弐
「ねえキミ、壬加くん…だっけ」
芦矢高校の入学後のオリエンテーションは、三日間に分けて放課後に行われた。
さすがの私立、第一・第二体育館の他に、集会目的のホールがある。体育館よりは広くないが、ひと学年―約400人ちょっと―なら、すっぽりおさまる。
そこに椅子が置かれ、クラスごとに着席する。席の関係上、クラスでは隣にならないクラスメイトと隣になった。
あいつに声をかけられたのはそのときだ。
「…あんたは」
「あたし?布漸都だよ。よろしく」
この会話が最初だった。
それからだ。布漸が―
「やっほー、今日もひとり屋上でお弁当?」
俺に昼休み限定でついてくる(?)ようになったのは。
「だったらどうなんだ」
「いやーいつも美味しそうなお弁当だなぁーと」
「あんた、自分の分はないのか」
「もう食べちゃった」
と、スマートフォンをいじりだす。
メールでも打ってるのか?と思いつつ、俺は再び自作の弁当に向かう。
…卵焼き、少し焦げてるな…不覚。
「壬加くん、部活はー?」
「入る予定ない」
「中学では部活やってた?」
…う。
あまり聞かれたくないことを…
「…―――部」
「うぇ?」
「笑うなよ、…料理研究部、だ」
俺の予想に反して、布漸は
「へぇー、料理研究部かぁ。あたしの中学にはなかったなぁ」
と返すだけだった。
少しだけ安堵する。
「あんたはどうなんだ」
布漸は変わらずスマートフォンを操作しながら答える。
「あたしの中学の部活は、け――あれ?」
突然、布漸の手が止まった。
「どうした」
「スマホの画面がいきなり真っ黒になっちゃって…」
画面が真っ黒?
…まさか。
「ちょっといいか」
「?」
俺は布漸の手にあるスマートフォンに手を伸ばして、触れる。
パシン、と小さな音がする。直後、スマートフォンが息を吹き返した。
「直った…?もしかして、壬加くんってこういうの直せる人?」
多分ブラックアウトしたのも俺のせい、というのは黙っておく。
俺はスライダー体質というやつだそうだ。昔から電化製品を近付くだけで壊したり、触るだけで直したりは日常茶飯事だった。静電気も酷かった。静電気防止グッズとかも試したが悪化しただけで、むしろそういったたぐいのものを身に付けないほうがいいことだけ分かった。
中学にあがってから徐々に壊すことと静電気は少なくなったが、今でも時々電化製品などが壊れたりする。
本当に厄介な体質だ。