第43話 文化祭2日目その1
予報通り好天に恵まれた2日目の朝、学校に集まった面々の様子は、昨日とは打って変わっていた。
中は昨日のおっさんの挑戦を受けて立つ、まさに決戦の時、といった状態なのだろう。朝の挨拶もそこそこに、先に行く、とだけ言うと旋盤室へと向かった。その姿はいつの通りの坊主頭。あいつ、本気だな。
いつも通りなのは、直もそうだ。くしゃくしゃの天パに分厚い眼鏡に白衣。おお、正にマッドサイエンティストの面目躍如、それでいいのだ。
巧もまた昨日とは打って変わって、王道の可愛い路線で決めており、何も知らずに初めて会ったら、キュンとしてしまいそうな仕上がりで、巧にしたら上々だった。
「どう、見直したでしょう?巧ちゃんだって、やればできるんだから!」
「でも、中身が巧じゃあね(笑)」
「テメー!なんだよ、その(笑)、は!」
「巧ちゃん!今日は、そういう乱暴な言葉使いは無しよ!」
まあ、いずれにせよ、巧がそう大人しくしていられるわけがない。
俺は屋台のレクチャーを巧にしてやろうと、まずは屋台の準備を手伝っていたが、巧はテキ屋でのバイト経験があるらしく、思いのほか器用に焼きそばも作れるので、特にアドバイスは不要のようだった。しかし、今日はやけに日差しがキツく暑くなりそうで、焼きソバ屋台は地獄になりそうな予感・・・。良かった!俺は、今日はクーラーの効いた校舎内だ。
そんな所へ、校門から向かってくる、巨大な姿が目に止まった。もちろん俺にはすぐにわかった。
「おー!ユウコ!よく来れたなあ」
「巧ちゃん、今日は招待してくれてありがとう。あっ!!し、忍!?ほ、本当だ!凄い、綺麗だよ忍!巧ちゃんから写メも見せてもらってたけど、実際に見ると、本当、驚くね」
小白川は、巧から聞いていたらしい。しかし、俺は久しぶりに会ったのだが、こいつ、さらに大きくなってないか?一体今身長何cmあるんだよ?
「ユウコ、久しぶり!もちろん、活躍は目にしてるわよ。ちょっと見ない間に、また大きくなったみたいね?」
「うん、2m超えちゃった」
(超えちゃった、てへ、じゃねえよ。まじ、こいつ、どこまで大きくなれば気が済むんだ?)
「なあ、小白川、俺たちも紹介してくれよ」
「おー、悪い。えーと、巧ちゃん、こいつら僕のチームメイトで、同じラグビー部の小畑、田上、堀尾、川田。この子が僕の幼馴染の巧ちゃん」
「作田巧でーす。今日はみんなありがとう。今日、練習大丈夫だった?」
「いや、本当は今日練習だったんだけど、小白川が監督に、今日休ませてくれって直訴したんだよ。で、監督から、昨日の試合で小白川が10トライ以上取ったら休ませてやるって言われて、結果10トライあげて、それで今日休みになったってワケ」
「スゴイじゃん」
「いや、スゴイなんてモノじゃなくて、実は10トライとったの前半だけで、後半はレギュラー2人病院送りにされた相手チームがギブアップして、結局試合、前半しかしてないんだよ。昨日の試合見て、正直、小白川と味方でよかったって、心底思ったよ」
「俺、小白川と対戦しなければならないなら、ラグビー辞めるわ」
「いやあ、昨日はちょっと本気だしちゃて、悪い事しちゃったかな。でも、今日は絶対来たかったんだよ」
可哀相過ぎるだろう、相手・・・。てゆうか、こいつ相手に同じ高校生はラグビーしたらダメでしょう。俺だったら生きて試合終われる自信ないよ。
「でさ、話変わるけど、こちらの子、もしかして小白川の?」
「えーと、僕の中学の友達で忍、まだ、そんな関係じゃないよ。まあ、中学の頃から特別な友人ではあったけど」
(おいっ!疑われるような言い方するなよっ!)
「可愛い子だよなあ。小白川、女に全然興味ないのかと思っていたら、結構面食いだったんだな」
「いや、こんな可愛い彼女いたら、他の女なんて、目いかないよなあ!」
「いやあ、そんなー、彼女だなんてえー」
(2m超える図体で、照れてるんじゃねーよっ!)
「それでさー!みんな、ミスコンの投票用紙もらったよねー?」
何か軽視されてるムードを感じとったのか、巧は強引な作戦に出たようだ。
「この投票用紙はアタシが預かりまーす」
「これって、ミスコン?へー、面白そうじゃん。おっ、写真だと、みんな可愛くねえ?」
「みなさんには投票権はありませーん!」
「えー!?何で?」
「ユウコはアタシの友達で、その友達もアタシに投票しなければならないからでーす!」
「お、俺この3番の子がイイ!可愛くねえ?」
「俺は1番。色っぽくて綺麗だぜ」
「えーと、俺は・・・」
「うるさい、うるさい、うるさい。ハーイ、投票用紙回収ー!ほらっ、黙って渡す!」
「えーっ!!何か理不尽!!」
「テメー!!男のくせにしつこいんだよっ!!」
巧の目の色が一変、ガタイの良いラグビー部の面々がビクッと驚く様は、ちょっと可笑しかった。
「ゴメン、みんな。巧ちゃん、昔から言い出すときかないから。それに、巧ちゃん元ヤンキーだから、黙って素直に言う通りにしていたほうがいいよ。僕も何回泣かされた事か」
小白川が泣かされた、と聞いて、さらにビビるラグビー部の面々。そんなの俺もビビルるわ!
ちなみに小白川は自分の票は巧に渡さなかったようだ。まあ、俺に入れてくれるのだろう。嬉しいような、嬉しくないような・・・。
「その代わり、焼きソバ好きなだけ食わしてやっから。でも、食うにはまだ早いだろ?このお茶でも飲んで、ちょっと中でも見てきな」
巧は売り物のお茶を小白川たちに渡していたが、それ、売り物なんですが?ていうか、お前、それ、収賄だぞ?
なんとなく納得しない様子の面々。ちょっと気の毒な感じもしたので、俺は駆け寄りみんなに声をかけた。
「ごめんなさいね、巧、ちょっと強引だから。後で、たーっぷり焼きソバ食べて、仕返ししちゃって!それと、私カフェやってるんで、そっちにも顔出してくださいね。おいしいパンケーキ焼いて待ってますので!ユウコ、未理も一緒にやってるんだよ、だから絶対寄ってよね。小畑さん、田上さん、堀尾さん、川田さん、待ってますよ!」
俺は、得意の気の付く女子系でしっかりフォロー。巧に投票用紙を奪われた以上、票に繋がる事はないが、まあ、俺の人に嫌われたくない本能、だろうか。
9時を過ぎたあたりからだろうか、やけに人の数は増えてきたような気がする。カフェミリーズもお客さんが増えはじめ、手間のかかるパンケーキを焼きながらコーヒーもドリップしてるので、確かにこれでは1人では厳しいかもしれない。俺は基本接客だが、場合によっては厨房に入らないといけないかもしれない。未理が限界を超えてしまうのは避けないと。ましては、こんなに人の多い場所では、メイタなど、ご法度だ。
しかし、とりあえず正午からミスコンがあるので、そこまで頑張れば一時休止なので、あと一フン張りといえる。
ふとカフェから中庭を見てみると、どうも屋台あたりが賑やかな感じがする。窓を開けて様子を伺ってみると、お客と巧の大声が聞こえるじゃないか。
「お姉ちゃん、この野菜、半生じゃないか!?」
「野菜なんて生で食えるから、それでいいんだよ!」
「おい、コッチ、麺の量少なくねえ?」
「いいんだよ、アンタ、デブってるから、それくらいにしときな!」
「おーい、姉ちゃん、サンドイッチとお茶!早くー!」
「コッチは忙しいんだよっ!金置いて勝手に持っていきな!誤魔化したら承知しないよっ!ああ、クソっ、アチーじゃねえか、今日!!どんだけ作ればいいんだよ、焼きソバっ!」
汗だくで接客する巧、すっかり素が出ている。
そうそう、それでいい。思っていた通りの展開に、俺は口元に浮かぶ笑みを隠せなかった。




