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22/28

2_12_様子がおかしいシャーロットに困惑する主人公

〈Charlotte`s perspective〉


 南方の聖王国での公務を無事に終え、私たちは帰国の途についていた。


 魔導列車の一等客室。その車窓から流れるのどかな平原を眺めながら、私は今回の旅で出会った不思議な少女のことを思い出していた。


 聖王国の象徴であり、神の愛し子とされる聖女様。桃色で腰に届くほどの長髪に、エマさんと同じ位の身長でまだ13歳だという彼女は式典の最中、護衛として控えていたルークをじっと見つめていた。


 そしてすれ違いざまに小さな声で、こう囁いたのだ。


 『……貴方の魂の色は、とても不思議ですね。この世界にはない、遠い星の輝きを感じます』


 ルークは一瞬驚いた顔をしていたけれど、すぐに「恐縮です」と流していた。でも私には、彼女の言葉がただの挨拶には聞こえなかった。


 (ルークも心当たりがあるような顔をしていたし……不思議な治癒の力を持つと言われる聖女様だから……)


 聖女様とはその後、友好的な関係を築くことができた。個人的な文通の約束も取り付けたので、いずれ彼女に尋ねてみるのもいいかもしれない。


 「殿下、もうすぐ国境駅です」


 エマさんの声で、私は思考の海から浮上した。



――――――――――



 列車を降り、王都へ向かう馬車への乗り換えの際、俺は一人プラットホームの端へ向かった。


 そこには、次の運行に向けて整備を指揮するドワーフの背中があった。


 「ガリウスさん」


 声をかけると、屈強なドワーフが振り返る。


 彼は俺の顔を見ると、ニカっと白い歯を見せて笑った。


 「よう、竜人様のお帰りか」


 「よしてくれ。俺はただの人間だ」


 「ふん、どうだかな。あの暴走を止めた魔力、ワシは一生忘れんぞ。それと俺のことはガリウスと呼べ」


 ガリウスはオイルで汚れた手袋を外し、太い手を差し出してきた。


 俺はその手をしっかりと握り返す。


 「……この借りはでかいぞ。ワシらドワーフは受けた恩は倍にして返すのが流儀だ」


 彼は声を落とし、俺にだけ聞こえるように囁いた。


 「今後はお前のところに協力する。使いの人間がたまに来るんだろ?」


 「! ……感謝する。困ったことがあれば『副長官に伝言』だと伝えてくれ」


 ナハトヴォルフの協力者がいると思われるドワーフ国鉄道省に、こちらも協力者を作れたことは大きな戦果だ。


 「元気でな。また乗りに来いよ!」


 豪快に笑うガリウスに別れを告げ、俺はイグニス王国への帰還馬車に乗り込んだ。


  馬車の中では護衛総責任者のラザフォード侯爵が、厳しい表情で腕を組んでいた。


 だが俺が乗り込むと、その表情がわずかに和らいだ。


 「……ルーク」


 「はっ」


 「先日、ガリウス殿から『ルークがいなければ、わしらは今頃死んでいただろうな』と聞いたぞ」


 侯爵の眼光が俺を射抜く。だが、そこにあるのは信頼と強い敬意だった。


 「技術的な難しい話をされて理解はできなかったが、ドワーフがあそこまで人間を認めるのは稀だ。……相当な修羅場だったのだろうな」


 「……いえ。私はただ、彼の指示に従っただけですので」


 俺がとぼけると、侯爵はフッと鼻で笑った。


 「謙遜もそこまでいくと嫌味だな。まあいい多くは聞くまい。だが、お前のような男が部下であることを、私は誇りに思う」


 彼は俺の肩に、重厚な手を置いた。


 「帰国したら陛下に勲章の授与を推薦するつもりだ。覚悟しておけ」


 「……光栄です」


 俺は深く頭を下げた。


 「隠している実力も気になる事だし、帰ったら剣術の方も見せてもらおうか」


 「え」



――――――――――



 数日後。王城、枢密院会議室。


 円卓にはお馴染みの枢密院メンバーが顔を揃えていた。


 俺とシャーロットは、今回の任務の全貌と結末を報告していた。


 「……以上が、今回の作戦の全容です」


 シャーロットが報告書を閉じる。


 室内は静まり返っていた。


 動力炉の破壊、密約書のすり替え、そしてホルン・ベイル両国の離反と三国同盟の崩壊。


 その全てがたった数名の工作員によって、誰にも知られることなく成し遂げられたのだ。


 「……見事だ」


 沈黙を破ったのは騎士総長だった。白髪の老騎士は、信じられないものを見る目で俺を見つめていた。


 「まさか創設数か月でこれほどの戦果を上げるとは……。影の力がこれほどまでに国を救うとはな」


 彼は深く嘆息し、天井を仰いだ。


 「我が息子もお前のことを騎士としても高く評価していた。『末恐ろしい男だ』とな。……あいつもお前の背中を見て学ぶべきかもしれん」


 騎士の頂点に立つ男からの、最大級の賛辞だった。


 「うむ。よくやった、二人とも」


 国王陛下が満足げに頷く。


 「これで春の侵攻は回避された。だが……これで帝国もお前たちの存在に気づきつつあるのだろう?これからはより一層、厳しい戦いになるのではないか?」


 「はい。覚悟の上です」


 俺とシャーロットは同時に答え、深く一礼した。


 公式には、今回の事件は「帝国兵の暴走」として処理され、イグニス王国は一切関与していないことになっている。


 新たな戦いの予感を背中に感じながら、俺たちは王城を後にした。



――――――――――



 その夜。シルヴァネル商会の地下、秘密情報局本部。


 「――かんぱーい!!」


 賑やかな声が壁に反響する。


 久しぶりに全員が揃った本部で、ささやかな祝勝会が開かれていた。


 テーブルにはウィンストンが腕を振るった極上の料理が並んでいる。元暗殺者とは思えない家庭的な味に、メンバーの頬が緩む。


 「それにしても、今回は綱渡りでしたね」


 スキンヘッドに魔導光灯の光を反射させているサイラスが、骨付き肉をかじりながら笑う。


 「ああ。だが結果は上々だろう。それに、」


 俺は手元の書類に目を落とす。そこには正式創設から数ヶ月で採用された、新人諜報員たちの配属リストがあった。


 「新人の訓練も完了した。ドワーフの鉄道省に新たな協力者も確保した。……組織は順調に拡大しているな」


 「私の分析班も増員が必要。データ処理が追いつかない」


 イヴがぼそりと言いながら、山盛りのサラダを黙々と食べている。


 そんな中、上機嫌な声が響いた。


 「ふふん! でも、今回のMVPは間違いなく私ですね!」


 エレナだ。彼女はドレスの裾を翻し、胸を張ってテーブルの前に進み出た。


 「完璧な変装、華麗な給仕、そして神業のすり替え!の補佐。私がいなければ、この作戦は成り立ちませんでした!」


 「はい、すごいですエレナさん」


 エマが苦笑しながら拍手を送る。調子に乗ったエレナは、置いてあったシャンパンボトルを手に取った。


 「さあ、勝利の美酒を……!」


 彼女は勢いよくコルクを抜いた。


 ポンッ!!


 小気味よい音と共に飛び出したコルクは、天井の配管に当たり――


 カンッ。


 鋭角に跳ね返り、そのままエレナの広いおでこに直撃した。


 「あだっ!?」


 「ぶっ!」

 「……あーあ」


 エレナはその場にうずくまり、涙目で額を押さえる。


 「い、いたぁ……。なんでピンポイントで跳ね返ってくるの……?」


 「日頃の行いでしょうな」


 ウィンストンが冷やしたタオルを差し出しながら、楽しそうに笑う。本部には温かい笑い声が満ちた。


 俺はその光景を眺めながら、隣に座るシャーロットに向き直った。


 「……お疲れ様、シャーロット」


 俺は彼女にだけ聞こえる声で、優しく労った。


 王女として、外交官として、そして長官として。誰よりもプレッシャーを感じていたのは彼女のはずだ。


 「……」


 ワインレッドの髪を揺らしてシャーロットが顔を上げる。


 俺と目が合った瞬間、彼女の白い頬がカァッと音を立てんばかりに赤く染まった。


 「あ、う……お、お疲れ様……ルーク……」


 彼女は慌てて視線を逸らし、手元のグラスを両手で包み込んで俯いてしまった。その耳まで赤くなっている。


 「……?」


 どこか最近様子がおかしい。俺が不思議に思って首を傾げていると、向かいでケーキを食べていたエマがフォークを止めてこちらを凝視していた。


 「え……」


 エマは驚いたように目を丸くし、それからニマニマとした笑みを浮かべて俺とシャーロットを交互に見比べる。


 「ど、どうしたんだエマ。そんな顔して」


 「いえー? なーんでもありませんよルーク様?ご友人がようやく自覚したんじゃないですかー?」


 「はぁ?」


 エマの意味深な言葉に、俺はますます首を傾げるばかりだった。


 賑やかに夜は更けていく。


 帝国の脅威は去ったわけではない。


 だがこの仲間たち、この情報局ならどんな闇も切り裂いていける。


 そう確信できる夜だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!これにて第2章は完結となります。


本当は第1章で終わらす予定だった…などの話や皆様への感謝を詳しく活動報告に書いています。もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです!


さて、明日からは第3章がスタートします!と言いたいところですが、展開を考え中ですので、間章で6話ほど挟みたいと思います。ラブコメを楽しんでいただけると嬉しいです。


ここまでの物語で「面白かった!」「もっとルーク達を見ていたい!」と思っていただけましたら、ページ下の【☆☆☆☆☆】から評価や、【ブックマーク登録】で応援いただけると今後の励みになります!


改めまして、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。読んでくださるあなたのおかげで、こうして書き続けることができています。これからもよろしくお願いします!

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