Lv.1 Second Prologue
「迷ってない迷ってない、俺は迷ってない」
七回目くらいの同じ角を曲がり、ひたすらブツブツと呟く。
俺はただ魔方陣のワープ練習をしただけなのに。
一体ここはなんという世界なのだろうか。わからん……何もわからんぞ!
くっそう記憶喪失設定とかオイシイな!
「俺は迷ってなんかない!」
とりあえず前方にビシイッと指を突きつけるようにして言ってみた。
「へえ。迷ってないんですか、クソガキ。じゃあなんで生徒会の幹部室前にいるんですかね?」
うん、幻聴が聞こえてきた。なんで緑野の声が聞こえるんだろう。……気のせいか。声何て聞こえねえや。
プリンが苦手なギャップ萌えの緑野先輩の声なんて聞こえない。よし。後ろなんて振り向かないよ、俺は前だけ見るって決めたからね!
「はは、ははは……って笑えるかボケ!」
反対方向に走りつつ通信機の電源を入れた。
『ももも萌花! プリン大魔王に遭遇した! 助けて、死ぬ!』
『プリン大魔王って誰? 悪いけどこっちも今始業式準備で忙しいの。単独行動した黒呀の自己責任でしょ。じゃあね』
なんということでしょう。匠のなせるワザを使用して通信を切りやがった……だと!?
このままじゃ死ぬ。確実に……
「プリン大魔王に殺される!」
「なッ……誰がプリン大魔王ですか! 殺しますよ!」
ああどうやら俺はよっぽど死に急ぎたいらしい。
「あはは、は……ごめりんごめりん! そうだった、貴方は『閃影の闇蛇』でしたねうぐわっぷ!」
「死になさい」
顔がマジだよダークネスプリン大魔王。まったく容赦のかけらもなく鞭が飛んでくる。
もう怖い超怖い。俺女だよそこわかってくれてる?
……まあ、それでも。
「俺がいつまでもガキだと思ってたら死ぬぜ、『閃影の甘味』?」
「とりあえず黙りましょうか」
ガチャリ、と音を立てて腰に縛り付けている日本刀を引き抜いた。
「俺はまだ――負けるわけにはいかないんだよ!」
その勢いのまま、プリン大魔王に切っ先を向ける。
「……柄、だけ?」
「うっわやっべえ刃の部分すっぽ抜けやがった!」
あからさまに『馬鹿だコイツ』という顔をした大魔王に、俺は口元を歪める。
「なんちゃって、ハンドキャノン!」
俺が叫んだあとには煙だけ。だが、その煙をいとも容易く切り裂く鞭。
「……うあ、やっべ」
せっかくこの煙に乗じて逃げようと思ったのに!
首元に巻きつく鞭にとりあえず舌打ちしておく。
「私の勝ち、ですね。まあ、所詮愚民ですからねえ」
何だこいつ。異様にイラつくんだが。
俺が盛大に舌打ちをこぼした、その時であった。
「なに遊んでるの、黒呀」
後ろから声が聞こえたと思ったら――
ズッドォン!
がらがらがらがら。
爆発音と粉砕音がいっぺんに聞こえた。
ダークネスプリンに攻撃は直撃しなかったものの、結構な距離吹き飛ばされている。ざまあ。この攻撃はきっと水素爆弾だ。ということは。
「りっちゃん、ありがとう。」
「水素使い切っちゃった。まあ仕方ないか。もう始業式準備始まるよ」
「え、あ、うん! 行こうじゃないか、我らが始まりの地へ!」
Lv.1 Second Prologue
(あ、もう始まってたわ)
(なん……だと!?)