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隅の川(女子)工業高校! ものつくり残念女子話  作者: 日上東
第一章 一学期
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第2話 女子高!?

 何の感慨さえ浮かばない、クソみたいな入学式。


 しかし、聡明な俺は見逃してはいなかった。

 あの新入生の女子たちが、どの子も引けを取らない美形揃いだった事を。まぁ、あの生意気そうなヤンキー女はどうかと思うが、あの来賓のおっさんの娘はかなりカワイかったし。

 余りにお粗末な学校なら、さっさと辞めてしまおうと思っていたが、これはとりあえず通う価値はありそうだ、そう俺は判断した。

 いくら特進クラスとはいえ、こんな悪評に塗れた工業高校へ入学した女子では、頭の出来はさぞや残念な事に違いない。

 そこで俺が勉強のサポートでもしてやれば、まさにそれは優秀な雄に群がる雌たちとの饗宴、そうハーレムを形成できるじゃないか!

 ついに、来たか、俺の時代! さよなら、俺の黒歴史よ!


「良かったね、忍ちゃん。学校、楽しそうじゃないの。だからママ言ったでしょ。案ずるより産むが易し、ってね」

「テメエが言うなよっ! テメエに陥れられた状況を何とか好転させようと、俺は必死なんだよっ! これ以上余計な事すんじゃねえぞっ!」

「あーら、怖い怖い。すっかり一人前の顔しちゃって!」


 と、ババアには言ってみたものの、口に浮かんでしまう笑みを殺せない位に、俺は沸き立つ気持ちで授業初日を迎えた。

 軽い足取りで昨日と同じ商店街を学校へ向かう俺に、昨日の豆腐屋のおばちゃんが声を掛けてきた。


「あら、あんた、昨日の子じゃない。今日は何の用だい?」

「今日から授業なんですよー」

「あら、じゃあスカ工、廃校じゃなかったのね。ごめんねー、廃校だって聞いてたから。区の広報にも載ってたし。まあ、問題ばっかりの学校だったしねえ。あ、ゴメンゴメン」

「いいんですよ、まあ、スカ工ですもんねー、仕方ないですよー」


 昨日、俺も気になり調べてみたが、やはり豆腐屋のおばちゃんの言う通り、隅の川工業高校は同じ区の高校に統廃合された形となったようで、一昨年から生徒の募集をしていなかった。

 しかし、こうして入学式を終え学校へ向かう俺がいるという事実。一体どういう事なんだろう?  何か、とてもイヤーな予感がする。


 色々考えると、浮き立つ気持ちに水を差されたように気が塞いだが、ハーレムハーレムと唱えてみると、あら不思議、パーッと光が射してくるように晴れやかな気持ちとなった。

 ああ、こういうときは、自分のポジティブな性格が心強い。


 そんな俺が鼻歌まじりで学校に着いてると、やはり昨日同様、校内に生徒の姿は見えず、昨日の校長の、生徒は8人しかいないよ、という言葉が頭を過る。

 不安はある。本当に8人しか生徒がいないとしたら、フリースクールみたいなもんじゃん? しかし、だとしたら特進コースって、ナンなんだ? 

 しかし、俺の考えていた学園生活とは程遠いが、それもありかもな、と思ったりして。だってそうだろう? 例えそこがどんな環境だろうと、女の中に男は俺一人、それは事実なんだから。


 これから起るであろう、あれやこれやの楽しい出来事! みんなに頼りにされ、羨望の眼差しで俺を見るクラスメイトたち! ダメだよ、俺の事で争うなんて、俺は誰か一人のものじゃないからさ!


 空想と妄想に頭を働かせながら、俺は1年1組の教室の扉を開けた。


 そこは、思っていた通りの天国の花園だった!


 ん? あれ、ちょっと待てよ? 何か違和感が。あ! みんな何着てるの? それって、もしかして作業着?


 確かに、制服は無いので服装は自由、とは事前に聞いてはいたが、一応女子校生たるもの、作業着はどうかと思うぞ? もう少し可愛い服、着てて欲しいよな?

 まあ、確かにここは工業高校だし、仕方ないのかもしれないけど。


 訝しげなクラスメート達の視線を感じつつも、空いている席が昨日の生意気なヤンキー女の隣しか無かったので、「おはよー」と明るめに笑顔で挨拶しつつ席に着いた。

 俺の挨拶にジロッと目線を向けただけで何も言わない。ちょっとムッとしたが、まあ照れているんだろうと前向きに捉え、担任が来るのを待っていると、例のヤル気ゼロの校長が入ってきた。


「おはよう。早速だが、出席を取るかな」

「校長先生、担任の先生は今日お休みですか?」

「ああ、君はえーと、そうそう、下井忍しもいしのぶくんですね? 君はこの学校について、本当に何も知らないのかい?」

「何も、知らない?」

「担任は私。校長の私が担任でもある。他に教師はいないよ」

「えっ! いないって、じゃあ全ての科目、校長先生が教えてくれるんですか?」

「科目? 何の? 僕は何も教えないよ」

「じゃあ、誰が授業受け持つんですか? 俺たちは特進コースで、それでこんな少人数で授業を行うんでしょう?」

「特進? なに、それ?」

「ここ、特別進学コース、ですよね?」

「違うよ、特進じゃなくて特実。君たちは特実科、特別実技科だよ。進学目的では無く実習重視、よって一般的な授業は行わない」

「授業を、しない? 何も?」

「うん、何も」

「英語も数学も?」

「そうだよ。ね、だから教科書なんていらないだろ?」


 何を言っているんだこの爺さん? 俺は生徒手帳を慌てて見る。ある、確かに隅の川工業高校って書いてあるぞ、高校って。

 授業しない高校があるものか! 俺は大学で復活を遂げるべく、こんな高校でも仕方なく入ったんだぞ。授業も行わないなんて冗談じゃないぞ!


「なぁ、何かヘンじゃねえ? この学校?」


 俺は隣のヤンキー女に向ってそう問いかけると、そいつは冷たい視線を送りつつ俺にこう言い放った。


「はぁ? ヘンなのはオマエのほうだろう?」


 変!? 俺がヘンなのか? 学校で勉強しようとする高校生と、授業を行わない学校、どう考えたって俺は変じゃないだろう!?

 そう、俺は何一つ間違った事は言っていない!


「授業を行わないとはどういう事ですか! 僕たちには授業を受ける権利があるはずです! 説明してください! 大体、高校では決められた授業日数ってものがあって・・・」

「オマエ、本当に何をわかってねーんだなっ! この学校はカリキュラムのほぼすべてが実習なのっ! だから授業を行う時間が無いのっ! ていうか、アタシらには授業を受けなくていい権利があるんだよ、オマエ、この学校入る時何も聞いて無かったのかよ? 大体ココ女子校のはずだけど、なんで男のお前がいるんだよ? ねえ、先生どうしてだよ?」

「うーん、私もよくわからないんだ。シノブって女の子の名前みたいだから、誰か間違えちゃったのかなぁ?」


 女子高!?


 間違いで男子が女子高に入るなんてありえないだろう? 俺はまたまた生徒手帳を出してみる。隅の川工業高校、何が女子高だよ、どこにもそんな事・・・ん?

 あーっ! 何これ? 隅の川と工業の間に小さく、(女子)、って書いてある、しかもこれ手書きじゃねえ? イタズラ書きのレベルだけど、これって・・・もしかして・・・。


 俺は恐る恐る校長に生徒手帳を差し出して、(女子)を指差して聞いてみると・・・。


「こ、これって、イタズラ書き、ですよね?」

「ごめん、ごめん、それ、廃校になる前の生徒手帳なんだ。8人しかいないのに新たに作るのもお金がかかるし、私が書いたんだよ、それ」

「じゃあ、本当に女子高なんですか? 8人きりの?」

「そう、女子高だよ。しかも生徒はここに居る君たちだけ、教師は私だけ。一応高校とは謳っているけど、ここでは実習にすべての時間を割いている。それは、ここの生徒たちが学業優秀、さらに優秀な技術をもっている事と関係していて、その処遇に関してはかなり優遇されていると聞いているけど。詳しい事はわからないんだ、私にも。ところで下井くん、君の専門分野は何かな?」

「はぁ? 専門分野? なんですか、それ?」


 ここでまた、例のヤンキー女は馬鹿にしたような目で俺を見ると、ヤレヤレといった具合に面倒くさげながらも、他の新入生を紹介してくれた。


「オマエ、マジ何もわかってねーようだな。じゃあ、アタシが皆を紹介してやるよ。アタシは作田巧さくたたくみ、とりあえずマシニングセンター担当。そこの長身で無愛想なのが旋盤の木本中きもとあたる、天然パーマのクシャクシャ頭が設計の円谷直つぶらやなお、サラサラ長髪が溶接の阿久根世津あくねせつ、オカッパ頭のチビッ娘が汎用フライスの穴井美留あないみる、手ぬぐい頭に巻いてるクールなヤツが工具研削の三条三日月さんぎょうみかづき、何れも劣らぬ、腕におぼえのある技術者集団さ」


 言ってる意味が、まったくわからないんだけど?


「あぁ、あと、そのチャラチャラした茶髪が、うーん、特に取り得はないけど家は金持ち、林未理はやしみりだ」

「ちょっとぉー! 何よぉ! 取り得の無い金持ちってぇー! わたしだってあるんだからぁ、得意な事!」

「じゃあ何だ?言ってみろよ」

「えーと、お化粧とか、オシャレとか、あと美味しいスイーツの食べ歩きとか・・」

「それで、下井忍しもいしのぶ、お前は何が目的で、ここに入った?」


 作田巧という偉そうなヤンキー女は、めちゃ可愛いけどチャラチャラした頭の弱そうな、例の来賓のおっさんの娘、林未理をまったく無視して、俺に問いかけた。

 目的? そんなものあるか! そもそも、こんな学校に入りたくて入ったわけじゃねえんだよ! 強いて言えば、大学受験が目的だよ。こんなクソ学校、それしかねぇだろ? 何ワケわかんない事いってんだ?この女!

 と、心の中で言ってはみたが、ヤンキー女の目つきがやけに怖いから口には出せない。


「オマエさぁ、ホントに何か特別な技術とか無いわけ?」

「えーと、・・特には・・」

「あー、なるほどね。じゃあオマエはこの優れた技術者集団の集う女子の花園を、何の取り柄も無い男の分際で踏み荒らそうというわけだ」

「あ、うー」

「ここ、隅の川女子工業高校は、アタシたちの大切な晴れ舞台だ。オマエは何も誇れるもののない無能のくせに、このプロフェッショナルなアタシたちの晴れ舞台にしゃしゃり出てきた、とんだお邪魔虫、というわけだ」


 何なんだよ、この女っ! ちきしょー、ムカツク! いいよ、辞めてやるよ! 別に未練も無いし大学受験なら大検取ればいいし、こんな高校辞めてやるよっ!


「とは言っても、まさか入ってすぐに放り出すのも可哀そうだし。いいよ、しばらくはここに置いてやるよ。その間に、少しは役に立つようになって欲しいけどな」

「はあー?」

「まあ、こうなったからには逃げるのは無しだぜ、ガバガバゲイ人。逃げたらユウコに言いつけるからな!」

「ガ、ガバガバ・・・。な、何でお前、そのあだ名をっ!? ユ、ユウコって・・・何でお前が!?」


 お、俺の、俺の黒歴史をなぜこのヤンキー女が・・・。

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