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仲間に、入れてください

 駆け出した吉花は、さほど走らないうちに目当ての人影を見つけた。

 いつの間に買ったのか、後ろ頭におかめの面を着けた赤い着物の男と、この町では珍しいフードを被った黄色い着物の二人組は間違えようもない。


「待ってください、赤塚さん、お辰さん!」


 よく目立つ二人の後ろ姿に声をかけると、振り向いた赤塚が嬉しげに片手を上げる。


「おお! なんだ、あんたもこっちに用事があんのか?」


「いえ、あの」


 一緒に連れて行ってください。そう言おうと思って駆けてきたのに、吉花の口は戸惑い言葉を濁す。

 勢いで走ってきて声をかけたけれど、彼らに同行したい理由は、自分の気持ちを紛らわせるため。これから仕事に向かうという彼らについて行きたいと申し出るには、あまりに不純な動機だ。けれど、ひとりで長屋に戻ればもやもやと考えてしまうのがわかりきっている。

 悩み、口ごもる吉花を見て辰姫が首をかしげる。


「吉花、一緒くる?」


 自分で発した言葉が、気に入ったのだろうか。辰姫はにいっと歯を見せて笑うと、ひょいと吉花の腕に飛びついてぐいぐい引っ張る。


「一緒に行こう。これ名案!」


「え、ええと」


 吉花としては嬉しいけれど、仕事の邪魔になるのではないだろうか。辰姫が気を使って誘ってくれているのであれば、断らなければ迷惑になってしまう。

 そう思って吉花が赤塚の顔を伺い見れば、彼はにかっと笑って親指を立てる。


「おう、そうだな! 人数が多いほうが聞き込みできる相手の数も増えるし。何せ相手は何考えてるのかよくわからん妖怪だ。いろんな視点があったほうが、調査も捗るってもんよ!」


 飛び入り調査員、大歓迎! と言う赤塚に、吉花の方が戸惑ってしまう。その戸惑いを見て取った辰姫が、しゅんと肩を落とした。


「吉花、忙しいならいい。またね、しよう」


「あ、いえ。忙しくないです。むしろ時間を持て余していたところなので、お手伝いさせていただけるなら嬉しいです」


 吉花が慌てて否定すると、辰姫はびょんと飛び上がって喜ぶ。赤塚も張り切ってよし、行くぞ! と声を上げ、吉花はあれよあれよと言う間に彼らの調査に加わることとなった。

 調査と言っても、今回は目撃証言が一件しかない。そして森がぬりかべに会ったという場所のあたりでの目ぼしい相手への聞き込みは、もう済ませてしまっているという。かなり広い範囲で聞き込みをしたらしいのだが、手がかりになりそうな話は聞けなかったようだ。


「森のおやじが妖怪に会ったってぇ場所も、はっきりとはわからねぇ。暗くてわからなかっただの、驚いてたから記憶があやふやだのと言ってたからな」


 そんなわけで、ここ数日は範囲を広げて色々な店の人に声をかけてみているらしい。先ほどのお祭り通りにいた賑やかな店主たちとも、その関係で言葉を交わしたという。


「そんでまあ、手当たり次第に話しかけてみてるとこなんだが、何か他にいい策ないかねぇ?」


「無策、打つ手なし。求む、良案!」


 連日、赤塚だけでなく手が空けばヨルや水内、辰姫も聞き込みをして歩いている。けれど、新たな目撃証言も無ければ、妖怪絡みの困り事も見つからない。

 そろそろ聞き込みをする相手にも困ってきたところだったので、誰でもいいから案を出してほしい、というところであったらしい。

 そんな話を聞きながら歩いているうちに、件の妖怪が出たと思われる路地のあたりに着いたようだ。至って普通の小道の隅に三人並んで、辺りを窺う。屋台がぽつぽつと並び、人がまばらに行き交う、なんの変哲もない道だ。


「そういえば、ぬりかべってどんな妖怪なんですか? 私、大きくて硬いこんにゃくみたいなイメージしかないのですが」


 ぼんやりと通りを見ていた吉花は、ふと対象について知らないことに思い至って聞いてみる。すかさず右手を上げて答えてくれたのは辰姫だ。


「ぬりかべ。九州の方にいくつか伝承がある。夜道で急に前に進めなくなる、目の前が真っ暗になる。壁は黒かったり、見えなかったり色々。たぬきの仕業とかいたちの仕業とか言われてる」


 すらすらと告げられる情報に、吉花はふむふむと頷く。そして、思いついたことをそのまま言ってみる。


「たぬきやいたちの仕業なら、のっぺらぼうさんに聞いてみてはどうでしょう? 以前、狐の騒ぎのときにも活躍されてましたから、妖怪の気配みたいなものを感じられるのかもしれません」


「おぉ! そいつぁ良いな。鉢合わせた現場でも特定できりゃ、そこに絞って張り込みもできるしよ」


 手を叩いて喜ぶ赤塚に、辰姫がぴっと手を挙げ待ったをかける。


「のっぺらほう、書き入れ時。妖怪ツアー大盛況」


 どうやら、夏の怪談人気のためにのっぺらぼうは仕事が忙しいらしい。生き生きと人を驚かすのっぺらぼうを想像して、吉花はくすりと笑ってしまう。

 では他に案はないか、と考えるけれど、そうそう良い考えが浮かぶわけもない。のっぺらぼうの助っ人は暇を見てお願いするとして、今夜は引き上げとなった。


「いやあ。それにしても、あんたに聞いてみて良かった。仲間内だけでやってると、新鮮な意見、ってぇのがなかなか出ねぇからな。できたら、今後もよろしく頼むぜぃ」


 長屋へ向かう道すがら、赤塚のくれた言葉は願っても無いもので、吉花はすぐに頷いたのだった。

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