第1章『異世界転生、そして新たな人生の始まり』
ども、作者の嘉神束颯です。
読んでくれてありがとうございます。
日本人ではありませんので、誤字脱字や不自然な日本語をあらかじめ謝罪します。
ごめんなさい。
そしてこれから宜しくお願い致します。
「鍵山拓也さん、ようこそ死後の世界へ。
残念ですが、謎の心臓疾患で亡くなってしまいました」
真っ白な部屋の中、俺は唐突にそんなことを告げられた。
これが......現実だよな。
物心ついた頃、虚弱児だった。
入退院を繰り返しており、ほとんど学校に行けなかった。
けれど、俺が死んだということを唐突に告げられてるなんて驚きを禁じ得ない。
部屋の中には小さなコーヒーテーブルが真ん中にあり、そして、そのテーブルの上に熱湯が入っているポットが置かれていた。
俺に人生の終了を告げてきた相手は、テーブルの向こうで椅子に座っていた。
言うまでもなく、目の前の相手は見た目から判断すると、女神というものに違いないのだろう。
それ以上でもそれ以下でもない。
淡い水色の長い髪に、陶器とも思われるとても白い肌。
年は俺と同じくらいだろうか。
出過ぎず、足りな過ぎな完璧な躰には、淡い青色の、俗に羽衣と呼ばれる布切れに包まれていた。
まるで、俺の魂を突っ込もうようとしているかのように、髪や羽衣と同色の淡い碧眼が瞬くことなく俺をじっと見ている。
言うまでもなく、俺はうっとりしていた。
「ついに死んだよな、俺?」
「ええ。悲しい人生でしたわ。
両親と妹は通り魔に殺されたし、彼女や友達が一人もいなかったし、あの世の重荷を自分の肩に背負い込まざるをえないし……
一体どうしたら自分の正気を保つことができたんだろうか?」
「どうしたらって……急にそんなことを聞くなんて不意をつかられてるけど、
どちらかといえば、普通に生きる…………かな」
「普通に生きるか………どういう意味?」
「なんかさ、
生き続ける理由を見つけた……かもしれない」
「生き続ける理由か。
……で?」
「で?」
「生き続ける理由は?」
「俺の生き続ける理由か……たぶん、新世界の希望かな。
ご承知のとおり、俺は貧乏でした。友達も恋人もいませんでした。結果として、他人にいじめを受けてしまいました。
おまえはなぜ生きてんのかとか死ねばいいとか……察して、「俺絶対負けないぞ」という意志を世界に見せたかっただけだかな。
自分でもよくわかんないけど。ごめん」
「………そうか。
そうだよな」
「………」
「人間って、
本当に最低だな」
「そうだよな。
でもさ、仕方ないわ。
こうしてあの理不尽な世界の理」
「あの理不尽な世界?
どういう意味ですか?」
「あっ、
そういえば、
何か忘れてしまったような気がしたんだが、
まさかアレだった」
「アレ?」
「そう。
実際ってさ、ここは地球じゃないよ。
天国と人間界を繋ぐ空間だ」
「…………」
「私はアリア。
日本において、若しくて死んだ人間を導くありとあらゆる聖なる物の女神です」
「女神?」
「そうよ。女神だよ。
でもそれはさておき、あなたは今まで、波瀾万丈の人生を送って来ましたので、二つの選択肢を申し出ます。
一つは人間が含まれ、別の生き物として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。
そしてもう一つは、天国という幻想な所で荒唐無稽な後生を歩むか」
「いやその…………
天国という幻想な所で荒唐無稽な後生って、
そもそもなんの意味ですか?」
「天国ってのはね、あなた達人間が想像している様な素敵な所ではないよ。体がないんだから別になにもできないし。
食べることかオナることか。あなたはまだ童貞だから苦しんだろう? あと、前世ではアニメや漫画やラノベにめちゃハマったでしょう?
でも天国にはね、そんなことが存在しない。もちろんゲームもない。
毎日毎晩、雲で座りながら青春を謳歌してるまだ生きてる者を見下ろし、あ〜 どうしてこうなっちゃったんだろうと後悔するだけで」
「天国じゃねぇぞ!!地獄だ!!」
「うん。その通りです」
「………」
「では、異世界転生を選ぶ?」
いや、こいつ一体なんなんだろう?
「えっと、それでね、
本当に俺を異世界に転生することができると仮定して、
俺はそこで何かしなければいけないのですか?」
「いや、そこで生きるだけで良いよ。
素直に第二の人生を楽しんでください」
「そうですか」
「……文句はあるか?」
「いえ。特に」
「素直な事だ。が……本当に良いのか?」
「ええ」
「うん………
では、もうそろそろだよ」
「うん」
「こちらの都合ばかりを押し付けて申し訳無いから、
アンタの願いを少しだけ叶えてやろう」
「俺の願いですか?」
「うむ。例えば……特殊なスキルを所持したり、
良い出会いが出来るような運命を持っていたりとかだな」
「ん?」
俺の願いか?考えたことはない。
「これから俺が行く世界って、どんなところですか?」
先ず、情報を集めよう。
「アンタが元いた世界と比べると、
まだまだ発展途上の世界だな。
ほら、アンタの世界でいうところの中世時代、
半分くらいはあれに近い」
やはりなぁ〜。
その展開だなぁ。
ずっと病院で引きこもったからアニメやゲーム、ラノベや漫画にめちゃハマった。
現在のアニメコミュニティは『異世界』というジャンルが燃え上がっているから俺が行く世界って間違いなく異世界スマホとかこのすばっぽい世界だろうな。
ということは……
「あ、
言い忘れたが願いを2つ叶えてあげるから遠慮なく」
「本当ですか?
ありがたいですが、
俺、本当に何も願いことがある……」
「嘘だ。
人間なんだからな」
なんか失礼なことを言いやがった気がするんですけど。
はぁ〜
仕方ぬ。
「では、1つの願いは、
出来ればあまり人の居ない場所で生活が出来るようにしてもらえませんか?」
「人の居ない場所?」
「ええ。
それはその、町の中心で急に現れる人なんて関心を引きますから」
「だから人の居ない場所か。
わかった」
「ありがとうございます」
「では、次」
「うん」
「……」
「あー……そうですね。
あ、そうだ。
行った先の言葉を喋れるようにしてください」
「その辺りは大丈夫だ。
基本的な人間との会話は出来るようになっている」
「は、はぁ」
「早く望みを言え。
時間がないし」
「そう言われても……
再び生きられるだけで幸せというか望みの大半が叶っている状態でして……」
「では、何かしたい事とかあるか?
世界一の冒険者になりたいとか、
伝説の剣エクスカリバーを手に入れたいとか。
ってか単純に魔王さまになりたいとかでも良いよ」
「いや、
別にいいよ」
「そう言われても、こっちのほう困ってるし……」
「困ってるってそこまでか
………じゃー……出来れば、
安全な人生を送らせていただけまんせんか?
お願いします」
「え?
なにそれださっ」
「おい。
おまえ喧嘩売ってんの?」
と、心の中で言った。
だって神に対して普通の(元)人間に勝ち目はないんだからさ。
「ふむ。なるほどな。
じゃあ、アンタの望みをあたしが叶える。
あとってさ、いいことをあげる」
「ありがとうございます………?
いいことってなんですか?」
「では、
そろそろ移動の時間だ。
覚悟は良いな」
無視すんな!
「大丈夫です。
色々、ありがとうございます。
でも、いいことって」
「うむ。では、達者でな」
「おい!ちょー待ってよ」
俺はその言葉を聴きながら、身体が溶ける感覚を味わった。
目覚めると蚊の鳴き声が聞こえた。
枕の代わりに草付きから頭を上げる。
すると盛大な欠伸を漏らした。
立ち上がる。
痛みはない。
むしろ、俺の体は風に沿って飛び去っていく羽のように軽い。
襲ってくる疲労を追い出そうとしているかのように伸びをした。
すると首を振って目を開けた。
こんもりと茂った木々の葉を通して夕日が差し込んでくる。
森か?
前を見ても後ろを見ても、右を見ても左を見ても木々ばかり。
うん。絶対森だ。
……
はい! 先ずはボディチェック。
身体は……自由に動く。
健康体だ。
服は……ファンタジーゲームに出てくる村人のような格好で、ズボンにラフな上着。
下着は……紐で縛るトランクスかな。
初心者パックの一つだろうな。
まあ、俺はまだレベル1だしね。
それにしても、いいことってなんなんだろう?
と言っても、悩む余裕なんてない。
とりあえず、太陽が完全に地平線に沈む前にシェルターを見つけよう。
そう言って、俺は短い冒険を始めた。
これからなにが起こるのかはわからないのだけれど、期待している。
♢
結局、シェルターを見つけなかった。
腹減ったし、水も食料もないし。
……………
あぁもう最悪だ!
こりゃなんなんだろう?!
ふざけんじゃねぇーぞ!ちくしょー。
………………………………………
はぁ〜
疲れた〜
どこにも太陽が見えなくなっており、その代わりに月と無数の星の淡い光だけが森を照らしている。
俺はいま、草の上に寝転んで奇怪な形状にねじくれた大樹を眺めている。
頭上には分厚く枝葉が重なって、ほとんど空の色など見えやしない。
はぁ〜
と、ため息をついた。
死ぬぞ。
俺絶対に死ぬぞ。
これって“運命”と呼ばれるやつだなぁ。
深呼吸。
先ず、落ち着け。
俺は息を深く吸い込んで一気に吐いた。
これ何回も繰り返して、やがて立ち上がった。
食料はさておき、今は水が重要だ。
水を探さないと死ぬ。
ここは……自分の聴覚を信じてみる。
どこかで水の流れる音はしないか?
……
駄目だ。
不気味な風の音と、ヤバそうな獣の鳴き声しか聞こえない。
しかも、その獣の鳴き声は悲鳴のように感じた。
つまり……獣を襲う獣が居るという事だろう。
もう一つの深呼吸。
とりあえず、一歩踏み出してみるーーと、
ばきっ!
俺の背筋を、つーっと冷たい汗が伝った。
今のはなんだ!
き、木枝の折れる音?
後ろから。
俺は振り返ると、やっぱり暗くて何も見えない。
とりあえず、周囲を分析しよう。
………………………………
………………………………
………………………………
沈黙。
風の囁き声と虫や野生の動物の鳴き声だけが聞こえる。
息を吐いて一歩踏み出した。
ばきっ!
と、木枝の折れる音。
その音を立てているのは俺じゃないか?
足元を見てみる。
どこにも木枝を見当たらない。
これ、ヤバくねぇ。
なんか嫌な感じがする。
しかも武器持ってないんだ。
もし熊とか出たら、絶対に殺される。
いざとなったら、逃げるに越したことはない。
………………………
って熊から逃げ切れるなんて、っんなわけねぇちくしょー!
………………
沈黙?
もしかして、来たか?
俺は一歩前に進してみた。
しかし今回、木枝の折れる音が聞こえなった。
やはり来ましたなぁ。
ため息をついた。
するとガチガチと首を振ってみた。
そしてそこに立っているのは、
………………………………
………………………………
嘘だろ?! 嘘だろ?!
見・つ・け・た、と言わんばかりの顔をしている狼だ。
鋭い目で俺を睨んで、こっちに進んだ。
その目で残忍性が映っている。
何故?
始めたばかりなのに。俺の新生活を。
俺は首を振った。
いや。
ここで終わらせるなんて、情けないにもほどがある。
逃げなきゃ。
逃げないと死ぬ。
生きるか死ぬかどっちかいい?
その答えは一目瞭然だ。
考えるまでもなく生きることだ。
逃げるに決まってるんだが、体のほうが全然動いてくれない。
「ち……近づくな!」
戦慄せずにはいられない。
情けねー。
進んでくる。
俺は何もしなかった。
いや、何もできないほうがいいと思う。
進んでくる。
近づくな。
進んでくる
近づくなって言ってるじゃねぇか。
しかしまだ進んでくる。
しつこいなぁ、こいつ。
何かしないと…あ…あれ?
なんでそんな顔をしているの?
いや考えれば、木々を抜けた瞬間襲いかかってくる筈じゃん?
おかしい。
………
ん?
ちょっと待って。
よく見てたら、足を引き摺っている。
もしかして、怪我か?
俺はその脚に目をやった。
脚を見つめながら、無意識に狼のほうへと歩き始めた。
なんか襲い掛かってこない気がする。
歩き始めた途端に、狼は歩くのをやめた。
倒れた。
空腹やら疲労で?
わからない。
狼のところへと着いて、俺は屈んで脚を手に取った。
そしてやっぱり、怪我をしたんだ。
噛まれたようだ。
傷口が深い。
せいぜい、化膿する前に細菌を死滅できるくらい。
とりあえず、
俺は傷が痛まないようにそっと倒れている狼を取り上げた。
すると、目を閉じた。
池か何かある筈。
けど一体どこだかはわからない。
………
長い沈黙が森を呑み込んだ。
どこだ………どこだ………どこだ………
………………………
あれ?
もしかして、水の流れる音?
川、か?
北東から川の流れる音が微かに聞こえる。
どれくらい遠いかはわからないがこの状況ではやってみざるをえない。
こうして、俺はもう一つの短い冒険を始めた。
しばらく探すと、やがて川を見つけた。
さっそく始めるぞ。
狼を地面に置いた。
先ず、タオルの代わりに袖を引き裂く。
それからその袖を川に浸した。
絞った後、傷口を取り巻く血液を拭いた。
エチル・アルコールとか持っていないので、代わりに袖を脚に巻きつけた。
よし。
それで結構かな。
少なくとも感染しないはず。
それを済ませて、次なにしようかな
まあ、せっかく川を見つけたから、水を取っていこう。
………………………………
そういえば、水筒とか持っていないよなぁ。
……嘘だろう。
運が悪い。悪いすぎ。
改めて状況を再確認して、俺はもう何度目になるかわからないため息をついた。
すると立ち上がって周囲を見回す。
取り敢えず、使えることはあるはず。
森の中にいるというのに、山々や草原が広がり、どこか田舎の風景といった感じだった。
…………
ん?
あれは?
納屋……だよな?
見回しながら、川の向こうで納屋があることに気づいた。
♢
狼の傷の手当をしてから、かなりの時間がもう経っていた。
俺はいま、狼とともに川の辺りにある木の陰に座っている。
星空に浮かぶ満月の位置から判断すると、時刻は十二時前後といったところだ。
綺麗。
けれど寒い。
真夜中になってすぐ、気温が一気に下がってしまった。
このままじゃ死にそうぞ。
死ぬに違いない。
でも何もできない。
川の向こうで納屋があるけど、船なんかないから川を渡ることができない。
いや、浅いので歩いて渡ることができるけど、それがかなり難しい。
狼を見捨てられないから一緒に連れて行くに決まってるんだ。
けど傷がまだ治っていないので無理だ。
俺はまだ何も食っていない。
結果として、今の俺は弱い。
もし躓いたら、溺れるに違いない。
しかも、俺だけでなく、こいつも。
はぁ〜
どうすればいい?
………………
沈黙が落ちた。
はぁ〜
俺はもう一つのため息をついた。
すると狼を起こさないようにゆっくり、立ち上がった。
とりあえず、川を渡る為に丸太か何かを探しに行くことにした。
ここで死にたくないから。
そう決めた瞬間、風が急に強くなった。
素肌を撫でて、震えさせる。
くそっ。
よりによってどうして今日は寒いんだろう?
わからない。
まあ、俺はただの人間に過ぎない。
知識の及ばない事を知るわけない。
はぁ〜
最近ため息ばっか。
病気かな?
そんなわけないんだろう?
だろう?
俺は否定的な思考を追い出すように肩をすくめながら首を振った。
ん?
すると歩き始めた。
が、その瞬間、何か柔らかい感触を脚で感じた。
歩くのをやめた。
すると見おろした。
そしてそこに俺を見上げているのは、狼だ。
………………
………………
何もしなかった。
なんだ。
そんなに俺のこと好きか?
咳払いをしながら自問した。
「おまえもついてきたい?」
「………………」
はい、として受け取って、俺は首を振った。
すると狼に微笑みかけた。
「まあいいぞ。ついてこい」
そう言うと、俺らはどこかへと歩き始めた。
これって、もしかして?
しばらく歩くと、やがて何かを見つけた。
ボロい板橋を発見した。
俺らが居た木から、五十歩くらい離れた板橋。
うん。
これでいける。
けどやはりなんかヤバそうに見える。
「これ本当に大丈夫だろう?」
橋はボロすぎて今でも崩れそう。
さらに悪いことに、強い風が吹き抜けたら川に落ちる可能性が高い。
でも他の選択なんかないんだろう?
はぁ〜
俺はため息をついた。
やはり病気かな。
医師さんいないのか?
あとで探しに行く。
とりあえず、橋を試してみる。
試してみるしかない。
覚悟を決めて、俺は隣の狼の方を見おろした。
逆に狼は俺を見上げてきた。
なんだこいつ?
まるで……
いや、やめておく。
いろんなことを考え始めていないうちに首を振った。
すると歩き始めた。
狼が素直についてきた。
やはり、まるで主様を護っているウォッチドッグのごとく。
ふむ。悪くはない。
いや。
そんな場合じゃない。
少し歩くと、やがて橋へと着いた。
俺は無意識に唾を飲みこんだ。
すると一歩前に進んだ。
橋の軋み音が鼓膜に響きわたった。
それでも俺は未だ進んだ。
ゆっくりと、進んだ。
どれくらい時間が経っていたのかな?
たぶん、5分かな?
でもやはり、1分ごとに1時間が経っていたように感じるが、結局のところ、俺らはやがて無事に川の向こう側へと辿り着いた。
俺は安藤のため息をついた。
では、
周囲を分析して、納屋が視線に入ってきた。
一刻も無駄にせずにあっちの方に向かった。
間もなく、俺らがこの暗くて寒い世界を脱出する。
俺は無意識に微笑んだ。
しばらく歩くと、ドアの手前に着いた。
そのドアを俺が開けて中に踏み入れた。
中には光の原因はない。
真っ暗だ。
中にも冷たい空気が漂っていた。
けれど、外に比べてたぶん耐えられるかも。
手の届かない窓から差し込んでくるのは月の淡い光。
その儚げな光だけが納屋を照らしている。
でもそんなことはどうでもいい。
やっと寝る場所ができた。
さて、どこ寝るかな?
しばらく探ると、やがて藁塚をなんとか見つけた。
藁に覆われていた地面に腰を下ろした。
狼も地面に腰を下ろした。
それから長い沈黙が続いた。
ふぁ〜
と、あくびを漏らした。
すると隣に目をやった。
横にいる狼はもう藁に身を横たえて、二度寝する準備をしている。
じゃあ、俺もそろそろ寝るか。
明日は忙しいから。
先ず、お金がない。
いや、控えめに言っても金があるけどこちらの通貨がはたして使えるか?
普通に考えて使えないだろう。ラノベやアニメのおかげでわかる。
金がないので食糧も水も買えるわけないんだろう。
つまり、お金を手に入れる為に働けなければならい。
まあ、それはさておき、少し休まなきゃいけない。
そう言うと、俺は妙に柔らかい藁に体を横たえて目を閉じた。
するとやがて、眠りについた。
……………
…………………………
ここは?
俺はいま、宇宙に浮かんでいる。
いや、どこにも星の眩しい光を見当たらない。
つまり、ここって宇宙じゃない。
超空洞だ。
だから言い直す。
俺はいま、超空洞に浮かんでいる。
息苦しい。
空気が冷たい。
けど何も見えない。
……………
なんで、俺がここにいるだろう?
♢
太陽の儚げな光に包まれ、俺はゆっくり上半身を起こして、盛大なあくびを漏らした。
そして何もない。
何も出来ない。
四肢を動せない。
息ですらほとんどできない。
混乱に陥って俺は、首を振った。
なんだ……今のって?
夢……じゃなかったのだろう?
自問すると、腕に顔を埋めた。
なんだ、こんな感覚?
なぜ、俺の体は冷たいと同時に、熱い?
わからない。
記憶が確かなら、どこか宇宙のような場所に浮かんでいた。
けれどそれ以上何も思い出せない。
その夢の中、誰かの声が聞こえただろう?
その声は小さくて、かなり甲高い。
まるで、5歳の少女の声のような、そういう印象を与える……………
……………………………
ダメだ。
……………………………
ダメだダメだ。
目を閉じると、暗闇の暖かさに包まれていた。
それでも、あの夢の思い出に襲われていた。
一体、なんなんだろう?
でもやはり、答えられない。
何もわからないので答えられない。
そして全てが、止まった。
息も。
思考回路も。
全てが、止まった。
隅に縮まっているかのようだ。
そりゃ普通だろう?
……………
いや、普通じゃないよね?
そう考えると、隣に何かが動いているのを感じた。
俺は目を開いて見てみると、狼が立っていた。
俺の相棒と言ってもいい。
大きな目で俺を見つめて、心配を感じられる。
まるで、飼い主を見守っている忠実な犬かのようだ。
微笑みかけずにはいられなかった。
そうな。
そうだよな。
落ち込む場合じゃないぞ。
今はもっと重要なことがあるんだ。
食料を探していることかお金を手に入れられる方法を考えつくことか。
うん。
俺は立ち上がり、夢を頭から追い出そうとしているかのように首を何回も振った。
すると周りを分析し始めた。
まず目に飛び込んできたのは、納屋のあちこちに散らばっていた藁だ。
木材でできたが、そりゃもう朽ちている。
いつ崩れ落ちるのかはわからないので、早く引っ越した方がいいと思う。
それと、
俺は納屋の出口へと移動して、ドアを開けると、迎えられたのは荒野と言ってもいいくらい光景だ。
納屋以外なにもないようだ。
遊休農地だ。
うん、これが充分だ。
食料を捕まえて食ったあと、丸太とかを探しに行く。
あ、けれど農具とか必要だな。
お金がないので買えられない。
どうしよう?
………………
………………
………………
そういえば、ここってまだ農場だろう?
つまり鍬とか斧、いろんな農具がここにあるっていうことだ。
エーカーは……160くらい?
広い。
けれど仕方無い。
何か武器として使えることがあるに違いない。
その何かを手に入れたら、兎とか倒せて食える。
もちろんこいつも何日か食っていない。
あ、でも狼だから生のままいいの?
なのになぜ、何も食ってないのだろう?
もしかして……いや、可能性はゼロだ。
俺が気楽に微笑んだ。
とりあえず農具を探しに行こう。
それから森に戻って食える物を探そう。
そう決めて、俺らはあてもなく探し始めた。
どれくらい時間が掛かったのかはわからないが、俺はやっと錆び付いた鍬と斧を見つけた。
一方で、狼は桶を見つけてくれた。
本当に役に立つよな、こいつ。
これですまそう。
もちろん、生贄としてこいつを食える。
が、やはりそりゃ無理だ。
ずっと病院で引きこもっていたのでペットとか飼える機会はなかった。
やけに飼いたかったのに。
こいつを食うなんて、そんなことできないんだ。
グルル。
とその瞬間、俺の腹の咆哮が響く。
やけに腹減った。
いやマジで死にそう。
じゃあ、さっそくスタートするか。
そう言うと、歩き始めた。
俺らはいま、森の中で動物を狩っている。
左利きなので先の錆びついた斧を左手に持っている。
錆びついたのにかなりの鋭さが残っている斧だ。
一撃で兎くらい倒すことができると思う。
この森では熊も存在するに違いないので気をつけたほうがいい。
俺らはこっそりと歩いていた。
狼なのに意外と賢い、こいつ。
それはさておき、俺らはこっそりと歩いていて、葉擦れの音だけが聞こえてくる。
しばらく歩くと、やがて兎のような動物が視線に入ってきた。
ただ、サイズが中型犬ぐらいの大きさで、目が敵意剥き出しに光っており、その歯はサーベルタイガーのように口の端から二本、牙のように伸びている兎だったが……げっ歯類じゃないのかな?
なんか怖っ。
グルル。
しかしやはり、飢えすぎて死にそう。
心の準備ができて、俺は狼に視線を投げた。
その命令に従って、狼は考えずに兎のように見える化物を襲った。
計画は単純。
囮として狼が兎を襲い、こっちに近づけさせる。
範囲に収まってすぐ、斧で首を掻き切るって。
余裕だな。
けれど、失敗の確率はかなり高い。
例えば、もし狼が殺されたとか。
いや。
否定的な思考を追い出すために首を振った。
そして目の前の戦いに集中することにした。
狼の攻撃は惨い。
言うまでもなく早い。
これが、狼の力か。
なんか、恐ろしい。
絶えることなく兎のように見える動物を襲い続け、やがてこっちに来た。
躊躇わずに俺は藪から飛び出して、容赦なく首を掻き切った。
あっと言う間の一撃だった。
……
沈黙。
すると、
「はぁ〜。
ようやく出来た〜」
と、声を限りに叫んだ。
微笑みながら首を振った。
すると、
「お疲れ」
狼を撫でながら言う。
生き物の命を奪った事に小さくないショックを受けたが、腹は正直だ。
望んでいた食料がやっと、手に入った。
♢
その後、俺らは農場に戻った。
朝飯を食った後、丸太を集めに行く予定は確かにあった。
が、やはりこの斧が木に対して鈍い。
せいぜい薪を集めることが出来た。
俺らはいま、焚き火の側に座っている。
風に沿って煙が踊り、鼻に侵入してくる。
兎のように見える化物を倒した後に俺らはもう一回農場を探すことにして、やがて釣竿を見つけた。
川に近くにいるのをいいことに、釣りに行くことにした。
その結果、魚をたくさんゲットした。
まあ、クーラーボックスとか持っていないので八喉くらい放してしまった。
もったいないのだけれどしょうがない。
犬のように狼が俺の膝の上に頭を預ける。
そういえば、まだ名前付けてないんだろう?
そもそも、雄であろうが雌なかろうが知らない。
毛皮の色は他のとは違って雪のように白い。
スノーか?
いや、普通すぎる。
性格を考えればーー勇敢、真面目、おとなしい、おっとり、控えめ………全体的には冷静。
俺は棒を拾って地面に字を書き始めた。
候補
琥珀
空白
ましろ
ユキハ
玲奈
自分のネーミングセンスの無さに少し困るが、とりあえず地面に名前を書いて本人に選ばせる事にした。
あ、そうだ。
雌か雄かちゃんと確認しなきゃ。
少し首を傾げて、性器を窺った。
…………
うん、100パーセント雌だ。
つまり、今までの選んだ名前はピッタリ。
…………
琥珀はかっこいい。
けれどましろの方がピッタリだと思う。
空白って英語の「Blank」に当たる。それちょっとひどくない?
俺はリストから空白を削った。
玲奈か?
動物の名前として変だと思う。
玲奈を削った。
あとは琥珀、ユキハ、そしてましろ。
…………
これ意外とむずっ。
焚き火を覗き込み、魚はよほど完全調理されたことに気づいた。
手を火傷しないように気をつけて、俺は魚の両喉を手にとって引き出した。
そして狼は夢中から目が覚めた。
この際、俺はこいつの知能の高さを再確認した。
「おまえ。俺と一緒にいるつもりか?」
俺がそう聞くと、狼は「何を言ってるの?」と言わんばかりの顔をしたが、それでも頷いた。
やはり俺を理解できる。
賢いやつだなぁ〜
「じゃあ、何を呼べばいいの?」
地面に指しながら尋ねた。
一瞬俺の指を見つめただけ。
するとやがて、地面に目をやった。
焚き火だけが聞こえる。
考えているかのように書いてある名前に集中した。
すると、
「…………本当に良いのか?」
つい、そう聞いてしまった。
答えるワケはなかったが、狼の目は「なんかデリケートのような印象を与えるからいいんだよ」とか言ってるように見えた。
「うん。
わかった。
じゃあ、
これからよろしくな、
『ましろ』ちゃん」
そう言うと、微かに微笑んだ。
…………
…………
そして気づいた。
こいつ、読めるんだ。