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2_02_魔導列車に初乗車する主人公

 作戦決行の日。


 イグニス王国の国境沿いにある駅は、物々しい雰囲気に包まれていた。


 蒸気ではなく、魔力を動力源とする巨大な鉄の塊――大陸横断魔導列車グランドクロス。


 その巨体は、全長数百メートルにも及び、黒光りする装甲は城壁のような威圧感を放っている。


 そのプラットホームに俺とシャーロット、そして今回の使節団が整列していた。


 「ルーク・エディンバラ」


 背後から、地響きのような低い声がかかる。


 振り返ると、そこには鋼鉄の鎧に身を包んだ巨岩のような男が立っていた。


 レオナルド・ラザフォード侯爵。


 イグニス王国第一騎士団団長であり、今回シャーロット殿下の護衛総責任者を務める人物だ。


 そして、俺が学院時代に首席を争ったマクシミリアンの父親でもある。


 「はっ、団長」


 俺は居住まいを正して敬礼する。


 ブラウンの短髪に、熊のような髭。その肉体は年齢を感じさせないほど鍛え上げられており、最初見た時は髭も相まってグリズリーのような印象を抱いた。


 「ここまでの移動でルークが近衛騎士として優れていることは十分わかった」


 鋭い眼光が俺を射抜く。


 その瞳には、王都出発前にあった懸念が消え、微かな信頼があった。


 俺は近衛騎士なので第一騎士団所属ではあるが、シャーロット専属故にラザフォード侯爵とは今まであまり関わりがなかった。


 おそらく王都からここまでの道中で品定めをしていたのだろう。

 

 「過分なお言葉です。以降も気を抜かないよう気をつけます」


 「おう、その意気だ」


 「はっ」


 本人は笑顔のつもりかもしれないが、熊が獲物を見つけた笑顔のようで威圧感が凄まじい。


 ラザフォード侯爵は枢密院のメンバーではないため、俺が情報局の副長官であることも、裏で何をしているかも知らない。彼にとって俺は「ちょっと優秀なだけの新米騎士」に過ぎないのだ。


 この団長の目を欺きながら工作の指揮をとるのか……。


 胃が痛くなりそうだと思いながら、俺はシャーロットの斜め後ろに控えた。


 「出発の時間だ。乗車するぞ」


 ラザフォード侯爵の号令で、使節団が動き出す。


 だが、列車の入り口で俺たちの行手は阻まれた。


 「待ちな! ここから先はドワーフの領域だ」


 入り口に立ちはだかったのは、身長は俺の胸ほどしかないが、横幅は倍ほどもありそうな屈強なドワーフだった。


 立派な髭を三つ編みにし、鉄道警備隊の制服を着ている。


 「何の用でしょうか。私たちはイグニス王国第二王女の外交団です」


 シャーロットが代表して答えると、ドワーフは鼻を鳴らした。


 「ワシはこの列車の車掌兼警備主任のガリウスだ。外交使節団だろうが王様だろうが関係ねぇ。この魔導列車グランドクロスに乗るなら、ドワーフの掟に従ってもらう」


 ガリオンと呼ばれたドワーフは、太い指で俺たちの腰――帯剣している剣を指さした。


 「魔導列車への武器の持ち込みは禁止だ。長剣、短剣、槍、すべての武器は専用の保管庫に預けてもらう」


 「我らは近衛騎士として王女殿下を護らなければならないのだが、だめだろうか?」


 「魔導列車ではワシらがルールだ。中立地帯で武器をぶら下げた奴らがうろついてみろ、それこそ外交問題だ。嫌なら馬車でいくんだな」


 ラザフォード侯爵が食い下がるが、頑として譲らないガリオンを見てシャーロットが口を開く。


 「分かりました。護衛の皆さん、魔導列車内ではガリウスさんに従ってください」


 「「「はっ」」」


 「申し訳ありませんでした。ガリオンさん。我々はあまり魔導列車に乗る機会がないもので」


 誠意のある謝罪をする珍しい王族と、規律の鬼のように一糸乱れぬ騎士たちを見て動揺するガリウス。


 ラザフォード侯爵は自身の腰にある歴戦の大剣を外し、ガリウスに突き出した。


 「預けよう。だが、管理は厳重にな」


 「ふん、分かってる。ドワーフの金庫はドラゴンでも破れん」


 他の騎士同様、俺も腰の剣を預ける。


 武器を預けた俺たちは、ようやく車内へと足を踏み入れた。


 車内は外見の無骨さとは裏腹に、贅を尽くした作りになっていた。


 魔導ランプの柔らかな光、深紅の絨毯、磨き上げられたマホガニーの壁。


 振動もほとんどなく、まるで高級ホテルがそのまま移動しているようだ。


 シャーロットは最上級車両の貴賓室へ。俺は専属護衛として、その部屋の前に立つことになった。ラザフォード侯爵や他の騎士たちは、前後の車両で警備にあたる。


 ふと、窓の外を見ると、貨物搬入口の方に帝国兵の姿が見えた。


 (あれか……)


 厳重に警備されたコンテナが積み込まれていく。


 中身は見えないが、そこから漏れ出す微かな魔力の波長を、俺の目は捉えていた。

 

 間違いない。あれがコアだ。


 「……ルーク様」


 背後から小さな声がした。


 振り返るとメイド服を着たエマが立っていた。


 手にはお茶のセットを持っているが、その目は鋭い。


 「問題なく配置完了済みです。エレナさんとウィンストンさんは前方車両のスタッフエリア、サイラスさんは整備士として貨物エリアの近くに潜り込みました」


 「ああ、確認した。帝国の兵士はすでに乗り込んでいるな」


 「はい。兵士の数は想定より少ないです。しかし……」


 「ああ、混じってるな」


 俺は魔力視を発動し、視界を切り替える。


 壁を透過して見える魔力の流れ。


 帝国兵の中に、明らかに練度の違う――軍人というよりは、暗殺者に特有の、隠蔽された鋭い魔力を持つ者たちがいた。


 ナハトヴォルフ。


 帝国兵士に紛れているのであれば、他にも客として紛れている可能性が高く、あの数名だけとは考えられない。


 「武器は預けさせられたが、連中は貨物室に武器を隠している可能性が高い。くれぐれも油断するなと伝えてくれ」


 「はい! ルーク様も……あのクマさんみたいな騎士団長にバレないように気を付けてくださいね!」


 エマはクスクスと笑い、部屋の中へ入っていった。


 クマさんみたい……か。


 俺は通路の向こうで腕組みをして仁王立ちしているラザフォード侯爵を一瞥する。


 やっぱ雰囲気が熊っぽいよなぁ。


 俺は小さく呟き、走り出した列車の振動に身を任せた。


 戦いの舞台は整った。

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