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悪役令嬢は、思い出します。



私、シャーロット・クリアミストは完全に途方に暮れています。気づかれないようそっと壁の向こうを覗き込むと、仲睦まじいカップルとしか思えないお二方が、にこにことお弁当を広げながら談笑しています。


「どう見てもゲームはもう進んでいますわ……」


私は一人頭を抱えました。






突然ですが、私、シャーロット・クリアミストにはたった一人の妹がいます。名前をレティシア・クリアミストと言います。ハニーブラウンのふわっとした巻き毛、ぱっちりとした大きな黒い瞳、頬は桃色に染まり、幼いころから少しだけ残っているそばかすすらも愛らしい。いやはや完璧な愛されキャラです。


実際彼女はたくさんの侍女に愛され、殿方からの求婚も後を絶たないようです。


しかしレティシアの人気は、彼女の容姿だけが原因ではないようです。


彼女はそれはもう、とんでもなく甘え上手なのです。お父様にドレスをねだって買ってもらえなかったことはなかったでしょう。


もちろん私も例外ではありません。


「シャーロットお姉様!」


語尾にハートが付きそうな甘い声で名前を呼ばれるときは何かお願い事がある時です。


ある時は、家庭教師の授業をサボった時に、言い訳をしてあげました。しつこい家庭教師からの追求を逃れるのは大変でした。


ある時は、レティシア宛の恋文の返事を代わりにしに行きました。断られておいおい泣く殿方を見るのは、かなり身にこたえましたとも。


ある時は、レティシアの持っているドレスに似合うからという理由で、お気に入りの髪飾りをあげました。因みに髪飾りは5つ、ドレスは4つ程すでにレティシアに譲っています。断らないのかって?いえ、私は争いのない、平穏な生活を何より愛しているのです。


それに、レティシアの潤んだ瞳で見つめられ、「お願い」と言われると、断れないのです。皆愛すべきレティシアのために何かしてあげようと思うし、レティシアもそれが当たり前だと思っています。

実際彼女を嫌っている人を私は知りません。


しかし、本来であればそれは私の役目だったらしいのです。


私はつい先ほど、レティシアと、私の婚約者、ギルバート様が良い雰囲気なのを見て、ショックを受けると同時に様々なことを思い出しました。


まず、この世界は、私が前世でプレイしていた「グレアノラの乙女」という乙女ゲームの世界であること。


レティシアはその主人公役であること。


そして、私はあろうことか、その悪役令嬢であること。


正直信じられません。馬鹿げた話だとは思いつつ、私の容姿と名前はどう考えても、あの極悪非道なシャーロット・クリアミストなのです。


プラチナブロンドの髪、紫色の猫目、通った鼻筋、陶器のような白い肌。まさにパッケージで主人公の後ろで、腕を組み、高圧的に構えていたシャーロットです。間違えようもありません。


私はがっくしと膝をつきました。これが本当ならば、非常に、ひじょーうに、まずいことになりました。


「グレアノラの乙女」では、シャーロットはどのルートに進んでも死にます。散々主人公の恋路を邪魔した後、最終的には殺害を企て、失敗して処刑されたり。主人公をいじめ倒し、立場が悪くなって逃げようとしたところ、馬車が崖から落ちて事故死したり。主人公を可哀そうに思った攻略対象に暗殺されたり。はたまた転んで頭を打ったなんて間抜けな死に方で終わるものもあります。扱いがひどすぎませんか?許すまじ。


でも確かに、それだけ「グレアノラの乙女」では、シャーロットはひどい悪役として描かれます。シャーロットは、攻略対象の一人である婚約者のギルバートとレティシアが仲良さそうにお弁当を広げているのを見た途端に豹変し、「これ以上私から何も奪わないで」というセリフを叫びながら取り乱します。そこでギルバートがレティシアを庇います。ギルバートの最初のスチルになります。そこから、激昴した彼女の主人公いじめが始まるのです。


本当は、まだこの時点ではルートが確定していないため、ギルバートの気持ちはまだレティシアに傾いていないのですが、シャーロットは勘違いをしたということになります。


その直前に記憶が戻ってよかった……。危なかったです……。


ほっと一息ついたところで、私の前に影が落ちました。


「シャーロット様、何をそんなにアルマジロのように縮こまっているのですか?」


視線を上げると、猫耳がぴょこぴょこしている顔をずいと前に突き出されていました。私の侍女のコアです。慌てて口元に人差し指を立てます。今私がするべきことは、できるだけあのゲームのシナリオから離れることです。もちろん死にたくなんかありませんからね。そう考えると、私たちの存在がばれたら色々とまずいです。だってここで二人に遭遇したら、あのスチルのシーンに近づいてしまうかもしれません。ここは何事もなく、穏便に、気づかなかった振りをするのが最善でしょう。


しきりに「しーっ」とやる私の顔をペシッと開いた手で押さえ(痛い)、コアは壁の向こうを覗き込みます。あ、今ちょうどレティシアがギルバートにサンドイッチを「あーん」しています。


「……」


視線を戻すと、感情のない目でコアが吹き矢を口元に構えています。止めます。それはもう全力で止めます。こんな所でギルバート様かレティシアに死なれたら、私は嫉妬にかられて侍女に手を汚させた、れっきとした悪役令嬢。処刑ルートまっしぐらです。


「大丈夫です、シャーロット様。麻痺するだけです。婚約者がいながら、あのような不貞を働く者にも、姉の婚約者にちょっかいを出す者にも、罰を与えなければ」


二人から目を離さずにコアが口だけで笑います。まじで怖いです。それに大丈夫じゃないです。殺害未遂で処刑されたらたまったものじゃないです。


「コア、本当に、必要ないですから……」

「いいえ、私の気が済みません。では毒を塗っていない矢だけでも」


再び矢を準備しようとするコアから吹き矢を取り上げます。没収です。


コアが恨めしそうにこちらを見てきます。うーん、レティシアの暗殺容疑で殺されるルートって、主にコアの仕業なんじゃ……と、私は訝しむのでした。






わぁい、読んでいただきありがとうございます!

ぼちぼち更新していく予定なので、お付き合いいただけたら幸いです。

頑張りますので、よろしくお願いします!

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