第5章『もう一人の……』
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ちょっと整理してます。
……………
…………………………?
な、なんか。
体重いぞ。
……息苦しい。
爽やかな朝日が射し込むその納屋で、俺は目を覚ました。
瞼を無理やり開くと、なにか胸に重いことに気付いた。
毛布を捲ると、そこですやすやと気持ち良さそうに眠っている少女がいた。
その仄々とした光景に、俺は微かに微笑みながら盛大なあくびをした。
「おい、
そろそろ起きろうよ、
アリス」
と、優しい声で、俺ーー鍵山拓也が胸に眠っている少女に告げた。
俺の優しい声に、アリスと呼ばれたその少女が目を開いた。
寝ぼけたまま、頭を上げると、口から滴る涎が見える。
クスッと俺は笑う。
それから親指で涎を拭った。
「パ、パ?
どうして、ここにいるの?」
「ここに住んでいるから」
しょぼしょぼする目を擦りながら、アリスは低く唸る様な声を発した。
「そうなの?
ごめんなさい、パパ。
忘れてたー」
「なぜ謝ってるの?
ってか忘れてた?
いや、それより、腹減ったか」
俺の質問に、小さな体にあまりにも大きすぎるTシャツだけを着たその少女が頷いた。
「よし。
じゃあ、なにを食べたい?
精一杯作ってやるぜ」
「ドラゴンテール」
と、アリスは即答した。
俺はクスッと笑う。
すると、
「ドラゴンテール?
昨日食ったぞ。
ほら、他にあんのか」
俺が言うと、アリスは考えこむかのように天井を見上げた。
すると、
「うん、
じゃあ、甘いもの食べたい」
「甘いものか?
まあいいけど、
まずパパの胸から降りてくれ」
俺が聞くと、アリスは俺の胸から離れた。
すると、柔らかい床から体を起こし、俺は伸びをした。
さっき体を襲った疲労感が溢れ出てきた。
すっきり、俺は娘の小さなお手を摑んで玄関へと導いた。
娘の拓也アリス(似合うかな?)
、年齢:十歳。
職業:無職。
長く滑らかな金髪に、蒼穹を見上げるような印象を与える水青色の瞳。
搾りたてのミルクのような繊細で白い肌、十歳の少女の無邪気な雰囲気。
「そういえ、みんなは?」
俺が訊くと、
「……………」
反応はない。
ん?
おかしい。
まあ、別にいいけど。
俺らは納屋を横断し、玄関へと着いた。
すると、俺は力を入れ、ドアを開けた。
そしてやはり、太陽が眩しすぎて目を細めずにはいられない。
そしてそのとき、
「あ、マスター」
「マスター」
「旦那さま」
と、3つの異なる声が聞こえた。
順に、ましろ、アゼリア、そしてグループに入ったばかりのアリサ。
全員がこっちに来た。
すると、
「チッ」
と、アリスは舌打ちをした気がするが、うん…気のせい気のせい。
「みんななにやってんの」
俺が聞くと、ましろはこう答えた。
「粉とか他の食品が切れたみたい」
「あ、なるほど。
そりゃ困るなぁ」
そうか。
粉とか他の食品が切れたか。
でもそりゃ大丈夫。
「じゃあ、
ちょっとイレナ行きたい気か?
せっかく金をたくさん手に入れたし」
♢
瞬間移動。
空間を歪めることにより、俺は物体を離れた空間に転送したり、自分自身が離れた場所に瞬間的に移動したりすることができる。
【ゲート】と、俺がそう呼ぶ。
【ゲート】を経て、俺たちはイレナに来た。
そしていま俺らはイレナの繁華街、町の中央にある噴水の前に立っている。
「さぁて、考えよう。
俺は新しい服を買いたい。
逆にアリスは魔法書、
アリサとましろは肉、
そしてアゼリアは団子……そうだよな?」
女の子たちは一斉に頷いた。
それに俺はため息を漏らすと、顳顬を揉んだ。
「目標を果たすために分かるしかないが、
みんなはどう思う?」
俺が聞くと、女の子たちはお互いに顔を見合わせる。
なにを考えているのかさっぱりわからん。
もちろん、俺の【内心窃盗】ーー少なくとも俺がそう呼ぶ【読心術】を使ったらすぐにわかるけど……やめたほうがいいと思う。
人の心を抉るなんてそんな考えだけでムカつく。
あ、でも相手は敵なら躊躇わずに。
俺は首を振った。
すると女の子たちに向かった。
そして気づいた。
みんながこっちを見ているってこと。
つまり、
「決めたか?」
一斉に頷く女の子たち。
俺は微笑んだ。
微笑みながら、
「で、みんなはどうする」
と、聞いた。
♢
結局、分かることにした。
俺は一人で、イレナの街を彷徨っている。
目的地は服飾店。
こっちの世界に来てからずっと同じ服を纏っている。その服は俺の制服だ。
せっかく半神になったのに。
少なくともカッコイイ服を買いたい。
なにか悪いか?
あ、そういえば、ついでにあいつらも新しい服を買ってやる。
なにがいいかな。
ましろは……………
やはりなにも考えつかん。
はぁ〜
じゃあ、帰る前にみんなをついてくる。
そう。
それが一番。
みんなが喜ぶかな。
いや、なにを考えているの、俺?
そりゃ 当たり前のことだろう。
うん。
問答無用だ。
♢
しばらく歩くと、やがて服飾店を見つけた。
まだ読めないけど看板を飾っているロゴからわかりやすい。
俺は中に入って周囲を見回すと、流石に服飾店だな。驚きを禁じ得ない。見渡す限り販売用に被服品と装飾品が棚に広げられていた。
さて、何にしようかな。
俺が呟く。
すると、見て回り始めた。
♢
はぁ〜
満足だわ〜
新しい服を買った後、俺はイレナの街を彷徨うことにした。
どれくらい時間が経ったのかわかんないのだけれど、いつの間にか夕方になってきた。
そういえ、みんな一体なにしてるのかな〜
控えめに言ってもかなり気になっている。
まあでも、みんなが楽しんでいる限り嬉しい。
アリス、ましろ、アリサ、アゼリアーーみんな強いから心配してるわけじゃないのだけれど、一人でいるとちょっと寂しい。
ほら、病院に閉じ込められた頃、みんなに見捨てられたってさ。
最初から友達なんかいなかった。
家族に見捨てられたんだ。
毎日俺を訪れるって言ったのに。
最初は、俺たちの約束を守ってくれたが、日が経つにつれて崩れ始めた。
結局のところ、破ってしまった。
人生は邪魔になったとわかってるが、もし守れないのなら何故最初から約束したんだ?
どう考えてもおかしいんだろう?
そういう人がマジで嫌い。
その考えだけで吐きそうになる。
本当に腐った世の中だと思う。
まあでも、ここは『あの世界』ではない。
完全に別の世界だ。
あの世界と違ってここの住民は優しそうに見える。
とは言え、アゼリアと初めて出会ったとき、俺を殺そうとした。
ましろも。
彼女と初めて出会ったとき、兄と喧嘩したみたい。
アリスまで。
……………
俺はかすかに微笑んだ。
我儘だぞ、俺。
気まぐれで彼女を救っていない。
全てが俺のものにしたい。
最近、こういう感じは多い。
全てを支配したい。
全てを破壊したい。
全てを、
俺のものにした。
【できますよ】
突然、声が聞こえた。
それは……俺の声だろ?
俺は首を振った。
気のせい気のせい。
【気のせいではありません】
……………
【もうわかってるでしょう、
きっと】
……………誰だ?
【誰だって……
ボクは君、君はボク。
一心同体ですよ】
ふざけんじゃねぇぞ。
そんなことを信じるか。
【あ、でも事実ですよ。
君にはまだ早い。
けど、時間が経つにつれて、
きっと現実に目を開く】
まあいい。
早く消えろ。
【そんなこと言われても、
それは無理です。
一心同体って言ったでしょう?
つまり、ボクら死に臨んでもずっと一緒。
あ、そういえば、ボクらは不死でしょう?
死ねない。即ち……】
もういいだろう?
早く消えろ!
【愚かな者な、我が分身。
いいです。
とりあえず、放っとくよ。
でももうすぐ、ボクの力が必要になる。
安心して、素直に譲るから。
けれど、今のうちに目を開くほうがよい】
……………。
【それでは、ご機嫌よう……】
………………。
すると全てが終わった。