表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のんびり生活  作者: 鏡つかさ
第1巻【異世界】
3/9

第3章『サイド、そして任務』


 わたしの名前はアリス。


 十歳の普通の女の子。


 たぶん。


 過去のことを鮮明に覚えられない。


 わたしの本当の年齢も、わたしの本当の名前も、わたしの本当の両親さえも。


 だから個人情報をあんまり曝け出せ無い。


 知ってることは、自分の生き方だけ。


 知る限り、わたしはずっと一人ぼっちで、戻れる場所は無かった。


 だからあいつらに見つけられたとき、裏路地にいたんだ。


 大きなゴミ箱の中に食べられる物はあった。


 大きなゴミ箱の下に匍ったら、雨から自分を防ぐことができた。


 冬のとき、中に入る。


 中には暖かいから。


 …………


 その大きなゴミ箱は最高だった。


 …………


 でも、あいつらのおかげで、わたしは戻れる場所を見つけた。


 あいつらのおかげで、わたしは名前がある。


 あいつらのおかげで、自分の家だと呼べる場所ができた。


 本当は、いつ続けるのわからなかった。あの人生。


 だから、控えめに言っても、感謝している。



 窓から爽やかな朝日が差し込むその納屋で、わたしは目覚めた。


 …………


 そして右側に目を向けた。


 そこに寝ているのは、わたしのお父さんと、わたしの命の恩人だといってもいい男の人。


 彼の名前はカギヤマ・タクヤらしい。


 やっぱり変な名前。


 そして左側に目を向けた。


 そこに寝ているのは、わたしのお母さんと、わたしの命の恩人だといってもいい女の人。


 彼女の名前はましろらしい。


 やっぱり変な名前。


 わたしは体を起こし、盛大なあくびを漏らしながら伸びをした。


 ………………………………


「お腹空いた」


 と、自分に呟くと、寝ているお父さんのほうに目をやった。


 近いうちに醒覚しそうな気配はない。


 はぁ〜。


 やるしかないなぁ。


 匍匐前進し、父さんの元へと近づいて、


「タアちゃん〜。朝だよ〜」


 と言った。


 …………


 反応はない。


 もう一回やってみよう。


「タアちゃん〜。

 朝だよ〜。

 起きて」


 …………


 やはり反応はまったくない。


 ため息をついた。


 すると、寝ているお母さんのほうに目をやった。


 匍匐前進し、母さんの元へと近づいて、


「マアちゃん〜。

 朝だよ〜」


 反応はない。


 もう一回やってみよう。


「マアちゃん〜。

 朝だよ〜。

 起きてください」


 …………


 沈黙に迎えられた。


 首を振って、わたしは藁に覆われていた床から立ち上がり、納屋の玄関へと向かった。


 すると、思いっ切りドアを押し開けた。


 迎えられてきたのは、世界の果てまで広がっていくような光景だ。


 穏やかな吹き抜けるそよ風に沿って揺れている畑、背景を飾っている岩だらけの山々。


 今日からここは……わたしの家なんだ。


 言うまでもなく、今朝のこの景色は、


 とても綺麗だ。




 わたしと父さんと母さんはいま、朝ごはんを食べているのだ。


 今日の朝ごはんは焼き魚と白い米。


 父さんのお手作りだよ。


 焼き魚は完璧に焼いて、味がわたしの味蕾を擽すぐっていた。一方で、白い米は軽くふわふわして、とても美味しい味がする。


 わたしたちは外で食べることにした。


 透き通る青空には誇らしげに浮かぶ爛々たる太陽が何もかもを眩しい光に照らしている。


 その青空にも枕みたいな白い雲が緩々と流れ、目の届かない所に浮かんでいく。


 時刻は八時くらい。


 これって、家族と呼ばれることだなぁ?


 優しくて友好的な雰囲気…………こういうのが好きだ。


 このまま続けば、平凡な人生を送るようになりそうかもしれない。


 そう考えると、朝ごはんから目を離し、頭を上げた。


 そしてすぐ目の前、わたしの父さんと母さんが現れた。視線に侵入してきた。


 …………


 これ、本当にいいのか?


 …………



 いや、いいだよ。


 否定的な思考を追い出そうようとして、わたしは首を何回も振った。


「大丈夫か?」


 と、声が聞こえた。


 頭を上げり、父さんと目が合って、思わず心臓がドキドキしちゃった。


 赤色。


 まるで、紅玉そのものだ。


 その紅玉のような瞳には螺旋の感情が混じり合い、新しい何かを作っていく。


 その何かは一体なんだ?


 心配か?


 いや、ありえない。


 どうして出会ったばかりの人に対して……もしかして…………いや、可能性は低い。


 そんなわけないでしょう?


 思考から脱出し、母さんと父さんがこっちを見ていることに気づいた。


 愧赧しまった。


「ごめん。

 ぼっーとしてしまった。

 うん、大丈夫よ。

 本当に。だから心配しないで」


 と、言っちゃった。


 けど納得できないかのように父さんは目を逸らしていない。その宝石のような瞳がわたしに睨みつけ、魂を貫いてくる。


 死ぬほど恥ずかしい。


 もうやめて。


 と、わたしの嘆願を聞いたかのように父さんは優しく微笑んでようやく目を逸らした。


 わたしは安堵のため息を漏らす。


 すると声が聞こえた。


 父さんの。


「なら大丈夫。

 一瞬びびったぜ」


 びびった?


 なんで?


 もうなにもかもがわからなくってきた!


「さぁて。

 今日の朝飯が終わったら丸太を集めに行くよ!」


 丸太?なんで丸太を集めに行くの?


「ようやく本気になったよね」


 と、母さんが言った。


 それに父さんは、「当たり前だぜ」と気楽に宣言した。


 なんの話かはわからない。



 森が嫌い。


 怖いから。


 特に真夜中の森が嫌い。


 いや、大嫌いのほうがいいと思う。


 だから「丸太を集めに行こう」と、父さんが急に言い出した瞬間、身の毛の弥立つ思いがした。


 納屋に近い森の奥を、わたしたちは歩いていた。


 太陽が未だ、透き通る青空に浮かんだが、森を照らすのは茂った木々の葉を通して日光のみ。


 やはり怖んだ。


 でも、お父さんとお母さんに見捨てられたくないからわたし「お手伝いします」と申し出した。


 失敗した。


 でもよく考えてみると、放置されたくなかった。


 わたしには何も持っていない。


 いや、何も持っていなかったのを言うべき。


 なぜなら…………


 わたしは頭を上げて真っすぐに目をやった。


 父さんと母さんが微笑みながら何の悩みもなくようにくつわを並べて歩いていた。


 微笑まずにはいられない。


 そう、わたしには両親がいる。


 わたしには守るべき物が存在する。


 足が勝手に速まった。


 心臓の鼓動も勝手に速まってしまった。


 でも、わたしはもう我慢ができない。


 感謝。


 感謝しすぎる。


 だから、わたし、


 ……………………


 ……………………


 ……………………


 迂闊だった。


 石に躓いて顔から地面に打付けた。


「アリス!!」


「アリス!!」


 と、二つの声が聞こえてきた。


 言うまでもなく、その二つの声は母さんと父さんの声だった。


 あ〜


 心配してくれた。


 嬉しいよ。


 本当に……嬉しいよ。


 そして全てが漆黒に溶けていった。



 鳥のさえずりに、わたしは目覚めた。


 最初に目に入ってきたのは、天井だった。


 …………


 この天井を知ってるでしょう?


 ………………


 いや、知ってるに違いない。


 つまり、


 わたしは上半身を起こし、周囲を分析すると……やはりここって、わたしの家だ。


 ………………


 パパとママは?


 わたしは右側に目をやった。


 誰もいない。


 次は左。


 誰もいない。


 みんなはどこに行った?


 と、自問すると、藁に覆われていた床から無理やり体を起こした。 


 ここにいないので、外にいるに違いない。


 そう判断すると、納屋の玄関へと向かった。すると、先と同じように思いっ切りドアを押し開けた。


 そして目を細めた。


 日射しは強すぎるから。


 外へと踏み出した。


 そして、


「アリス!」


 誰かわたしの名前を呼んだ。


 母さんだった。


 けど父さんは?


 一体どこに行っちゃった?


 慌てて見回したが、どこにも見当たらない。


 つまり、


「あ、アリスか。

 ようやく起きたか?

 調子どう?」


 声が聞こえてきた。


 父さんの声だった。


 わたしは左側に目をやると、そこに立っているのはやはり、わたしの父さんだ。


 わたしのパパだ。


 なんだ、この感覚って。


 とても暖かくって気持ちいい。


 わたしは微笑んだ。


 そして無意識に、


「ママ……パパ」


 と、言っちゃった。




 …………


 …………


 …………


 不意をつかれて、俺は一言も言えなかった。


 気まずい沈黙が支配していた。


 ………………


 それはさておき、今なんって言った?


 ママとパパ、……だよな。


 うん。


 そうだよな。


 まあ、公平のために言うと、初めて会ったとき「俺の娘」だとあいつを呼んだが、それはまるで、誰かに憑かれたようだから記憶が曖昧。


 調子に乗りすぎた。


 いや、勘違いしないで。


 俺はいま、超嬉しんだけど、いきなりそんなことを言ったら困るし。


 しかも、なんでましろがママなの?


 確かに可愛いし、忠実だし…………


 けれど何よりも狼だぞ。


 まあ、狼だからと言って、付き合わないとは限らない。


 俺、獣耳の女の子が好きだから。


 そして考えれば、ホロも狼だよな。むしろ狼神という用語はもっと正しい。


 子供のころ、彼女が俺のお嫁だったから文句を言う余裕なんかない。


 ふむ。


 文句なし。


 何回も頷いたあと俺、目を開く。


 そして優しく、微笑んで、


「無事で良かった」


 と、心の底から言った。


 衝撃を受けたような表現がアリスの顔を飾っていて、涙が(まなじり)に迸り出てくるほど目を見張った。


「お…おいちょっと。

 なんで泣いてるの!? 

 びくりさせてごめん……ね」


 俺が必死に謝ると、アリスは激しく首を振った。


「違う。

 そうじゃなくて」


 と、小さな声で言った。


「じゃあ、

 一体なんだろう?」


 俺が聞くと、アリスは


「…………」


 何も言わなかった。


 どうして急に静かになったの?


 どう考えてもおかしいだろう?


 …………


 いや、おかしくない。


 あいつでも自分の感情がわからない可能性がある。


 まあ、そりゃ仕方無い。


「腹減った?」


 俺が聞くと、2−3秒が経つとアリスは「うん」と呟きながら頷いた。


「よし!

 じゃあ、

 なにを食いたい? 

 何でも作ってやるぞ!」


「何でも?」


 それを言うと、アリスは悪戯っぽく笑った。


 あ、超特大の地雷を踏み付けたような気がする。


 まさか……な。


「じゃあ、

 ひさしぶりにドラゴンテールを食べたいからそれちょうだい!」


 ………………


 ………………


 ドラゴンテールって何?


 龍の尻尾?


 いや、そりゃちょっと……


「えっと…お」


「なんでもって言ったでしょう」


「ダヨナアーー」 


 じゃあ、これからどうする?


 ドラゴンテールを手に入れるためにきっと、ドラゴンを討伐しなきゃいけないのだが、俺はレベル1の上に、戦闘経験がないし。


 つまり、約0.01秒で死ぬぞ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ