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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第一章 一学期
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第3話 俺の黒歴史

 俺の最高に充実した時期がいつだったといえば、それは小学生の頃だったのかもしれない。

 物心ついた時から、可愛い子だ、まるで女の子みたいだ、などと煽てられ、忍くんてカッコいいよね、そんな言葉が周りに溢れイイ気になっていた、あの頃。


 当時の俺は、まだババアの本当の正体をわからないほどに幼く、若くて綺麗な母親は俺の自慢のタネだった。顔だけは良いババアの遺伝子は確実に俺に届き、また、そこそこにできる脳みそも、大手自動車メーカーのエンジニアだったらしい死んだ父親ゆずり。

 片親という事以外、特に悲観する要素も無いまま、俺は増長していった。

 

 とはいっても、俺は空気の読めない、そんな間抜けな男ではない。

 毎年バレンタインデーには女子から山ほどチョコをもらい、それに伴い生まれた男友達との微妙な距離感を感じ取った俺は、彼らとの関係を良好にするためにと、笑いを取るためのギャグを披露したり、目立つような事はなるべく避けたりと、人間関係には人一倍気を使い、そのための努力は惜しまなかった。


 おそらく当時の俺は、カッコいい上に頭も良くて喋らせれば面白い、けれど決して驕ることのないクラスの人気者、という立ち位置は確保していたはずである。

 しかし、その後訪れる悪夢に対して何の危機感も抱かなかった当時の俺に、言ってやりたい事は山ほどあるが、もし一言というのなら、こう言ってやりたい。


 おい、イイ気になってると中学でエライ目にあうぞ!


 そんな俺は、中学に入学してすぐに試練に直面する事となった。


 入学式が終わってすぐ、さて、クラスは何組かな? 知ってる子はいるかな? などと浮かれていた俺は、いかにも、というヤバイ先輩数人に取り囲まれてしまった。


「おい、お前、東小の下井忍だな?」

「は、はい・・そ、そうです・・・」

「今日、放課後体育館裏まで来い。来なかったら、わかってるな?」

「は、はい・・・」


 な、な、何で? 俺が何をしたって言うの? 

 俺はガクブル顔面蒼白、その日何があったか記憶に無いくらいビビリまくって、気がついたらもう放課後になっていた。

 欠点は少ないと自負している俺の、数少ない欠点はビビリな事だった。

 とにかく、痛いのは大嫌い、ケンカなんて女の子にも負けるほどに弱いのだ。


 殴られるのはイヤだ、痛いのはイヤだ、そんな目に合うくらいなら土下座をしようと構わない、とにかく謝って謝って謝りつくそう、俺はそう考えた。

 謝る理由はわからないが。


 そんな俺の前の席に、およそ先月までランドセルを背負っていたとは信じられないような大きな背中があるのに気が付いた。まるで小山のようにそびえる体躯・・・。

 その小山がクルッとコチラを向くと。思っていたよりも人懐こい顔を向けてこう言ったのだ。


「何か困っている事があるのかい?」


 追い込まれていた俺は、ああっ、神様っているんだな、と思い、突然手を差し伸べてくれた大男に、ついついお願いをしてしまった。


「突然ゴメン! 今日の放課後、コワーい先輩から呼び出しくらって、これから行かないと駄目なんだ。あの、言いずらいんだけど、出来れば僕と一緒に行ってくれないかな? 名前も知らないヤツからこんなお願い、イヤだよね? でも、僕は君しか頼れる友だちがいないんだ」

 

 俺は必死にソイツの手を握った。


「君は、初めてあったばかりで友だち? そう疑問を感じるかもしれない。けれど、僕は一目君を見たときから、君と友だちになりたい! そう思ってしまったんだ、心の底からね。すごく勝手だけど、今日、今この時から、僕にとって君が一番の友だちになってしまったんだ、ホント、勝手で悪いけど!

 もし君が、僕の事なんて友だちじゃないし、そんな揉め事ゴメンだ、そう言ったとしても、僕の君と友だちになりたい、その気持ちは変わらない」


 俺の熱い訴えを黙って聞くソイツの体が、だんだんと何倍にも大きく見えてくる。


「だから、例えこれから僕が先輩にギッタギタにやられてしまっても、僕は全然痛くなんてないと思う。だってこうして君に出会えたんだもの。君が心配して声をかけてくれ事を考えれば、あの先輩たちに感謝しなくちゃと思うくらいさ。でもね、もう一度聞くよ? これから僕と先輩の待つ体育館裏に、一緒に行ってくれないかな?」

「いいよ」

「そうだよね、突然、・・えっ! いいのっ!?」

「いいよ、別に予定もないし」


 顔を心なしか赤く染めながら、ソイツは笑顔で了承してくれた。俺は感動のあまり涙を流し、ありがとう、ありがとう、と彼の手を握りしめた。

 少年と呼ぶにはあまりにも立派なソイツの体は、身長は優に180cmを超え、体重も間違いなく100kgオーバーであろう。

 しかしながら決してデブではなく、ほどよく筋肉の付いた体はすでに格闘家の趣をたたえ、きりりとした風貌も頼もしく、ああ神様ありがとう、と俺は大船に乗ったような安心感に包まれたのだった。


「挨拶が遅れてゴメン。僕は下井忍、東小出身なんだ」

「僕は小白川、小白川勇虎、西小出身、よろしく」

(コシラカワユウコ、え、ユウコ?)


 それが、俺がユウコこと、小白川勇虎こしらかわゆうことの出会いであった。


 当然そんな偉丈夫を引き連れてきた俺に、先輩たちは動揺を隠せないようだった。

 チラチラとユウコを意識はするものの、あえて無視するように俺に食ってかかってきた。


「おい、お前、田島優香って女知ってるな? バレンタインデーにチョコもらったろう?」

「え? えーと、ど、どうだったでしょう?」

(いやあ、わからねえよ、俺が何個チョコもらってると思ってるんだよ。いちいち憶えてねえよ)

「とぼけるなよ! 今、ここの中三の女だよ! ちょっと茶髪の!」

「あっ・・・」

(あのブスかよ、このヒト、もしかしてあのブスの彼氏とか? ヤバクナイ?)

「てめえ、ガキのくせに人の女に手出して、ただで済むと思ってるのか?」

「て、手なんか出してないですよ。本当に」

(誰があんなブスに手出すかよ)

「誰があんなブスに手出すかよ」

「だ、誰がブスだーーー!!てめえーーー!!」

「ああっ、しまったーーっ! こ、心の声がーーっ」


 俺の顔面に、先輩のパンチが入ると思った瞬間、パシッといい音が聞こえ、目を開けるとユウコがそのパンチを手の平で受け止めていた。彼はそのまま先輩の拳を握ったまま軽く腕をひねると、イテテテと先輩は簡単に転がされてしまった。


「暴力はいけませんよ、先輩」

「て、てめえは何者だっ!」

「下井君の友人です。僕は自分の友人を痛めつけようとする者を放っておけるほど、寛容じゃありませんん。それが例え、先輩であったとしても」


「ヤ、ヤベー! こ、こいつ見たことあるぞっ! こいつ全国チビッコ相撲日本一、柔道小学生日本一、からんできたヤクザ三人を素手で病院送りにしたって噂の、最強の小学生、西小の白虎だよ!」


 あたふたとその場を逃げ出す先輩たち。

 俺は、俺の友人のあまりの無双ぶりに感動し、俺を救ってくれた彼のその強靭な体を抱きしめ感謝の言葉を尽くした。


「ありがとうっ、小白川くん! 本当にありがとう! 君は僕の神様だよ! 愛してるよーーーっ!」


 突然訪れた俺の危機を救ってくれた小白川ユウコの僥倖。

 嬉しさの余り口にしたこんな何気ない一言が、その後の俺の中学生活を決定づける事になろうとは、その時の俺は知るはずもなかった。

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