」


 と、聞いた。


 それから女の子たちがいるところへと向かった。


 そして見た。


「ん?

 クレープ?

 食いたいの?」


「は?

 クレープって何?」


 ええ?


 クレープ知らないの、こいつ?


 と言っても、やはり中世ヨーロッパ時代、クレープとか存在しないよな。


 でもどう考えても、目の前のデザートはクレープそのものだ。


 ポケットから財布を取り出して、


「おじさん、6つください」


 俺がそんなことを言った。


「はいよ」


「いくら?」


「100エリスだよ」


「はーい」


 財布を開けて中から金貨3枚を取り出す。


 するとそれをおじさんに渡した。


 その代わりに、おじさんはクレープみたいな物の6つを俺に渡した。


 それを手に取って、小さな礼を言うと女の子たちに5つのクレープを渡した。


 それから自分のクレープを噛み込む。


 うん、やはり美味いなぁ、これ。


 この味、苺か?


 俺はましろたちに目をやると、


「味見?」


 と、そう尋ねると、挙手するアリス。


 今日元気だな、おまえ。


 目の高さに屈み、手にあるクレープみたいな物を差し出す。


 それを見ると、アリスは目を閉じて、大きく口を開けると、一口をした。


 すると頬を揉みながら、噛んでいく。


「美味しいか?」


「うん、

 とても美味しいよ。

 はい、パパも味見?」


 と、クレープを差し出しながら聞いたアリス。


「じゃあ、

 いただくわ」


 そう言うと、自分の口を大きく開けてアリスが差し出すクレープを噛む。


 この味は…葡萄だな?


 めっちゃ美味い。


 でも、苺か葡萄のどっちか好きかと聞いたら、やはり葡萄より苺の方を俺が個人的に好む。


 どうして?


 さあ、自分でもわからない。


 ましろたちに目をやって、俺に微笑みかけてくることに気づいた。


 もしかして、味見?


 そして次の瞬間、俺が思ったことは間違っていたことを発見した。


「旦那さまって本当に素敵なパパですね」


 と、腫れぼったいお腹をそっと揉みながら言う。


 その顔面にはあまりにも嬉しそうな笑顔が浮かぶ。


 それに対して俺は微かに微笑んで、立ち上がると伸びをした。


 そう。


 俺は親父になる。


 僅かな19歳の男にすぎないというのに。


 あ、けど俺とましろは一線を越えたときに、ただの18歳なんだけど。


 でもこれって、本当にいいの?


 自分の子供を見捨てるというわけではない。


 むしろ、この世にある最高の宝物のごとく扱う。


 そんなこともう決まってるんだ。


 いや、悩んでいることはそれじゃない。


 ………


 あいつ、後悔してるってことだ。


 彼女の初めては俺だってこと。


 無数の嫁を持っている、この俺だってこと。


 そう。


 そんなことについて悩んでいる。


 外観は大丈夫だけど、彼女の本当の気持ちは?


 そんなことを俺が知らない。


 知りたいけど。


 まあでも、悩んでいる場合じゃないよな。


 俺はいま、大事な家族と一緒にいるから。


 そしてそれだけが十分だ。


 あいつらと一緒なら、それだけが十分だ。


「さぁて、

 どこに行きたいの?」


 そう聞くと、俺はましろたちに目をやった。


 するとましろが、


「どこでもいいわ。

 まだ朝だし、ここも広いし」


 と言った。


 すると他の女の子たち、うなずいた。


「うん、

 分かった。

 じゃあさ、とりあえずクリスマスを楽しめよう」

 俺がレストランの予約できたよ。

 午後7:00くらい行くよ」


 そう、昨日の夜中に起きた。


 そんなとき予約ができた。


 とても大変だったが、結局のところなんとかなった。


 正確な時刻を知らないが、たぶん午前8:00くらいかな。


 つまり、十分な時間あるし。


「はぁ!?

 本当ですか!?」


 こっちを見ながらアリスが聞いた。


 そして俺は、


「もちろん」


 と言った。


 こうして、時間を潰すためにアリマ王国の首都、アリマをあてもなく彷徨い歩くことになった。


 そして俺は微笑んだ。


 ここから本番だぞ。


 ……


 うん。


 これでいける。


 彼女たちのクリスマスプレゼントを選ぶためにアリマ王国を観光しながら観察することにした。






 時刻:午後5:00。


 たぶん。


 朝からずっと歩いてきたので、前に出くわした堂々たる噴水に来てちょっと休憩を取ることにしたが、やはり今日のアリスは元気すぎてどうしても腰を落ち着けない。


 結果、彼女はいま、俺が随分前からあげたクマぬいぐるみを弄んでいるところなのであるが、どうして、そんなに元気かと聞いたら、やはりクリスマスの影響かな、とそれしか答えられない。


 まあそりゃわからないのだけれど、うん、あいつらが幸せな限り俺も幸せだよーーと、頭の中で何回も繰り返すと、思わず微かに微笑んだのを感じた。


 それにしても、だいたいみんなの好みを見出したが、これくらいの情報は足るか足りないかと聞いたら、正直に言えばわからないのだけれど、前の俺と比べたらたぶん、十分だと思う。


 つまり、猛烈に彼女たちを観察した後、ようやくあいつらに贈るべきのクリスマスプレゼントを発見したっていうことだが、嬉しいかどうかそんな重要で綿密な情報を知らないので、やはりちょっと緊張している。


 まあそりゃ仕方無いよな。


 とりあえずプレゼント交換の時間ではないうちに、みんなとの時間を楽しむことにした。


 はぁ〜


 と、あくびをした。


 疲れてる訳ではない。


 むしろ、だいぶ元気でなんでもやれる気がするが……うん、不安だな、俺……


 初めてプレゼント交換をしたなんだから。


 そんなことを考えるだけで、やはり不安を感じずにはいられないよね。


 でもまあ、そりゃ普通だろう……まあ、友達が一人もいなかったキモオタの俺にとって普通に決まってるんだ。


 首を振って、俺はみんなに目をやった。


 そしてそのとき、


 グルル……グルル


 と、お腹が鳴り始めた。


 腹減ってきたなぁ。


 まあ、今日俺らが食ったことはお姉さんから貰った野菜スープにトマトサラダとクレープみたいなもの。


 つまり、朝飯(起きたのは6, 7といったところ)とクレープ(そりゃ任務を果たした後なんだから……9, 10というところかな)。


 このようなときは、やっぱマクやスターバックスに限る。


 まあ、物事の明るい面を見れば、見渡す限り街商はたくさんいるからなにか食えるものをあいつらから買うことができる。


 そう決めて、俺は立ち上がり、まだ噴水に座っている女の子たちに目をやると、


「ちょっとなにか軽いものを買ってくるなんだが、

 なにか欲しいものあんの?」


 と聞いた。


 すると一斉に女の子は首を振った。


「いや、

 結構ですよ。

 だって、旦那さまが……」


 と、そこまで言ったアリサ。


 でも彼女の言いたいことを俺はもう知っている。


 なるほどな。


 まあでも、文句なんか言う余裕がないから責められない、そんな決定。


「そっかぁ。

 じゃあ、俺も持つよ」


「ええ?

 でも旦那さま……」


「いいからいいから」


 そう言うと、再び噴水の上に腰を掛けた。


 どうして、残ることにした理由をもう知っている気がする。



 すると淀みなく、時間がゆっくりと経っていった。


 俺らはいま、訪れたレストランの前。


 6:58。


 つまり間に合った。


 ここは、かなり有名なレストランそうなんだから、みんな(俺も含まれる)が洒落た服で着飾っていた。


 アリスはふわふわした紫ドレスを纏った。


 長い髪はツインテールに結わえられて、その端は赤いリボンで括っていた。


 彼女の隣にましろが立っていた。


 真っ黒いドレスを纏って、陶器のような白い肌が淡い満月の儚げな光にきらきらと輝く。


 一方で、アゼリアは血と同じ色の真っ赤なドレスを着て、彼女のそのほっそりとしなやかな身体つきがはっきりした。


 アリサはふわふわしたライトピンク色のドレスを着て、そのラベンダー色の髪が流れるように瀧のごとく背中まで落ちて、きらきらと光っている。


 そしてティアは肌と同じ色の純白のドレスを纏って、その朝の晴れた空を見上げるような碧眼がきらきらと煌めく。


 みんなほんっと、可愛いよな。


 顔が赤くなった気がする。


「さて、入ろうか?」


 そう聞くと、隣に目を向けた。


 俺の質問にみんなが言わずに頷いた。


 あいつら緊張しているか?


 まあ、正直に言えば俺もちょっとだけ。


 こういうの初めてなんだからさ。


 レストランに入って、洞窟のような光景に迎えられた。


 岩壁を飾っているのは気力を挫くほどの頭蓋骨。


 でも、それだけではない。


 瓶みたいな容器の中に、無数とも思われる蝋燭も岩壁を飾っていた。


「あ、もしかして、タクヤ殿?」


 と、そんな質問が聞こえた。


 目の前には、洒落た服装を纏った紳士みたいな人が深々頭を下げたまま立っていた。


「あ、はい」


「待ち望んでいました。

 私わたくしについてきてください」


 そう言って、頭を上げて踵を返すと歩き始めた。


 俺らは言われるがままについていった。


 角を曲がって、家族みたいな人たちに迎えられた。


 こっちを見て、その凛とした目に驚きが映っている。


 なんか怖っ。


 俺らのウェイターみたいな、明らかに貴族についていって、やがてレストランの隅にあるテーブルへと着いた。


「こちらです」


「うん、

 ありがとうございます」


「いえいえ。

 もうすぐメニューを出しますので、

 少々お待ちください 」


 それを言うと、彼はあっさり、立ち去った。


 そしてそれを合図として受け取って、俺らは腰掛けた。


 





「お待たせしました、

 これがメニューです」


 ようやく洒落た服装を纏った紳士みたいな人が戻ってきて、その手にはメニューを持っている。


 差し出した彼の手からメニューを貰い、俺は恭しく頭を少しだけ下げり、「ありがとうございます」とお礼を言う。


 それを見ると、紳士みたいな人は微かに微笑んだ。


 すると他のお客さんの世話をするために立ち去った。


 さて、何にしようかな。


 メニューを開けて、中を見ながら俺が囁いた。


 結構あるなぁ。


 これって意外と難しい。


 ……


 ……


 ……


 ……


 よし。


 何とかなった。


 メニューから目を上げ、まっすぐに前にその目をやった。


 目の前にはアリスは嬉しそうにメニューに目を通し、小さな身体を動かしてそのツインテールが揺れている。


 鼻歌をしているようだが…


 彼女の右側にはアゼリアが座って、そしてアゼリアの右側にはアリサが座っていた。


 つまり俺の隣に座っていたのはましろだ。


 そしてましろの隣にティアが座る。


 彼女のそのほっそりした指で長い髪を弄る。


 どうして、こなったのだろう?


 わからないけど文句なんかないから大丈夫。


 10−15秒が経つと、みんなが選んだみたい。


 さて、紳士みたいな人が戻ってくるまで待つしかない。


 でもさあ、いいなぁ………この雰囲気って。


 なんか家族っぽい。


 俺に言わせればこのまま続けば全然大丈夫だが、まあそりゃ非現実だな。



 非現実……か。


 それは真実であり、これからも真実のままである。


 まあでも、落ち込むどころではないよね。


 そういうと何回も首を振った。


 しばらく待つ、やがて紳士みたいな人は戻ってきた。


 あいつがいない間みんなが話し合っただけ。


 悲しいことも、嬉しいこともーー色々なことについて話し合った。


 控えめに言ってもとても楽しかった。


「ご注文は?」


 そう言う紳士みたいな人。


 彼を見上げて、俺はこう答えた。


「はい。

 僕には主要料理として焼き魚料理、飲み物は水、デザートはこちらの……」


 そう言うと、メニューをあげて紳士みたいな人を見せた。


「あぁ、 

 なるほどな。

 ストロベリー・デ・ラ・フラリエか」


 え?


 これストロベリー読むの?


 まあそれでも、聞いたことない……ってそりゃ普通なぁ。


 ストロベリー・デ・ラ・フラリエって基本的に様々な果物に包まれていたパイ。


 その上にホイップみたいなものが飾れていた。


「うん、

 分かった。じゃあ、

 女の子たちは?」


 と、そこまで聞いた。


 ………………


 なんだ、この感覚は?


 まるで、誰かに見られているかのようだが………


 俺はレストランを見回す。


 そしてやはりなにかおかしいことを見なかった。


 ………


 気のせい…かな。


 そんな結論に至ると、俺は首を振った。 




 間もなく、ウェイターが戻ってきた。


 両手には角盆を持っている。


 その角盆の上に俺らの食事が置かれていた。


「ほら、手伝ってあ……」


 と、立ち上がりながらそう申し出をしようとしたが、遮られた。


「いや。

 結構です、お客様。

 気にしないでください」


 そう言うと、ウェイターは次第にこっちに向かって進んできて、顔面を飾っているのは微かな笑顔。


 楽しそう。


「でも……」


「構いませんよ」


 それを言うと、やがてこっちに着いた。


 俺は再び腰掛けると、彼を見上げた。


 まあ、経験者は俺ではない。


 ってなにをやってんだ、俺?


 なんで今日、あいつに対してこんなに友好的になったのだろう?


 俺らしくない。


 しっかりしろ!


 首を振り、頭の中で言った。


 すると再びウェイターに目をやった。


 皿をいちいちテーブルに置いて、整理していく。


 めっちゃ楽しんでる。


 それにしても早い。


 一体何者なんだ?


 その早さを見るだけで人間ではないことがわかりやすい。


 正直に言えば、なんかちょっと気になってる。


 人間の皮を被った化け物は一体何者だなんっつって。


「はい。

 できました」


 と、恭しく頭を下げながら言う。


 それに対して俺は彼を見上げて、礼を言った。


 けど俺だけでなく、ましろたちも。


 だって、丁寧さは大事だもん。


 それはさておき、ついに来たぞ。


 飯の時間だ!


 待ってたよ。


 でもその前に……


 俺は隣に目をやった。


 どんな食事を選んだの気になってるから。


 ましろは…………鹿肉か?


 さすがの狼ですね。


 そしてデザートは………プリンだな?


 うん。


 悪くはない。


 ましろを見逃し、ティアが選んだ食事を覗いてみる。


 ……ん?


 あれは……野菜サラダ?


 えええ?


 意外だなぁ。


 ティアは菜食主義者であることって知らなかった。


 さて、アリスは……俺と同じの焼き魚料理を選んだか?


 それと、デザートはましろと同じプリンだ。


 その隣に目をやって、アゼリアは…………ん?


 ちょっと待って。


 飯ないんだけど。


 ちょっとどういう意味?


「おい、

 アゼリアおまえ、

 なにも食わないか?」


 俺が聞いた。


 するとこっちを見ながらアゼリアは微かに微笑んだ。


「人間料理に興味ない。私が欲しいものはきっと、旦那様がもうわかってるんでしょう?」と言わんばかりの顔をしていた。


 ため息をつき、素直にうなずく俺。


 それを見ると、アゼリアもうなずく。


 しょうがないよな。


 吸血鬼なんだからさ。


 ってこのままじゃあ俺も吸血鬼になれるだろう?


 半神なのに?


 できれば本当に無敵になるぞ。


 …………


 もう無敵なんだけど。


 それはさておき、俺はアリサが選んだ食事を見る。


 その皿にあるのは肉、肉、肉。


 そういえ、狼のようにドラゴンって肉ばっかりだようなぁ。


 だったらあんまり驚かない。


 グルル、グルル。


 と、お腹の咆哮が聞こえた。


 やはりめっちゃ腹減ったよな、俺。


 なにか食わないと、あとで後悔するような気がする。


 そう決めて、俺は食い始めた。




  食い終わり、俺たちは宿屋に戻ることにした。


 さて、時間が来たなぁ。


 控えめに言ってもちょっとドキドキしている。


 実はなにも買わなかった。


 プレゼントを買うなんて必要ないから。


 まあ、少なくとも俺にとって。


 アリアによって想像したらなんでも現実にすることができる。


 が、現実にしたことを見たことないなら無理ですよ。と


 幸い、女の子たちに贈るプレゼントを見たことあるから全然大丈夫。


 もちろん、まだ枷に拘束されているけどそれくらいのこと俺ができる。


 俺たちは宿屋の台所空間にいる。


 その手にはプレゼントを持っていた。


 でも一つじゃない。色んなプレゼントを持っていた。


 それにしてもかなりびっくりしたなぁ。


 中世ヨーロッパにこんなことあんの?


 正直に言えばないと思うが、たぶんアリアがなにかしたんだ。


 それちょっとロアーを破るけどまぁ、悪くはない。


 それはさておき、クリスマスプレゼント交換を発動するのは一体誰だかな。


 もしかして、俺? 俺だよね? 俺に違いない。


 どうして、俺なんだ? 


 首を振って、俺はため息をつく。


 じゃあ、まずはアリス。


 魔力を集め、掌を差し出すと、


「アリスたん。はい、これ」


 俺が言うと、テーブルの下から手を引き出す。


 想像したおもちゃが現れた。


 そのおもちゃは人形の2つ。こうして、熊ちゃんはもはや1人じゃない。


 それを見ると、その目はきらめき輝く。


 すると彼女はこっちを見て、「いいのか」と、言わんばかりの顔をした。


 それに対して俺はうなずき、人形の2つを彼女の手に置いた。

「大事にするよ」


「うん、分かった。パパ………ねぇパパ」


「ん? どうしたんかい?」


「これ、あげるよ」


 そう言うと、アリスは生地に包まれたなにかを渡した。


 それを貰い、俺は微笑みながら「ありがとうございます、アリスちゃん」と、礼を言った。


 期待に満ちる目で俺を見上げるアリス。


 うん、分かったよ。


「開けてもいい?」


「もちろん!」


 いい子ですね、アリスちゃん。


 さて、どれどれ。


 布に包まれたプレゼントを開いた。


 ………ん? なにこれ? 短剣か?


 おいおいどこか手に入れたんだろう? ってかこれ、高くねぇ?


 鏡のように刃身が俺を映っていた。結構鋭いよね。


「アリスちゃん、一体どこかこれを手に入れたんだろう?」


 苦笑をしながら俺が聞くと、アリスは微笑んで、


「作ったよ」


 ………………


 ………………


 ………………はぁ?


 作ったんかーい!

 

「いやそんなわけ……」


 と、俺が言い始めたが、アリスは目に涙をためるのでやめた。


 その代わりに、


「とても美しいよ。ありがとう、アリスちゃん」


 俺の言葉にアリスはすぐに元気になった。


 なんかちょっと騙された気がするが、まあ、そんなことはどうでもいい。


 俺は短剣をテーブルに置いた。


 あとは鞘か何か作る。


 さて、次は……アリサちゃんだね。


 アリサだったからこそプレゼントを選ぶのって簡単だった。


「はい。アリサ、これ」


 俺が言うと、手を伸ばした。


 するとアリサの手を自分の手で摑みながら魔力を集める。


 4、5が経つと、俺は手を引き込む。


 俺がアリサの手に入れたのは、簪だ。


 そう、名前を忘れてしまった子から買った簪だった。


 それを見ると、簪を飾っているデザインに呆気にとられたようだ。


 まあ、その気持ちがわかるよ。 


 初めて見たとき俺もちょっと呆気にとられたんだから。


「ありがとう……じゃあ………これ、受け取って」


 なんで、そんなに照れてるだろう?


 わからないが、それを無視して彼女が差し出してくるプレゼントを手に取った。


「開けてもいい?_


「う……うん、もちろん」


 すると俺は手にある布を解いた。


 それから見たのだ。


 ………


 ………


 ………いやマジなにこれ?


 俺が言うと、アリサのほうに目をやった。


「おまえもう知っているでしょう? こんなもんを受け取れないってこと?」


 アリサからもらった古い金貨を差し上げながら言う。


 それにアリサは赤くなったが、俺を見てくる。


「受け取って」


「そんなもん……」


「受け取って」


「あのな。ちょ待っ……」


「受け取って」


 ………おい。冗談だろう


 溜息をつきながら俺は「はいはいわかったよ。でもなんでこんな大事なもんを」と、聞いた。


 するとアリサは、


「さあ」


 と、目を逸らしながら言う。


 もう一回溜息をつく。


 まあいいけどさ。


 はい次は………アゼリアちゃんだよね。


 記憶が確かならアゼリアちゃんってアレだろう。


 よし。


「はい、アゼリアちゃんこれ」


 俺が言うと手を差し出す。


 その中に金色の首飾りが現れた。


 それを見て、アゼリアはちょっと目を見開いた。


 するともじもじしながら手を伸ばす。

  

 俺が召喚した首飾りを手に取って、その美しさに見とれていた。


「どう……かな」


 一応、俺が聞くと、様々な珠玉に飾られていた首飾りから目を離さないアゼリアはこう答えた。


「好き」


「そりゃよかった〜」


 微笑みながら俺が言う。


「あ、忘れるところだった。はい、これ。私から旦那様へのプレゼントだ」


 首飾りをテーブルに置いて、アゼリアは隣にある、布に包まれていたなにかを俺に渡した。


 そのなにかを手に取って、俺がアゼリアのほうを見ると、彼女は頷く。


 その布を解いた。


 そしてやはり、もうひとつの高そうなプレゼントを見た。


 今回は聖杯みたいなもの。


 俺はアゼリアを見ると、アゼリアは、


「欲しいって言ったでしょう?」


 確かに俺がそう言ったんだ。


 それでもそれは随分前の話だ。


 どうやって思い出したんだかな。


 不思議。


 それにしても俺はただ頷いただけ。


 すると礼を言いながらアリスがくれた短剣の隣に置いた。


 次は、ティアちゃんだ。


 俺たちはあんまり会話とかしないので、相応しいプレゼントを選ぶのってかなり難しかった………


 ごはん。


 俺は咳払いをすると、


「ティアちゃん。これ、おまえにあげる。プレゼントを選ぶのって意外と難しかったが、気に入るといいな」


 それを聞くと、ティアは微笑みながら言う。


「いえいえ。なんでも主さまからもらうと嬉しいわよ、私。だからそんなに緊張しなくてもいいわ」


 やはり、お前ってのやつ本当に良い子ですね。


「それと、これ」


 ティアは俺に布に包まれていたなにかを渡しながら言う。


 俺は手に取った。


「じゃあ、一、ニ、三で開こうか?」


 俺が聞くと、ティアはふふふと笑う。


「いいよ」


「では……三」


 俺がカウントダウンを始めると、ティアは続いた。


「ニ」


「一」


 と、俺たちはカウントダウンを終えると同時に、プレゼントを開ける。


 俺はティアからもらったのは………え?


 これって、もしかして魔法書?


 ………ラッキー。


 最近新しい呪文とか覚えたいみたいな思考に襲われたんだが、本当に俺の願いが叶っていたなんておまえって、魔法使いか?


 まあ、ハイエルフだから魔法使いに違いないが、やはりマジびっくりした。


 一方で、俺がくれたプレゼントをティアは見ている。


 彼女のその目には光が輝く。


「これってもしかして、バリアー付呪が付かれていたブレスレットでしょう!?」


 うわっ!


 よく知ってるなぁ、こいつ。


「うん。その通りだが………」


 ティアに遮られた。


「本当にありがとうございます、主さま。こうして呪文を唱えるときずっと


「いや、こちらこそありがとうよ、ティアちゃん」


 俺が礼を言うと、アリスからもらった短剣とアゼリアからもらった聖杯の隣に魔法書を置いた。


 さて、最後か。


 俺はましろのほうに目をやった。


 すると微かに微笑んだ。


 そう。


 彼女は特別。


 全女子は特別じゃないというわけではないが、初めて異世界で出くわした上に、初めて一線を越えた相手はましろなので、やはり彼女は少なくとも俺にとって特別な存在である。 


 それ以上でもそれ以下でもない。


「え……えっと、これを……」


「いや、ちょっと待って、ましろ。よかったら俺から始めてもいいかな」


 俺が聞くと、ましろは当惑した顔をしたが、それでも頷く。


 それに俺は手を拳にすると、力を掌に集めた。


 するとまだましろを見ながら俺は、


「手を伸ばして」


 と、言う。


 言われるがままにましろは手を伸ばす。


 その手を自分の手で摑んで、ゆっくりと自分の手を開いた。


 そしてそこには、指輪がある。


 それを見ると、ましろは微笑んだ。


 それに俺は、


「これ、受け取ってくれるかな」


 と。


 俺の質問にましろはなにも言わなかった。


 ただ頷くだけ。


 それを合図として受け取って、俺はそっとましろの薬指に指輪をつけると同時に、囁くような声で言う。


「愛してる」


 と。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ