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美少女だと思ったら男の娘精霊で、しかも激重だった  作者: 名無しのルビコニアン


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11/12

11話

 体が重い。


 ベッドに横たわっている。天井が揺れて見える。熱があるのかもしれない。


 腕の傷は、ルナの治癒魔法でほとんど塞がっていた。痕は残るだろうが、動かすのに支障はない。


 問題は体力だ。立てない。食欲もない。全身から力が抜けたまま戻ってこない。


 ルナが俺の枕元に座っていた。ずっと。街に帰ってきてから、一度も離れていない。


「ユーリ、水飲みますか」


「……ああ」


 水差しからコップに水を注いで、俺の唇に当ててくれた。少しずつ流し込む。喉が乾いていたことに気づいた。


「……すまん」


「謝らないでください。悪いのはボクです」


 ルナの声が沈んでいる。


「ボクが暴走したせいで——ユーリがこんな——」


「お前のせいじゃない」


「ユーリのせいでもないです」


「じゃあ角鬼牛のせいだ。もういない」


 ルナが小さく笑った。力のない笑いだった。


 しばらく、沈黙が続いた。窓の外で虫の声が聞こえる。


「ルナ」


「はい」


「あの時のお前——目が変わってた」


 ルナの手が止まった。


「ユーリが傷ついた瞬間、何かが切れたみたいに。別人だった」


「……分かってます」


 ルナが膝の上で拳を握った。


「前もそうだった。エルドランと一緒にいた時も、エルドランが傷つきそうになると——ボクは制御できなくなる」


「前もか」


「はい。それがエルドランには都合が良かったんだと思います。ボクを怒らせれば、強い魔法が出る。だから——わざと危険な場所に連れて行ったり、自分が傷ついたふりをしたり」


 ルナの声が震えた。


「ボクの暴走を利用してたんです。あの人は」


 俺は黙って聞いていた。


「でもユーリは違う」


 ルナが顔を上げた。紫の瞳がまっすぐにこちらを見ている。


「ユーリは利用しない。ユーリはボクが暴走しても怒らない。ボクを——道具じゃなくて、ボクとして見てくれる」


「当たり前だろ。お前は道具じゃない」


「……うん」


 ルナが俺の手を取った。両手で包むように。


「だから怖い」


「何が」


「ボクが暴走したら——ユーリを殺してしまうかもしれない。ボクの魔力はユーリの命を使うから」


 俺の手を握る力が強くなった。


「ユーリを守りたいのに。ユーリを守ろうとするとボクが暴走して、ユーリを傷つける。矛盾してます」


 ルナの目から涙が一筋、流れた。


「ボクは——ユーリのそばにいていい存在なんですか」


 聞かれた。


 答えは一つしかなかった。


「いていい」


 ルナが息を呑んだ。


「暴走は、次から加減すればいい。俺も気をつける。お前だけの問題じゃない」


「でも——」


「ルナ」


 名前を呼んだ。ルナが口を閉じた。


「お前がいなかったら、俺はあの角鬼牛に殺されてたかもしれない。お前が守ってくれたんだ」


「……」


「結果として俺が疲れた。それだけだ。寝れば治る。お前が暴走したから俺が死にかけたんじゃない。お前が暴走してくれたから俺は生きてる」


 我ながら下手な励まし方だと思った。だが、嘘は言っていない。


 ルナがしばらく黙っていた。


 それから、俺の手を頬に当てた。涙で濡れた肌が指先に触れた。


「ユーリ」


「何だ」


「ボク——絶対にユーリを離しません」


 前にも聞いた言葉だ。だが、今の声は前と少し違った。


 恐怖や決意だけではない。もっと静かで、もっと深い何かだ。


「お前が離さないって言うなら、俺は逃げない」


「……約束ですよ」


「ああ」


 ルナが俺のベッドに潜り込んできた。俺の腕に体を密着させる。いつもより体温が高い気がした。


「ユーリ」


「何だ」


「大好きです」


「……知ってる」


 ルナが小さく笑った。今度は力のある笑いだった。


「知ってるって返すの、ずるいです」


「何がずるいんだ」


「否定しないから」


 確かに、否定していなかった。


 ルナが俺の胸に顔を埋めた。銀色の髪が首筋に触れる。くすぐったい。


 小さな体が、しがみつくように密着している。


 この精霊の少年は、俺を離さないと決めた。


 それは束縛なのかもしれない。歪んだ愛なのかもしれない。


 だが今、俺の腕の中にいるルナは、ただの——寂しかった子供にしか見えなかった。


 三百年、暗闇の中で待ち続けた子供。


 俺はルナの頭に手を置いた。


 銀色の髪を撫でた。


 ルナが幸せそうに目を細めた。


 こういう顔を見ると、もう逃げられないな、と思う。


 逃げたくないのかもしれない。


 ……面倒くせえ。


 でも、温かかった。

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