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2_04_作戦会議をする主人公

 夕食の時間が過ぎ、車内が夜の静寂に包まれ始めた頃。

 

 俺はシャーロットの護衛をラザフォード侯爵にお願いし、夜の見回りと称して車内を歩き回っていた。

 

 目的は、敵戦力の正確な把握だ。

 

 (……やはり、普通の兵士だけじゃないな)

 

 俺は魔力視を発動し、すれ違う乗客やスタッフ、そして警備兵たちの体内を走る魔力を見ていく。

 

 一般人の魔力は薄くぼやけている。

 

 鍛えられた騎士や兵士は、太く力強い流れを持っている。

 

 だが、ナハトヴォルフ――帝国の暗殺部隊は違う。

 

 彼らの魔力は、鋭く、そして隠蔽されている。

 

 一見すると一般人と変わらないように魔力を抑え込んでいるが、その奥底には針のような殺気が渦巻いているのだ。

 

 (食堂車のウェイターに一人、デッキで煙草を吸っている商人、そして貨物室前の警備兵に一人……)

 

 俺は記憶の中の車内図に、赤いマークをつけていく。

 

 今のところ確認できたナハトヴォルフの構成員は15名。それに加えて、正規の帝国兵が数名。

 

 ドワーフの鉄道警備隊がいるとはいえ、これだけの戦力が狭い車内に潜んでいる事実は脅威だ。


 それに、脅威は敵だけではない。


 情報局のことを知らないラザフォード侯爵に、特務部のメンバーが敵だと誤解されると非常にめんどくさい。

 

 (よし、全員の顔と魔力の波長は覚えた。……そろそろ時間か)

 

 俺は人気のなくなった通路を抜け、集合場所として指定していた最後尾近くの予備客室へと向かった。

 

 「……」

 

 周囲に人の気配がないことを確認し、鍵を開けて滑り込む。

 

 狭い室内には、魔導ランプの明かりを最小限に絞り、すでにメンバーが揃っていた。

 

 「お疲れ様です、副長官」

 

 声をかけてきたのは、コックコート姿のウィンストン。

 

 その隣には、作業着姿のサイラス、乗務員制服のエレナ、そしてメイド服のエマがいる。

 

 全員がそれぞれの潜入任務をこなしつつ、この深夜の作戦会議に集まったのだ。

 

 「まずは状況確認だ。ラザフォード侯爵やドワーフたちに怪しまれていないな?」

 

 「問題ありません。ドワーフたちは私の料理に夢中です。明日の朝食の仕込みと言って抜け出してきました」

 

 ウィンストンが静かに笑う。

 

 「貨物室への出入りルートも確保済みです。警報装置も無効化しておきました」

 

 サイラスが直立不動でそう言う。仕事が早い。

 

 「では、俺が確認した敵の情報を共有する」

 

 俺は先ほどの見回りで特定したナハトヴォルフの特徴と配置を伝えた。

 

 「恐らくもう数人いるが、確認できたナハトヴォルフは15名。加えて帝国兵が数名ほどだ。特に注意すべきは一般客に紛れているほうだな。有事の際には人質を取る動きをするかもしれない」

 

 「15名……想定内ですね。やはり重要な任務なだけにかなりの戦力で乗り込んできているようです」

 

 エレナが真剣な表情で頷く。

 

 「貨物室の様子はどうなっている? ウィンストン、サイラス」

 

 俺の問いに、二人が顔を見合わせ、表情を引き締めた。

 

 「……厄介ですな。確認しましたが、特級貨物室には巨大な動力炉が二基、鎮座しておりました」

 

 「二基? ホルンとベイル、それぞれに一つずつか」

 

 「はい。コアの周囲は厳重警戒で、ナハトヴォルフの連中が交代で見張りを立てています。ドワーフの警備も居ますが、奴らは荷物を守るという名目でコアに近づかせないようにしているようです。それに、貨物室前の帝国兵士は帯剣していました」


 「もしやとは思っていたが、帝国はドワーフの鉄道省にも協力者がいるようだな」


 今度、諜報員に調べさせるか。

 

 「奪取は可能か?」

 

 俺の問いに、サイラスは首を横に振った。

 

 「あの大きさは厳しいですね。運び出すなんてのは物理的に不可能です。それに冷却装置から外せば、不安定になって暴走しかねません」

 

 「……となると、破壊しかないか」

 

 俺は決断を下す。

 

 このまま彼らの手に渡り、戦争の道具になるくらいなら、ここで鉄屑にしてしまった方がいい。

 

 「破壊工作のプランはあるか?」

 

 「はい。奴らの目を盗んで、魔力回路に細工をするつもりです。そうすれば、大きな魔力爆発を起こさず破壊可能だと分析部長から聞いています」

 

 「よし。貨物室班はそれで頼む。問題はタイミングだが……エレナ、特使たちの動きはどうだ?」

 

 「彼らの会話によると、密約の締結は明日の夜に行われるようです」

 

 「明日の夜……締結後すぐに列車を降りるつもりだな」

 

 「はい。帝国側も焦っているのでしょう。人目が少ない夜間に、VIPルームでサインを済ませる手筈のようです」


 敵の狙いは明日の夜。ならば、こちらもそれに合わせるしかない。

 

 「いいか、明日の夜、2つの作戦を同時に決行する」

 

 俺は全員を見回し、静かに告げた。

 

 「ウィンストンとサイラスは貨物室で動力炉の破壊。エレナとエマは客室で持ってきた偽造書と密約書のすり替えだ」


 「すり替えのチャンスは一瞬です。照明を落とす等の撹乱が必要かと」

 

 「それなら私にやらせてください。暗闇の中なら、誰にも気づかれずに書類をすり替えられると思います」

 

 エマが小さく手を挙げる。普段の愛らしい侍女の顔ではなく、鋭い狩人の目をしていた。

 

 「わかった、作戦の詳細はエマとエレナで相談してくれ」

 

 「任せてください!」

 

 「俺は自由に動けない可能性が高い、失敗は許されないぞ」

 

 「ええ」

 

 エレナが不敵に微笑む。

 

 「では、解散」

 

 短い合図と共に、メンバーは音もなく部屋を出ていく。

 

 それぞれの持ち場へ、それぞれの仮面を被りに戻っていくのだ。



_________

 


 メンバーを見送った後、俺は一等客室のエリアへと戻ってきた。


 静まり返った廊下を歩き、シャーロットの貴賓室の前に立つ。


 扉の横には交代で警備に立っている近衛騎士の姿があり、俺の顔を見ると安堵の表情を浮かべた。


 「お疲れ様です、ルーク卿。団長は隣の部屋にいます」


 「ああ。後は俺が見る。休んでくれ」


 騎士を見送り、扉の前に立つ。


 もう夜も遅い。シャーロットはもう休んでいるだろうか。


 そう思った時、扉の向こうから微かな気配が近づいてくるのを感じた。


 カチャリ、と小さな音がして扉がわずかに開く。


 「……ルーク? あ、やっぱり」


 隙間から覗いたのは、寝間着の上にガウンを羽織ったシャーロットだった。


 ワインレッドの髪を下ろし、普段の凛とした王女の顔ではなく、偶に見る素の表情をしていた。


 俺は周囲の気配をさっと確認し、囁いた。


 「ごめんシャーロット、起こしたか?」

 

 「ううん、眠れなくて……。少し、いいかしら?」

 

 彼女に招き入れられ、俺は部屋へと入る。

 

 室内は暖炉の魔道具によって暖められていたが、空気には微かな緊張が漂っていた。

 

 彼女はソファに腰を下ろすと、不安げに窓の外へと視線を向けた。

 

 「……こんなにも静かなのね」

 

 「ああ、魔導列車の客室の防音性能は高いからな」

 

 「ううん。……この列車のどこかに、国を滅ぼすほどの兵器と、恐ろしい陰謀が渦巻いているなんて信じられないくらい、静かだと思って。だんだん怖くなって色んな事を考えちゃったの」

 

 シャーロットは自身の両腕を抱くようにして震えた。

 

 普段は王女として、長官として気丈に振る舞ってはいるが、彼女はまだ十代の少女だ。弱気になることぐらいあるだろう。


 シャーロットと友人になった日のように、彼女が溜め込んでいる不安や不満に押し潰されないよう支える。


 それが友人である俺の役目だ。

 

 俺は片膝をつき、彼女と目線の高さを合わせた。

 

 「何を考えたんだ?」

 

 「……」


 「言えないことなら言わなくてもいい」


 「ううん、違うの……口に出したら本当になる気がして」


 「そうか」


 「……もし、何かあってルークが死んじゃったらどうしよう、とか」

 

 「俺の強さはシャーロットも知っているだろう?」


 「知ってる。けど、あなたは自分の命よりも人の命を優先しそうなの」


 「……」


 確かに家族や周りの大事な人達を自分の命で救えるのなら躊躇はしないかもしれない。


 図星だ。


 「やっぱり、その顔は図星でしょう?」

 

 「……ポーカーフェイスは得意なんだが」


 「あなたは私の一番の友人なのよ?分からないわけないじゃない」


 まあ、それほど一緒に居る時間が長かったという事か。


 「……じゃあ、約束しよう。何があっても必ず君のもとへ帰る」

 

 まっすぐに彼女の翡翠色の瞳を見つめて告げる。


 それは騎士としての誓いであり、友人としての約束だ。

 

 彼女の瞳が揺れ、やがて安堵の色が広がっていく。

 

 「……約束ね」

 

 シャーロットは小さく微笑むと、そっと俺の手に自身のそれを重ねた。


 その手は少し冷たかったが、俺の手の温もりが伝わると、ぎゅっと握り返してきた。

 

 シャーロットが眠くなるまで少し話をしてから部屋を出た俺は、扉の前で深く息を吐く。

 

 (……守らなければな)

 

 改めて、胸の内に熱いものが宿るのを感じた。

 

 窓の外を流れる深い闇を見つめる。

 

 決戦は明日。特務部の皆なら大丈夫だと思うが万が一がないことを願う。

 

 逃げ場のない鉄の箱の中で、国家の命運と、約束を賭けた静かなる戦争が幕を開ける。

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