ノリのいい会社〜エピソード1〜
「えー、時刻も過ぎておりますので、会議を始めさせていただきたいと思います」
「あれ嘉山主任、まだ連絡つかない?」
「あ、まだいらしてないんですか」
「そういやアイツもだよ。あの新人め……いつまで学生気分だ」
慌ただしい足音。
「すみません!」と飛び込むように入室し、ペコペコする若者。
「おい……」一同を代表し、一人がゆっくりと席を立ち、問う。「お前、どうして、遅刻したんだ? 理由を言ってみろ、理由を!」
「はい……」新人、固唾を飲む。「朝、起きましたところ」
「朝起きたら? 朝起きたら何だってんだ!」容赦のないヤジが飛ぶ。
新人は、ついに意を決した。
「……おじいちゃんが、おばあちゃんになっていました」
短い沈黙。
「なに……?」一同、長机に身を乗り出してひそひそ審議に入る。「急にテイストを変えてきたな」「はずしてないか」「いやあれだな、実はひねってるんじゃないか」「そんな、ただのナンセンス系だろ」「たぶん俺もひねってるんだと思う。あれだよ、性転換したんじゃないのか?」「聞いてみよう」「おい新人、どういうことだ?」
「あっ、えー、はい」新人は探り探りうなずき、聞こえていた案を選択。「性転換です」
「おお……」一同、すこしのけぞる。「……ふん、すこしは攻めるようになったな」「見込みがあると思ってたよ、俺は最初からね」「いーや、まだこれくらいでいい気になってもらっちゃ困る。おい君、遅刻の件はもういいから座りなさい」
「あ、ありがとうございます」新人、すこし照れ臭そうにペコペコながら歩き、着席。
「よし、えーでは、改めまして、会議を始めさせていただ……」と目を剥き、視線が一点に向けたまま硬直する。「主任!」
一同ガバッとそちらへ注目。
ボロボロに裂けたスーツを原始人のように着こなし、蒼白な顔に生々しい血の色が映える、壮年の男性の姿があった。
「か、嘉山主任……大丈夫ですか!」
「いったい、どうなさったんですか!」
「救急車……救急車呼びましょ」
「いや」と主任は片手で皆を黙らせ、すこし苦しそうに言った。「遅れて申し訳ない」
「いま……そんな、それどころでは……」
「寝坊!」主任の大声が響く。「 しました!」
深く濃い一瞬の沈黙。
そして会議室が震撼した。
「ぎゃ、逆に……?」
「ウソだろう……」
「さすがだ……これが、主任か……」
「ふふ……先代も、天国で喜んでくださるだろう……」
「ついていけねぇ」新人は、この日のうちに辞表を提出した。
続編〜エピソード2〜へ
つづく……