プロローグ 買われる
俺の名前はルドルフ アレスター。
とある小国、ボレスポ共和国で奴隷として売られている。
毎日毎日、市場の一角にある檻の中からこっちを舐めるように品定めする商人や、アホ面の冒険者、通行人から哀れな目で見られるだけでクソ不味い飯が貰える。おまけに服だって半年に1度くらいでボロ布で出来たシャツと短パンをくれる。まったくもって素晴らしい身分だろ?
俺は元々奴隷身分ではないがある事件がきっかけで盗賊に攫われ今に至った。
全ては2年前に遡る。
遠く離れたコスタ王国であまり裕福でない農家の家に生まれてから14年間貧しくも幸せに生活してきた。そしてそれまで通りしていくはずだった。
全てが一変したのは2年前の春。
魔王の一撃が戦争とは無関係なコスタの街を襲い王国全土が壊滅的な被害を受けた。幸い俺は街の外れにある教会に行っていて直撃を免れ助かったが俺を残して父親も、母親も皆死んだ。
それからはどうしようもなく孤児として物乞いをしたりゴミ箱を漁ったりして子供ながら器用に工夫し、同じ孤児と協力したりしてガレキの山で生きていた。コスタの街じゃああの一撃以来俺みたいな子供がたくさんいたんだ。
保護しようにも皆余裕がないから見て見ぬ振り。
だから慈悲の目で見てくる遠くから来た冒険者に物乞いするしかなかった。
そんな中、向こうから声を掛けてきた奴らがいた。珍しいなと思い振り向いた途端ドンッ、と殴られ気づいたらロープで縛られ馬車の中。遠く離れたボレスポで奴隷になっていた。
俺を攫った盗賊は俺の銀色の髪と紫色の目を見て魔族の孤児かなんかだと思ったのかもしれないが魔族が孤児な訳あるかよ。
魔族なんてものすごい魔力を発していて目立つんだから孤児なんてしてたらすぐ保護されるか攫われるかだ。
盗賊なんて目先の利益しか考えてない馬鹿ばっかりだ。
俺が魔族な訳ないのによ。早とちりで攫ったんならコスタ王国に返して欲しかったね。
そんなこんなで2年間ずっと売れ残ってる。
まだ俺は16歳でこの奴隷市場の中でも子供を除けば一番若いのに売れない。何故かって?
理由は簡単。
弱いから。この世界では闘えない奴隷とかわいい女奴隷以外はただのゴミ同然。
俺のステータスを見ればどんなに優しい冒険者でも俺から目を逸らす。本当に戦闘力が皆無だ。
以前自分のステータスを見せてもらったことがある。絶望したよ。思わず笑っちゃったくらいだ。
戦闘力、攻撃魔法、回避力、その他諸々戦闘系のスキルランクF。SSSからFまでスキルランクがある中で最低ランクだ。ランクは上がるが元々最低ランクの奴の成長なんてたかがしれてる。
そんな俺だったが特殊スキルが発生していて、それが唯一突出していた。
女子力スキル。
これだけはランクSSSとカンストしていた。
意味わかんねーよ。女子力スキルってなんだよ聞いたことねーよ。他のどの奴隷にもなかったぞ。
戦闘力もダメ、回復魔法もそこそこ、女子力スキルがカンストって需要あんの?
こんなんだから子供のお菓子程度の値段で売られてるのに誰も買ってくれないんだ。
_________________________________________
「はぁ....」
今日何度目になるだろうか、ため息を吐き下を向く。
しかし顔を上げて外に顔を向けてないとギャンと言うオッサンの奴隷商人に怒られるためすぐさま顔を上げると、1人の少女が立ち止まりこちらを見ていた。
こちらを澄んだ瞳でじっと見つめる少女。首から下げている俺のステータスカードを見ているのだろうか、見やすいように前に出て会釈する。
少女はこの国では珍しい純粋な黒髪ロングで綺麗に後ろでまとめられ、髪と同じ位真っ黒で澄み切った瞳は子供がおもちゃを見ているようにキラキラと輝いている。
顔は決して美人とは言えないが、大人っぽさの中に少し幼さが残るかわいい系の顔立ちとは裏腹な、女性らしい色気を感じさせる体つきが目を惹く。
魔術師なのだろう、色白な肌は大部分が深緑のローブに隠され、手には驚く程大きな魔石が付いた杖を握っている。
そんな少女に見とれていると微笑む少女とふと、目が合った。
「あなた。面白いスキル持ってるのね。」
「この女子力スキルのことですかね?」
「ええ、私の国ではすごく重要なスキルなのよ?そのスキルがSSSランクってあなた何者なの?」
「さっぱりわかりません。奴隷になってから気付いたものなので....。」
そう、と言うと顎に手を当てて悩むように俯いた。
しかしこの少女。1人で旅をしているのだろうか、普通奴隷を買う時はパーティメンバーと一緒に来るものなんだが。もしかしたら冒険者じゃないのかも知れない。でもこんな立派な杖を持ってるということはやはり冒険者か、俺とあまり歳は変わらなそうだが....。
「・・・決めた。私、あなたを買うわ!」
「え?」
悩む少女を見て俺まで悩んでいると急に顔を上げ俺の目をしっかりと見て言った。
俺を買う、と言った。
はっきり俺を買う、と言った。
「だから!あなたを買うわ。そして私のパーティメンバー第一号にしてあげる。」
得意げにニカっと笑いとこちらを指さしてまた言った。
「あ、ありがとうご、ございま、ます....?」
えっ?買う?パーティメンバー?
突然の出来事と衝撃でうまく喋ることが出来ず、頭が回らなくなって今の事態がのみ込めない。
「さっそく奴隷商人と話つけて来るわね。」
そう言うと檻の前から足早に駆けて行った。
どれくらい経っただろうか俺はようやく理解しその場に膝から崩れ落ちた。
あぁやっと出られる。
今はこの事実だけで十分だ。この先のこととかどんな思惑なのかとか余計なことを考えたくない。
解放される、それだけでいい。
気付くと俺は泣いていたようだ。
ガチャっと鉄格子の扉が開く音がしてそちらを見ると
涙で霞んだ視線の向こうでこちらに手を伸ばし優しく笑いかける少女が涙の中にはっきりと見えた。
「よろしくね。ルドルフ。」
これから彼女との冒険が始まる。
女子力って大事ですからね。