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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コドクなヒーロー

作者: 川坊主

 最初に目に入ったのは、医療ドラマなどでよく見る手術台の上に設置されている円形の大きな照明だった。

 次いで、周りに目を向けると見たこともない様々な機械や血に濡れた肉のようなものがあることに気が付いた。

 どこなんだここは?病院なのか?

 しかし、医者や看護師の姿は見えない。

 何故、俺はここに寝かされているんだ……。

しかも、拘束具で全身を固定されている。

 自分の置かれている状況に戸惑っていると部屋の扉が開き、1人の初老の男が入ってきた。

 「気分はどうだい?体の調子は?」

 男は焦っているのか早口で俺の体調を確認してきた。

 頭にもやがかかったように意識は少し朦朧もうろうとしているのに加え、全身に痺れがある。

 その旨を男に告げると男は泣きそうな顔になり

 「本当に君には申し訳ない。実は……、君は、全身を改造されている……。」

 その男の言葉の意味が理解できなかった。

 改……造……?

 男は続ける。

 「ここは、世界征服を企む秘密結社の地方支部の手術室だ。結社の尖兵とするために……君は、私の手で改造されたのだ。」

 「何……だと……!」

 こみ上げる怒りに任せ、全身に力を入れると体に着けられていた拘束具が次々と引きちぎれた。

 予想以上に発揮された力に驚き、冷静さを取り戻す。

 「君の怒りはもっともだ……。私も、無理矢理改造手術をさせられたとはいえ、このような非道は許せるものではない。そんなことに今更気付いてしまった……。」

 「何を今更……!」

 「その通りだ。本当に今更だ。だが、私にも君を改造しなくてはならない理由があったんだ……。実は、君以外にも改造手術を受けた者たちがいる。それらの改造人間を君に倒してほしいのだ。」

 勝手なことを言ってくれる!

 「倒す必要があるのか?改造されたとはいえ、俺は結社に協力する気はないぞ。他の奴らも同じじゃないのか?」

 「いや、君だけが特別なのだ。君だけ最後の手術……脳手術が終わっていない。だから君は自我を保っていられるんだ。」

 俺でなくてはならない理由があるのか?いくら改造人間でも自衛隊等が相手では勝てないのではないだろうか?

 そんな考えを見透かしているかのように男が口を開く。

 「改造人間には、改造人間でしか対抗できない。改造人間にはそれぞれ特殊な機能が付加されている。強力な攻撃であったり、強固な防御であったり、広範囲な攻撃、毒、瞬間回復、炎や電気の操作。個体によって様々なものがある。人間では、どうやっても対抗できない。」

 個体によって……?俺にも……あるのか?

 青ざめる俺に男は告げる。

 「もちろん、君もある。君のは特殊なものだ。腕力やスピードなどの基本能力を低くしている代りに強力な機能が付与されている。学習機能と自己進化だ。」

 とても、戦えるとは思えない機能名が出てきた。

 「学習すればするほど、その学習に合わせて君は強くなることができる。だから、学習して他の改造人間を倒してほしい。」

 「断ったら?」

 「断られても、私は君に何もできない。ただ、止める者のいない改造人間が野放しになり、結社の思い通りになるだけだよ……。」

 結社の行おうとしている世界征服。

 人間を勝手に改造するような奴らだ。

 ろくなものではないだろう。

 家族や恋人、友人、炎に包まれた街が思い浮かぶ。

 とても許せるものではない!

 「……わかった。……戦おう。だが、体は思うように動かせないのに加えて、俺は他より能力が低いんだろ?今のままでは戦えないぞ。」

 「大丈夫だ。私が時間を稼ぐ。君はここを脱出し、戦う力を習得するんだ。」

 「死ぬなよ。絶対にあんたも助け出してやる。全部終わってから体を元に戻してほしいしな。」

 男は、驚いたような顔をした後で微笑んだ。

 「ああ、待っているよ」


 結社を脱走してから数か月が過ぎた。

 脱走してすぐに俺は、様々な格闘技や武器の使用法を独学で勉強した。

 たった1人で戦うために。

 他の人を巻き込まないために。

 俺は戦闘方法の習得を急いだ。

 だが、急ぐ必要もないくらい俺に搭載された学習機能と自己進化機能は本当に優秀だった。

 見ただけで物事の本質を理解し、習得する。

 そして、格闘技などであれば、効率的に技を再現できるように肉体の機能も改善されていく。

 アニメやゲームに出てくる技も再現できるほどだった。

 俺は目に見えて強くなった。

 

 そんなある日、遂に改造人間が俺の前に現れた。

 他の奴らは、俺とは違い戦闘用の特殊な機能を持っている奴らばかりだった。

 いくら格闘技や手近な武器を使用しても中々勝つことはできなかった。

 戦えば戦うほど相手の動きを覚えて対応したが、相手も毎回微妙に動きを変えてきており、何度も負けた。

 だが、俺が死ねば世界が征服されてしまう。

 死ぬわけにはいかなかった。

 命からがら逃げるのが常だった。

 しかし、負けては逃げる日々も唐突に終わる。

 俺は、改造人間達の特殊な機能を完全に理解した。

 そして、その機能を再現できるように進化した。

 俺は他の改造人間の機能をすべて習得し、すべての改造人間を撃退することに成功した。

習得した機能の1つである索敵機能を使い、結社本部の位置も把握してある。

 後は結社に乗り込み、すべてを終わらせるだけだ。


 結社の本部に乗り込むと銃器を持った兵隊や戦車、戦闘ロボットなどが出てきたが、今の俺の敵ではない。

 すべてを撃退し、奥へと進む。

 レプリカだろうか、過去に戦った改造人間まで出てきた。

 こいつらも俺の敵ではない。

 もう、こいつらから学ぶこともない。

 改造人間たちも一気に打ち倒す。

 すべての防衛機能を突破し、最奥に到達する。

 そこには、俺を逃がした初老の男が立っていた。

 「ここまで来たのは、やはり君だったか。約束どおり待っていたよ。」

 「何故、あんたがここにいる。捕えられているか殺されているものとばかり思っていた。」

 男は不敵に笑みを浮かべる。

 「そんな訳があるわけないだろう?私が結社の首領なのだから。」

 男の言葉をすぐには理解できなかった。

 「驚いているようだから説明してあげよう。私はね、軍を相手にしても勝てる改造人間が欲しかった。だが、最初から強力な機能を複数持たせるとバランスが崩れてしまってね。なかなか上手くいかなかった。だから、機能は最小限にし、他から機能を学習させることにしたのだ。」

 得意げな男を俺は鼻で笑ってやった。

 「じゃあ、残念だったな。気まぐれで逃がした脳改造していない奴がその強力な改造人間になって戻って来ちまったぜ?」

 言うが早いか、俺は男に向かって、目から逃げ場のない広範囲なレーザー砲を照射する。

 「!?」

 だが、男は無事だった。

 何故か俺は殺傷能力のないタダの光を男に照射していた。

 わけもわからず俺は呆然と男を見つめる。

 男は、無事であることがさも当然とでも言うように俺の攻撃を意に介していないようだった。

 「君にね、2つ嘘を吐いていたんだ。」

 男は気持ち悪い笑みを顔に張り付けて話し始める。

 「1つは、君の機能だ。実は、学習機能と自己進化は他の改造人間にも搭載していた。だが、この機能を他の改造人間は十分に使うことができなかった。この機能を最大限に利用し、私が望むように他の機能を取り込むことができたのは、『生存本能』の機能を持つ君だけだった。」

 「生存本能?」

 「確かに、機能と言うには不確かなものだ。理論は完璧なはずだ。しかし、機能として成立するかは賭けだった。」

 こいつの言っている意味が解らなかった。

 何が言いたいんだこいつは!

 「君の強い正義感。決して、他の改造人間に負けるわけにはいかない。この決意が君の中で強力な『生存本能』となり、生き残るのに長けた機能を有するように自己進化した。だから、君は負けても負けても死なずに逃げ切った。そして、その生存本能は生き残るために学習機能と自己進化を最大限に活用し、君は強くなった!賭けに……私は勝ったのだ!」

 「何が賭けに勝っただ!結局、お前の言う正義感の強い俺が生き残ったんだ!お前の野望はここで終わりだ!」

 無数の小型ミサイルを背中から発射し、指先からマシンガンを乱射する。

 しかし、ミサイルは爆発せずに男の足元に転がり、マシンガンの弾は男と無関係の所で跳ね回った。

 攻撃が男に届かない。

 俺は一気に男との距離を詰め、渾身の右ストレートを男のアゴめがけて放つ。

 いや、放とうとした。

 距離を詰めた俺は高速で拳を男の足元に振り下ろし、男に跪いていた。

 一気に全身から冷たい汗が噴き出した。

 顔を上げると不気味にニヤついた男の顔があった。

 「不思議だろう?私を攻撃できない。これが2つ目の嘘。君はすでに脳改造まで終わっている。さっきも言った通り、生存本能を搭載させるために自我を残していたに過ぎない。ま、必要な機能はすべてそろったので、その自我も既に必要ないんだがね。」

 男の顔がにじんでいく。

 泣いている場合ではない。

 打開する方法を考えなくては。

 こいつを倒さなくては。

 両親や姉弟、恋人、友人様々な人の顔が浮かんでくる。

 必死に立ち上がる。

 男は警戒したのか、少し後退した。

 マシンガンを放つことはできる。

 密着して撃てば外しようがない。

 ゆっくりと渾身の力を込めて男に手を伸ばす。

 「頑張っているところ悪いが、私がこのスイッチを押してしまえば君の自我も終わりだ。」

 男の右手に小さなスイッチが握られていた。

 俺は絶叫しながら腕を伸ばす。

 脳が拒絶しているのに無理矢理腕を動かしているからか筋肉が断裂し、皮膚が裂けて血が噴き出す。

瞬間回復の機能で負傷した箇所は瞬く間に修復するが、またすぐに別の箇所から血が噴き出す。

酷い痛みが伴うが、そんな事を気にしている暇はなかった。

 頼む!間に合ってくれ!

 「必死のところを悪いが、君の腕よりも私の指の方が早いようだよ。」


 頬を伝う熱い滴。

 それが……この世で最後に感じたものだった。

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