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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第一章 一学期
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第7話 ここに鬼畜あり

 俺の登校二日目。


 あのヤンキー女、作田巧が、ユウコとどんな関係なのか? なぜ俺とユウコとの関係を知っているのか? 色々と疑問は残る。


 しかし、例えいくらユウコの事で脅されようと、この学校に通うかどうかは俺が決める。

 基本、ユウコは俺の味方であるはず、俺のやりたい事の邪魔はしないはずだ。俺の目的はあくまで大学進学。この学校が進学に無益なら、長居は無用、すぐに辞めるに越した事は無い。


 俺が学校に着いた時、ちょうど自転車で登校してきた巧に会った。

 巧ときたら、なんと作業着で登校、おまけに自転車は新聞屋が乗るような無骨な実用自転車で、およそ可愛さの欠片も感じさせないその姿に、俺はゲンナリとした気分になった。


「おはよー」

「お前、毎日その作業着で登校するつもり?」

「悪いかよ! ウチ工業高校だし、実習しか無いんだぜ? 私服登校OKだし、これでいいじゃん」


 しかしまぁ、見た目はそう悪くないだけに、残念度が半端無いな、と汚い作業着姿の巧を見て強く思う。


「いつまでジロジロ見てんだよ、気持ち悪いんだよ。で、お前、作業着持ってきたか?」

「そんなもの、持ってきてないよ」

「何だよ、その格好で作業するつもりかよ?」

「作業なんてするかよ! 俺は実習とやらの時間を、勉強に当てさせてもらうぜ。大学受験だけは失敗しないためにもな」

「オマエ、きちんと実習しないと、卒業できないよ? 高校卒業できないと、受験も無理なんじゃない?」

「だったら、別にこんな学校辞めて大検取るから大丈夫だよ。俺、お前らと違って頭イイからな」

「あのさ、何も知らないようだけど、多分オマエ、この学校、辞められないよ」

「それは、どういう意味だ?」

「さあねー、校長にでも聞いてみれば? ケケッ」


 イヤな笑い方しやがって・・・。俺はイヤな予感を感じ、大慌てで校長室へ急いだ。

 それにしてもなんだ、巧のあの余裕をカマしたような顔は? 何を知ってる?

 そんな俺の心の不安とは裏腹に、校長は例のごとく、うすらボンヤリとしながらコーヒーを飲んでいた。


「いやあー、1人というのは何かと大変だね。お茶も自分でいれなきゃいけないし、話す相手もいないと退屈で、眠気と戦うのに必死だよ。で、何の用かな?」

「先生、作田巧がヘンな事言ってたんですが? 俺がこの学校、辞めたくても辞められないはずだって、一体どういう事ですか?」

「いや、辞める事はできるよ、うん。ただし、辞める際には、借金は返済してもらわないといけない。もしかして、その事かな?」

「しゃ、借金!? 何の事ですかっ?」

「あれ、お母さんに聞いてないのかい? 君の作業報酬の前借りの事だよ?」

「さ、さぎょうほうしゅうぅぅ?」


 校長の話だと、この学校は実習に使われる原材料や電気代、その他経費は、実習、すなわち労働で得た収益で賄われ、その差額は作業報酬として生徒に還元されるらしい。その作業報酬をババアが前借りしたと言うのだ。


「ふ、ふざけるなよ、聞いてないぞ、そんな事・・・」

「そんな事、ボクにいわれてもねぇ。自分の事なんだから、しっかりしないとダメじゃないか」


 よく考えると、この学校の入学に関しては、ババアと牧野で勝手に決めた事だった。

 失意のドン底にいた俺は、もうやけっぱちな気分で、何一つこの学校の事なんて知ろうとしていなかったのは事実だ。

 しかし、作業報酬の前借りだ? 借金だ? 誰がこんな酷い仕打ちをされる事を想像できる?


「それで、ババアは幾ら前借り、したんです?」

「えーと、300万だったかな」

「えーーーーっ! さ、さ、300万! そんなバカなっ!」

「しっかり働いて返してね」

「返せねーよっ、そんな金! っていうか、ここ学校だろっ? 聞いたことねえよ、生徒働かせる学校なんて!」

「ボクも聞いた事ないよ、本当、ヘンだよね」

「ヘンだよね、じゃねえよっ! これじゃあ、まるで売られたみたいじゃねえか! 何時代の話だよ! ああ野麦峠かよっ!!」

「うーん、言われてみればそうかもね。でも大丈夫だよ、しっかり働けば貯金もできるかもよ? ただし運営費より収益が下回った場合は、借金増えちゃうかもよ」

「借金増えちゃうかもって、あ、あんた、人事だと思って・・・。お、俺はどうやって金を稼げばいいんだよ!?」

「学校にある機械、自由に使っていいんだから、すぐに稼げちゃうよ」

「き、機械なんて使えねーよ。べ、勉強どうするんだよ、お、俺の、だ、大学受験は?」

「・・・さてと、仕事仕事」

「おい・・・、コウチョーせんせー・・・」


 俺は取るものも取り敢えず、自宅へと向かった。ウチのマンション前に見かけない真新しい車が止まっていたので、何気なく中を見ると、何と、ババアが今まさに出かけようとしている所だった。


「テ、テメーーーー! ま、待てっ!!!」

「あれ、アンタ学校どうしたの?」

「どうしたのじゃねえーよ! てめえ前借りってなんだよ、前借りって!? 300万どうしたっ!」

「何? 前借りって?」

「トボけんじゃねえっ! 学校から借りた金だよっ!」

「ああ! 契約金の事ね。それなら、もう使っちゃった、てへっ」

「はあぁーー? 契約金? 使っちゃったあぁ? てへっ?」

「牧野先生から、アンタの学校って生徒がお金稼げるって聞いてさ、そのお金、なんなら前金みたいに先に渡す事もできるよって言うから、じゃあ先に貰っておこうかなー、って思って。それって、契約金みたいなものよねえ?」

「ふ、ふざけんなよ、違うだろっ契約金とは! だいたい、それって俺の金だろ!? 俺が学校辞めたら、それ全部借金になっちまうんだぞ?」

「そうなのー? じゃあ辞めたら大変だね」

「そうなのー、じゃねえだろっ! 返せよっ! 金返せよっ! 今すぐ返せよっ!」

「無理だよ、だって使っちゃったし、もうウチにお金、残ってないよ?」

「か、金、どうした? ちょ、貯金は?」

「実はママ、最近FXで失敗しっちゃって、ウチのお金、ぜーんぶ無くなっちゃいましたっ! で、契約金でこの車買っちゃった事だし、ちょっと自分探しの旅に出よーって思ってまーす」

「ウ、ウソだよな? い、いくら何でも・・・」

「ウソじゃないよぉー。日本一周して帰ったきたら、またガンバんないと! 英気養ってくるから応援してねぇ! あ、そうそう、忍ちゃんもがんばってね!」

「お、おい・・・ババア」

「じゃあねー」

「ちょっ、ま、待て、待てってーーーーーっ!」


 ババアの車が急加速で遠ざかる・・・。に、逃げやがった・・・。


 俺はなんて浅墓だったんだ・・・。ババアの事、何一つわかってやしなかった。ヤツは真性の外道だ、鬼畜の中の鬼畜、やっぱり肉親だという甘えが、俺の中にあったのかもしれない。

 む、無念だっ!!!

 もしかして、受験に対してのあの執拗な邪魔は、最初からコレが狙いだったのかもしれない。

 とすると、牧野もグルか!?


 あーーーっ! ちきしょおーーー!


 俺は中学校へと全力で突っ走った! 怒りでハラワタが煮え返りそうだ。汗は噴き出し息があがるが、全ての不快さを怒りが凌駕する。


「まっ、牧野は、いるかーーーっ!!」

「あら、確かあなた今年卒業した、・・・ゲイの子ね?」

「ゲイじゃねえよっ! いいから、牧野出せよっ!」

「牧野先生、お辞めになったわよ」

「えーーっ辞めたぁー! じゃ、じゃあ今・・・?」

「今、何をされているのか、私たちもわからないのよ、それで、牧野先生に何か用?」


 さすがの俺も、その後3日ほど学校をには行けず、失意のうちに無為な日を過ごした。

 ババアの言葉通り銀行口座には1円も残っておらず、PCに残っていたFX取引の履歴を確認したら、本当にここ数ヶ月のうちに、約2000万ほどスッていた。

 わからなかった。全く気付かなかった。もっと早くにババアがそんなものにハマッているとわかっていたら、と思うと・・・。

 本当に自分自身が情けなかった。


 それから家中ひっくり返して金目の物を捜し、結果、タンスのヤツの下着の裏に隠していたブルネリの時計と、グッチのバッグを見つけ出し、それを換金してなんとか当座をしのぐ事とした。


 3日ぶりに仕方なく学校へ行くと、巧は不機嫌そうに俺に言った。


「オマエ、3日間も遊んでいていいの? 学校辞められないって意味わかったでろ?」

「お前、何でそんなに俺の事情に詳しいんだよ? もしかして。お前もグルなのか?」

「何ワケわかんない事言ってだよ? そんな格好で作業できないって何度も言ってるだろ。作業着見つけておいたから、さっさと着替えろよ!」


 俺は、巧がどこからか見つけてきた、古ぼけて油の匂いがプーンとする作業着に袖を通しながら、絶望的な気分になった。

 これじゃ、奴隷か囚人だよ。一体俺はこれからどうなってしまうのだろう?

 かつて無いほどの不安に、俺は身震いするしかなかった。。


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