1.俺らの日常。
「…なあ何この惨状」
「…えへ☆」
「…とりあえず片付けろ。今日は客が来るんだからな」
「はーい」
とあるマンションの一室。その中で俺、穂村凛火は悩んでいた。
その原因はこいつ、一緒に住んでいる浅黄燦智が原因だ。
学校から五分ほどの距離にあるこのマンションに部活から戻ってくると、リビングで菓子を貪りながらこいつがテレビを見ていた。机の上にはノートと教科書が置いてあるから、多分勉強するつもりだったんだろう。しかしまあ、途中で飽きたのか、その周りにはお菓子の袋が散らばっている。しかも床まで食べカスがで汚れている。俺があらかじめ客が来ると言っていたのにも関わらず、だ。俺が片付けろと言うのを聞くと渋々ながらも片付ける姿を見ながらため息をついた。
よくこういうことがあるから慣れてはいるけれどもいい加減直して欲しい。流石に俺一人でこの家全体を片付けるのは無理だ。何げに広いから困ったりする。
黙々と掃除をする姿を見て、ふと一人足りないことに気づく。
「森覇は?」
「今日は遅くなるってー」
森覇とは、ここに住んでいるもうひとりの住人のことだ。フルネームは木崎森覇である。俺たちはここで三人でルームシェアをしながら暮らしている。
学年は全員バラバラだけど親の仲がよく、それぞれの学校も近いからどうせならルームシェアという形で住まわされているわけだ。最も、俺にとっちゃいい迷惑だけど。特に森覇は大暴れしたりするから、色々と悩まされているのである。
「今日のお客って亜希と氷河?」
「ああ。ちなみに、晩御飯作ってくれるんだとさ」
「ええー先に言ってよー。ぼくお菓子でお腹いっぱいになっちゃったじゃん」
「昨日の夜言っただろ」
「聞こえてなかったし…」
「…はいはい、俺が悪かったよ。それよりさっさと掃除してしまうぞ」
「はーい」
今日の客とは時水亜希と時水氷河という仲のいい姉弟で、ここの姉弟も親同士が仲良くしかも家も近いのでよくここに遊びに来る。勿論ここの家に泊まりに来ることも多々あり、そんな二人が来るときは晩御飯は決まって亜希の手作りとなる。俺はまだしも森覇はあまり得意でない上、燦智はキッチンを爆発させたり未知のものを生み出してしまうから正直かなり助かっている。
[―――ピンポーン]
インターホンの音が聞こえて二人が来たのかと、玄関に繋がっているモニターを覗くが、そこには予想もしなかった人物が二人。
「…え?な、え?響輝?」
『その声は凛火くんかな?亜希ちゃんが来てご飯作ってくれるんだってね。僕たちも混ぜれくれない?』
「え?…え?なんで知ってるんだ?てか、あれ、え?夜頼も?」
『凛火、落ち着け。亜希から今夜お前たちの家で飯を作るから一緒にどうかとメールが来てな。そちらがいいなら、俺たちも混ぜてくれるか?』
天白夜頼と砂神響輝。隣に住んでいる二人だ。この二人もルームシェアをしていて、引越してきたタイミングが偶然一緒で仲良くなった大人二人組である。ちなみに彼らにもみんなタメ口で呼び捨てだ。基本敬語は使わない。本人たちがそれでいいと言ってきたし、俺たちもそれで慣れている。
それにしても、二人ともいつもはもう少し遅い時間に帰ってくるはずなのにどうしてこんな時間に?
「ぼくはいいよー。今鍵開けるから待っててね」
俺の疑問をなど知らず二人を招き入れる燦智。…まあ、いいか。どうせいつものことだし。
「あれ、燦智、お前掃除終わったのか?あと勉強は?」
「…燦智くん、またやってたの?」
「…だって…勉強めんどくさい…お菓子食べてもいいじゃん…」
「ダーメ。ほら、片付けたら教えてあげるからさぁ、どこがわからないの?」
親切に、でも厳しい目をしながら燦智を怒る響輝にはいつも頭が上がらない。根は真面目で実は頭がよかったりするから、こういうのはなかなか見逃さない。終わったら騒ぐけど。俺たちが困るくらい騒ぐけど。…勉強する分よく一緒に騒いでる。そしていつも俺と亜希にとばっちりが来る。…悲しいことに慣れてしまったけれども。
慣れとは怖いものだと、毎回思い知らされる。なんか虚しい。
ピンポーンと、もう一度インターホンがなる。モニターを確認すると今度こそ亜希と氷河がうつっていた。そしてその手には大きな白いビニール袋。
急いで玄関まで行き扉を開けると、とびきりの笑顔で二人が待っていた。
「凛火、久しぶり」
「ひさしぶりー!」
「ああ、久しぶり」
亜希の手にある荷物をそっと俺が持って、氷河の頭を撫でて家の中に入る。
―――これが、俺たちの日常。