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異世界のんびり生活  作者: 鏡つかさ
第2巻【世界は美しい】
8/9

第3章『アリマ王国への冒険』


 ……………


 …………………………


 ………………………………………


 気まずい沈黙。


 朝、8時25分くらい。


 居場所ーーイレナ町。


 久し振りに依頼を受けたのでギルドに行こうかと思ったが、名前ですら知らない少女が不良に襲われていることに気付いて彼女を手伝うと、町の中央にあるレストランに来ることになった。


 その少女はいま、暖かい珈琲を啜っている。


 でも、今のって一体なんなんだろう?


 耳を疑い、俺はもう一回聞くことにした。


「えっと、

 もう一回言ってくれないか?」


 と。


「うん。

 これをアリマ王国の王様に渡してほしい」


 躊躇わずに、目の前の少女が言った。


 指差しているのは封状。


「アリマ王国の

 ……王様?」


「ええ。

 できるか?」


「いやそのーー。

 そもそもなぜ俺?」


「君、

龍の巣穴(ドラゴンデン)のドラゴンを倒してくれたよな?」


 倒したってゆーか、むしろ嫁にしました。


「まぁ、

 そうだけど……ってなんで、

 そんなことを知ってるんだ?」


「はぁー?

 もしかして、噂聞いてないの?」


「噂?」


「やはり聞いてないわ。

 じゃあ、教えてあげる。

 単に『見たことない服を纏っていた少年と4人の美少が龍の巣穴ドラゴンデンに入って傷ひとつなく戻ってきた』っていう噂だ。竜を屠る者(ドラゴンスレイヤー)として崇められている」


「なるほど。

 俺がドラゴンを倒したと思うなぁ」


「と思う?

 もしかして倒してくれなかった」


「倒したってゆーか、

 むしろ飼いならしたんだ」


「………………はい?

 飼いならしたって?」


「うん。

 飼いならしたんだ」


 俺の嫁にしたことが言えない。


 ごめんな、アリサ。


「やはり君凄いわ。

 だからこの手紙をアリマ王国の王様に渡してほしい」


「まあいいけど、

 内容は?」


「それは秘密なの。

 うちの先輩から聞いたが、

 この手紙の内容は私たちがそう簡単に理解できない政治について綿密な情報を含んでいる」


「政治について綿密な情報か。

 うん、なるほど」


「この任務を果たすのはあと3日」


「え? それだけ」


「仕方ないわ。

 実際は自分でやったはずなんだけど見かけるによらずただの奴隷に過ぎないわ、私」


「奴隷?」


「ええ。

 うちの先輩って言った時、実際は私のマスターだよ」


「マスター? 

 もしかして、

 おまえのマスターはどこか他の国の公爵か?王様か?」


「その通りだ。

 ルシア王国って知っている?」


「聞いたことある。

 記憶が確かなら温泉で有名な国…だろう?」


「そうよ。

 イレナから西南。

 徒歩25日以内に着くはず。

 馬車は15日以内。

 マスターはイレナ王国の王様だよ」


「結構遠いな。

 因みに、ここからアリマまでは?」


「それは…歩くなら5日。

 馬車に乗るなら3日」


「つまり、

 馬車に乗らなきゃいけないなぁ」


「そうみたい」


「ところで、

 どうして自分でやらないの?」


「やりたくないわけではない。

 むしろ、私には無理だよ。

 3日だけが残るので馬車に乗らざるを得ないんだけど、

 一文無し」


「じゃあ、

 どうやってルシアに戻るか?」


「正直に言えば、そこまで考えていない。

 ここに残るしかない。

 もちろん、エリスを手に入れるためにちゃんと働くわ」


「なるほどな。

 大変だな」


「とても。

 しかしそりゃ仕方ない」


「…………………………」


「…………………………」


 それから沈黙が続いた。


 俺が買ってあげた珈琲を啜りながら少女は考え込んでいるように見える。


 控えめに言っても目の前の相手は奇跡としか言いようがない。


 見た目からいえば。


 滑らかで白い肌で、流れるような直毛。


 成長のいい体躯、海を覗き込んでいるような印象を与える碧眼。


 うんやはり。


 可愛いな、こいつ。


 まあ、人間かどうか知らないけど。


 さて、普通にお金を渡しても受け取ってくれないだろうし、どうしたものか。


 ……………


 ……………


 あれ?


 髪になにか小さいものがある。


 あれは…………


 よし。


「あ、すいません。

 名前は?」


 珈琲から目を離して、彼女はこっちを見た。


 すると気づいた。


「あ、すいません。

 完全に忘れてた。

 私は八重。君は?」


「うん。

 俺は拓也。

 いきなりなんだけど八重、俺にその簪を売ってくれないかな?」


「簪…ですか?」


 八重は髪に挿していた簪を手に取る。


 その色は紅赤。


「それ、鳳凰の簪だろ。

 前から欲しかったんだ。

 お世話になった人にあげようと思っててさ」


「ホウオウ?

 なにそれ?」


 中国神話に現れる伝説の鳥だよ。


 正直よく知らないが、たしか昔はそうだったはず。


 もちろん、前から欲しかったというのは嘘だ。


 彼女にお金を渡すための建前である。


「こんなものでよければ私はかまわない…」


「よしゃ!交渉成立。

 じゃあこれ代金」


 鳳凰の簪を受け取って、代わりに財布から取り出した金貨3枚握らせる。


 アリアから貰った祝福を使えば余計を召喚できるので、これくらいのは一層。


「こっ、これは貰い過ぎでしょう! 

 こんなに受け取れないよ!」


「いいからいいから。

 受け取って。

 正直に言えば、俺の国でこのようなものは珍しいよ」


「……本当に、いいのか?」


「いいに決まってるんだろう。

 ほら受け取って」


 そう言うと、金貨3枚を彼女の手に乗せた。


 すると自分の珈琲を手に取って一気に飲み込んだ。


「ごちそうさま。

 では、俺はここで。

 早くおまえから貰った任務を果たさないと悪いことになる気がする」


 そう言うと、俺は振り返ることなくレストランから出た。





「というわけで、

 俺たちは旅に出るよ。

 三日間の旅行なのだが、将来を予言できないので、

 念のため荷物をたくさん詰めるよ」


 そう言う俺。


 その日のうちに、小さな村の住民を自分の家で揃えて八重という謎の女の子から貰った任務を彼らに告げた。


 リビングのあちこちに散らばり、みんながこっちを見てくる。


 顔を飾っているのは異なる表情。


 異なるとは言っても、実際はみんなが嬉しそうに見える。


 ずっとこの小さな村に閉じ込められていたからせめてそれくらいさせてくれかな。


「はい!解散。

 えっとね、時刻は8:00くらい。

 およそ8:30くらいイレナに近い場所に行くと馬車を買う」


 ましろは挙手する。


 それを見ると、彼女のほうに目をやった。


「どうした?」


「馬車って、

 旦那様の瞬間移動魔法を使えばすぐ到着することができるのに」


「あ、それか。

 シンプルに言うと、視界内ならどこへでも、

 視界外だったら、一度訪れた場所へ無制限に」


「あぁ、なるほどね」


 頷きながら立ち上がるましろ。


「では、わたし、

 荷物を詰めに行くよ」


 それを言うと、ましろはあっさりリビングから出た。


 するとみんなも。


 俺は一人で、ため息をつく。


 もう自分の荷物を詰めたので次は何をするか考えている。


 目を擦り、しばらくの間外に出ることにした。


 そう決めると、玄関へと向かってドアを開けると、外に出た。


 未だに寒いのに太陽の暖かさに迎えられた。


 雪はもう溶けていって、残るのは土壌に沈んで植物を飾る露。


 その匂いが鼻を擽って中に侵入してくる。


 久し振りに自然に身を委ねたので馴染みに襲われた。

 


「はい!準備できた」


 そのとき、声が聞こえた。


 俺は振り返ると、そこに立っているのはましろだ。


 けれど、彼女だけではない。


 アゼリアもアリスもーーティアもアリサも。


 みんなが俺のうしろに立っていた。


 もう準備ができたか?


 意外と早い。


 8:30ではないことがわかっている。


 はぁ〜


 まあいいか。


 俺が微笑んだ。


 そう。


 昔の俺は馬鹿だった。


 けれどいまは……


 守るべきの人がいる。


「よし!いきましょう!」


 と、そう言う俺。


 するとおっさんとアモリアのほうに目をやった。


「頼むよ」


 と、そう言った。


 それに対しておっさんは頷いた。


 そしてアモリアは微笑みかけた。


 わけのわからない理由で二人がここに残ることにした。


 でもまあ、それも大事だな。


 誰かが村を守らなきゃ。


 二人に頷き、俺は女の子たちに目をやった。


「準備はOK?」


 と、もう答えを知っているというのにそんなことを聞いた。


 嬉しそうな顔をしている女の子たち。


「うん。OKですよ」


 と、一斉……ではない。


 ましろが言うと、他のが頷いた。


 よし。


 さぁて、移動しようか。


 目を閉じて魔力を集めて広げる俺。


 十分に集めた瞬間、目を開く。


「瞬間移動魔法:ゲート」


 そう呟くと、もっともっと魔力を広げる。


 すると目の前に空気が歪んで空いた。


 これがゲートだ。


 とても便利な移動手段だ。


 俺は振り返ると、彼女たちを見た。


 すると微笑みながら、


「女性が真っ先に」




 イレナ町から少し離れた厩。


 東の森から抜けた時、こちらの厩を通り過ぎた。


 周囲を見渡すと、馬の1頭が視線に入ってきた。


 だけど見る限り、どうにもオーナーが見当たらない。


 変だな。


「ちょっと中を確認するよ……」


 と、もう厩へと向かっている俺。


 ドアを開けて、俺は厩に入った。


 すると見回す。


 ……


 ……………


 …………………………


 誰もいないみたい。


 考えれば、ちょっと危険だな。


 外にいる馬を誰でも盗める。


 さらに悪いことに殺せる。


 ため息をつき、俺はもう一回玄関へと向かって外に踏み出す。


 まだ探しているみたい、みんな。


 あ、そういえ、厩の後ろでオーナーはいるかもしれない。


 そう考えると、厩の後ろへと向かった。


 そしてそこに馬車だ。


 つまり、厩の前にいる馬は一人ではなかった。


 ちょっと安心してきた。


 その馬車に近づいた。


「やあ。

 オーナーはどこか知っている?」


と、そんなことを聞いた。


「……………」


 答えるワケはなかったが、馬の目は「知るか」とか言ってるように見えた。


 俺は手を伸ばして、馬の鬣を撫で始めた。


 とても柔らかくて滑らかだ。


 オーナーに世話にったみたいだ。


 そしてそのとき、俺が気づいた。


 ……………


 あれは……手紙だよな?


 馬の耳に付くのは確かに手紙のように見える。


 俺は手を伸ばして、その手紙を外すと、開いて披見し始めた。


 無料。


 頼むからパラチュリサとルナのお世話をする。


 と。


 即ちーー見捨てられた。


 手にある手紙を折る。


 するとポケットに入れた。


 仕方無い。


 未だ馬の柔らかい鬣を撫でながら、顔をまともに見ると、


「しょうがないなぁ。はい、決まり。これからお願いします」


 そんなことを言った。


 するとやはり、


「……………」


 沈黙に迎えられた。



「というわけで、

 パラチュリサとルナのお世話をすることになった」


 みんなを揃えて、俺が見つけた手紙の内容を彼らに告げた。


 もう2頭の馬の準備をしたので俺たちは馬車にいる。


 もちろん、馬車を運転することができないからアリサに任せた。


 振り返ると、彼女たちを見る。


「誰か、質問とかある?」


 つい、聞いた。


 一斉に彼女たちが首を振った。


「では、アリサ頼むよ」


 そう言うと、隣にいるアリサを見る。


 ただ頷いたアリサ。


 そして俺たちはようやく、冒険を始めた。


 目的地はアリマ王国だ。


 正直、わけのわからない理由でちょっとドキドキしている。





 今まで自分の行動にも関わらず、俺はまだ全てについてなにも知らない。


 例えば、自分の魔法の汎用性を拡張できるとか。


 アリアによって、俺はただの半神だ。


 まあ人間の魂がまだ残っているので厳密に言うと神の力に恵まれていた人間そのものに近いかもしれない。


 彼女の力が俺の体に流れているので神力を使うようになった。


 もっと正確に言えば、アリアの神力に限られている。


 ありとあらゆる聖なる物を司る女神の力だ。


 それなら何故、他の魔法を使えるのだろう。


 ありとあらゆる聖なる物を司る女神なので、治癒とか加護とか、そういう能力に限られるはず?


 ……………


 いや、考えれば、あいつは女神だから他の能力を使うことができるの普通だろう。


 あ、そういえば、彼女の力を使うことができるので、他になにを使えるかな。


 神だから彼女に限界なんかないだろう。


 だったら俺にも限界がない?


 とは言っても、然る能力には限界がある。


 例えば、時間停止とか人や動物の動きを拘束するとか。


 つまり、俺はまだ素人だよな。


 じゃあ、俺の中のもう一人の俺はどう?


 背中から天使みたいな翼が生やす。


 頭上に眩しい円光が浮かんでいる。


 あいつによってそれがアリアから貰った力の全能力だそうだが、一体どうやってその力を手に入れたかはわからない。


 もしあいつが本当に俺のなら、そういうの無理だろう?


 どうして俺に拘束があるのだろう。


 どう考えてもおかしいんだ。


 でもあいつーーもし、この力が欲しいのなら、ボクを受け取ってこの世の新神となれって言った。


 ボクを受け取ってとは?


 もしかして、一体になるってこと?


 ……………


 うん。


 それに違いない。


 即ち、もし俺らが一体になったら、俺もアリアの本当の力がアクセスできるようになるってこと?


 でも、そうすると、人間界に残ることができないだろうが。


 少なくともそんな気がする。


 やってみるか?


 でももし俺の理論が事実なら、あいつらになにが起こるのかはさっぱりわからない。


 俺のことを忘れる?


 それとも、憂愁ゆうしゅうに陥る?


 もし俺がいなくなったら、心配してくれるかな。


 わからない。


 なにもわからないんだ。


 そしてそれが悔しい。


 はぁ〜


 ため息をつきながら周囲を見回すとみんながもう寝ていることに気づいた。


 涼しい風が吹きぬけて、俺の肌を舐めている。


 やはり冬の夜ってとても寒いもんだよね。


 野生の動物の鳴き声が響き渡って、星空に雲がゆっくりと流れる。


 俺らはいま、どこかの野原でキャンプしている。


 どうにも頭が冴えてしまい眠れなかったので、俺は夜空を見上げながら考えることにした。


 久し振りにやったから。


 そして2−3分が経つと、思わずアリアから貰った力について考え始めた。


 でも、


 ……………


 そういえ、あいつを連絡することができるだろう、アリア?


 だって、もしアリアが俺を連絡することができるなら俺たちが同じ力を持っているから俺でもできるはず。


 よし。


 やってみよう。


 そう決めて、俺は目を閉じて魔力を集めて広げると、待つ。


 テレパシーを使ってみるの初めて。


 なんかわくわくしているぜ。


 ……………


 …………………………


 ………………………………………


 沈黙。


 本当にできるかな。


 と、そんなことを考えながら、頭に聞き慣れた声が響いた。


『アンタからの連絡なんて珍しいわ。

 何か用?』


 その声はアリアの声だ。


 つまり、俺でもこういうことができるか。


 控え目に言っても凄いんだ。


【あ、繋がった繋がった。

 なんかアリア】


『なあに?』


【なんか1つ聞きたいことがあるなんだけど…】


『あ、

 ようやく私のこと好きになったか。

 いいわよ。アンタの気持ちを受け取る』


【ちげぇよ、

 この馬鹿】


 一体何を言ってるかわからないの、こいつ。


『相変わらずひどいヤツだな、

 アンタ』


【ひどいのは俺じゃなくて、

 おまえだろ】


『あえてそんなことを言ったか。

 言っとくけど、あたし様が……………』


【はいはい。

 もうわかってるんだ。

 感謝。

 でもそういう話じゃないよ】


『じゃあ、

 どうしてあたしを連絡したか』


 そんなことを聞いたアリア。


 なんか真剣になりそうだ。


【そりゃまぁ、

 ぶっちゃけ俺は一体何者なんだ?  

 最近、変な夢ばっかの上に、

 俺の中のもう一人の俺がいる。

 そしておまえから貰ったこの力って、

 そもそもなぜ、俺にあげたのだろう?】


『……………』


 沈黙。


 考えているようだ。


 その沈黙が10秒続くと、やがてアリアの声が聞こえた。


『アンタは半神だよ。

 アンタにあたしの力が流れているから。

 繰り返す。

 アンタは半神だよ。

 けど、不完全。

 一気にあたしの力をアンタに与えられなかったので、

 意識に収納したが、その力は自分の意識を顕現したか、

 もう一人のアンタが生まれた。

 それはおそらく、あの変な夢の原因かもしれない』


【……………】


『そして、

 そもそも自分の力をアンタに与えた理由は単純すぎてもうわかってるでしょ』


 ……………


 やはりなぁ。


 そんなことを疑ったが、まさにそのとおりかよ。


【つまり、

 この力に恵まれた理由は……】


『その通りだ。

 アンタの望みを叶えるように。

 まあでも、それだけではない』


【はぁ?

 他は?】


『………………』


 沈黙。


 すると、


『あたしたちの関係のおかげで、

 なんかさ、夫婦になたりしたんだ』


【……………はぁ?】


『いや、

 そんなことはどうでもいいそもそも。

 でもまぁ、物事の明るい面を見れば、

 少なくとも嫁として可愛い女神がいる』


 驚きを禁じ得ない。


 俺にはもう一人の嫁がいる。


 そしてその嫁って実際は女神そのものだ。


 確かに驚いたが、アリアの言った通りそんなことはどうでもいい。 


【まあ、

 あとで話すよ。

 いまはもう一つの聞きたいことがある】


『遠慮なく』


【もし俺の中のもう一人の俺と一体になったら、

 どうなる?

 俺は神となるだろう?

 だって、力の二つ分は1つになると、

 おまえの本当の力をアクセスできるようになる?】


『もちろん、

 アンタも神となると、

 人間界に残ることができない』


【やはりなぁ】


『とは言え、

 テンポラリーだから大丈夫はず』


【え?

 どういう意味?】


『単に言えば……………もし、

 アンタともう一人のアンタが一心一体になったら、

 あたしの本当の力を使えるようになるが、

 完全にあいつと一心一体になったら神となると、

 ………………

 まあ、答えをもう知っている』




 目覚めると空があった。


 晴れた、朝の空だった。


 青色には明るい太陽が浮かび、澄んだ空気の下には緑の野原が広がっていた。


 起き上がる。


 欠伸をした。


 立ち上がり、周囲を見回すと、みんながどこかに行ったことに気づいた。


 一体どこに行ったのか知らないが、心配する必要はない。


 みんな強いからさ。


 さて、今日の予定は………特に何もない。


 アリマ王国への旅を続けるただそれだけ。


 残っているのはあと2日目。


 俺たちは日が暮れた前に結構な距離をもう走破してきて、このままのペースで続けば、間に合うかもしれない。


 いや、言い直す。


 間に合うに間違いない。


 アリマ王国って、そもそもどんな国かな。


 ひょっとして、獣耳の楽園?


 可能性は確かにある。


 ワクワク感が戻ってきた。


 もし後者であなれば心臓にダメージを与える。


 死ぬかもしれん。


 ………


 死ねないなんだけどー


 今日は12月23日。


 まさか明日はクリスマスイブなんて考えれば考えるほど、驚きを禁じ得ない。


 そしてその後クリスマスの上に俺の誕生日。


 ………


 でも、一体なんなんだろう、この孤独感?


 病院に閉じ込められた時と同じような感じだ。


 ………


 3~5秒が経つと、俺は首を振った。


 いや、落ち込んでる場合じゃないんだ。


 明日はクリスマスイブはさておき、今日の朝飯、何するかな?


 そういえば、あつらちゃんと食ったか?


 そうぼんやり考えると、馬車があるところへ向かっていた。


 まあ、食ったかどうかもうわかってる。


 でもどこに行っちゃったのだろう。


「不思議」


 そう呟き、俺は馬車を見回すと、探し物を見つけた。


 それはとあるバッグだ。


 その中に入っているのは様々な果物だ。


 バッグがあるところへと向かって、俺は屈んだ。


 今日の朝飯なんか軽いものにしょう。


 そう決めて、バッグを開けると中をのぞき込む。


 何が食いたい気分かな。


 バナナ?


 それとも林檎?


 でも葡萄も美味しい。


 ……


 えっとー……困ったなぁ~


 なんで、果物を選ぶのが意外と難しい?


 首を振って、俺は目を閉じると中に手を入れた。


 他が全部駄目なら、目を閉じて盲目もうもくのまま選べ。


 と、俺がそう思う。


 ……


 …………


 ……………………


 3秒が経つと、なにか丸のものを当たった。


 蜜柑か?


 蜜柑だよな。


 蜜柑に違いない。


 目をゆっくりと開いた。


 そして気付いた。


 手にあるものは蜜柑ではなく、一個の林檎だ。


 まあ、取り敢えずこれでいいんだ。


 そう考えると、林檎を噛んだ。


 もぐもぐと朝飯の林檎を咀嚼そしゃくしながら、再び中に手を入れて二個の林檎を取り出した。


 馬たちはもう食ったかどうかわからないので。


 もちろん、これだけは不満足。


 記憶が確かなら馬には2つの胃があるから。


 それとも、カテ違いかな?


 まあ、反対は牛には複数の胃を持っている。


 あ、けれど反芻を行わない馬の胃は1つだけだと知っている。


 馬車から降りて、2頭の馬の前に行って手にある林檎の2個の1個をパラチュリサにあげて、そしてもう一個の林檎をルナにあげた。


 もぐもぐと咀嚼しながら、俺と2頭の馬は慎ましい朝飯を味わった。



 ガタゴトと馬車が揺れる。


 朝飯を食い終わり、5分以内でみんなが戻ってきた。


 それに気づくと、一体どこに行ったんだか?とそう聞くと、ましろとアリサとアリスとアゼリアとティアの5人は一斉に「トイレ」と答えた。


 それは本当かどうかわからないが、齷齪(あくせく)することはない。


 あいつらなら信用できるから。


 だから5人の女の子の答えに俺は「うん。分かった」と、そう返事した。


 するとその後すべての身の回りを集めて馬車に積み込むと短い旅行を続けた。


 しばらくの時間がかかると、


「旦那様、

 1つ聞きたいことがあるんですけど

 …いいかな」


 アリサの声が聞こえた。


 隣に目をやると、アリサはまっすぐ前を見ていることに気づいた。


 けど、その可愛いらしい顔を飾っているのは真剣な表情。


 まるでなにかを考えているような、とても真剣な表情。


 唾を飲み込んで俺は、


「いいよ」


 と、そう言った。


 するとアリサは、


「クリスマスの話なんですが、

 なにか欲しいものありますか」


 と、聞いた。


 …………


 …………


 …………


 はぁ?


 急になにを言ってんのか、こいつ?


 そしてなんで、その表情かお?


 なんかとても大事なことを聞くかと思ってたんだが、まさかそんなことなんて………


 あ……


 やべー。


 完全に忘れてた。


 なんでも想像することを現実にすることができるので手に入れるの余裕だが、こいつらのクリスマスプレゼントに何を贈るべき?


 油断していた。


 それにしても、早くアリスの質問を答えないと、マズイことになるような気がする。


「俺が欲しいものか

 ………実際は考えたことはないが、

 強いて言えば、

 みんなの嬉しい顔を見たい…かな。

 だって、おまえらが幸せな限り、

 俺も幸せだよ」


 と。


 一時的な沈黙。


 するとアリスはこっちをちらりと見て、その瞳が赤く光る。


「真面目に答えてください」


 と、そんなことを言った。


 失礼なヤツだな、アリスって。


 でも今のは超真面目なんだけどー。


 おまえら俺と一緒である限り十分に幸せだよ。


 けどもし、俺のそばから急にいなくなったら、なにをするのかはわからないのだが、きっと俺に二度と近づきたくない気がする。


 そしてそれを知ってるのが怖い。





 クリスマスはまだまだなんだけど、そろそろ準備を始めたほうがいい。


 と、そういうことを決めながら、馬車がゆらゆら揺れる。


 さてどうしようかなあ。


 もちろん、クリスマスパーティーをする予定がある。


 それ随分前から企んでいた。


 けど一体どこにやるかはわからない。


 アリマ王国でクリスマスを過ごすことになったので、あそこでやると最初は思ってたが、アリマ王国のどこかいいかな。


 酒場?


 いやそりゃ無理だろう。


 アリスは18歳未満なんだからさ。


 ってかアリマ王国の法定年齢は一体なんだ?


 と、自問するとも、最初から許されるなんてそんなわけない。


 じゃあ、レストランはどう?


 でもありふれたレストランじゃなくて、ファミレスみたいなレストランだ。


 この世界ではファミレスなんかそもそも存在するかどうかわからない。


 やはり情報少ないなぁ。


 どうするかな。


 他に選択肢がないよな。


 アリマ王国へと到着して手紙を王様に渡すと、彼女たちと一緒に観光する。


 その間にレストランとか探す。


 そう決めて、あとはクリスマスプレゼントだ。


 どんなクリスマスプレゼントはいいかな。


 5人の女の子がいる。



 ましろ。


 アリス。


 アゼリア。


 アリサ。


 そしてティア。



 異なる性格を持つ完全に異なる女の子だ。


 即ち、好き嫌いは完全に違う。


 正直に言えば、彼女たちから貰うクリスマスプレゼントに拘だわらない。


 が、こいつら俺じゃない。


 問題は好き嫌いを知らないってゆーかなにを好むかさっぱり分らない。


 最低だな。


 でもまあ、それは仕方ない。


 このような場合には《内心窃盗(ソォートゥスティール)》に任せたほうがいいけど、前に言ったように敵かなにかではない限り使わない。


 人の心を抉るなんてそんな考えだけでムカつくなんだからだ。


 さて、どうすればいい?


 もちろん、アリサのように聞くことができるが、直接すぎだよな。


 それはさておき、とりあえず彼女たちを観察しよう。


 と思ってたが、やはりそりゃ無理だな。


 もし俺が急に振り返ったら胡散臭いうさんくさい。


 だからそれはダメ。


 他に選択肢はあるけど、うまくできるかな。


 俺が考えているのは観光しに行くとき観察することができるってことだ。


 つまり、レストランを探しなきゃいけないのみならず、彼女らの様子も観察しなきゃいけない。


 キツイよな。


 でもそれは仕方ない。


 彼女らを幸せにするためになんでもやると決めたんだ。


 そしてそれを現実にするために一生懸命頑張らなきゃいけない。


 この生活を最大限に楽しむようにそりゃ当然だ。


 俺はかすかに微笑む。


 すると周りを見回す。


 間もなく太陽が完全に地平線下に沈むことに気づいた。


 夕日に彩られた空には種類豊富(しゅるいほうふ)な鳥が飛んでいって、その下には豊かな草原が冷たい風に揺れ、どこかへと広がっている。


 そして遠くに雲海の上に聳え立つのは豪華絢爛(ごうかけんらん)な城だ。


 ここはもはや、俺らが知っているイレナ領土ではなく、完全に別の領土であることがわかっている。




 



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