99話 王国ノ真実 ~前編~
ルティーナ達は、無事に孤児院を守り切り、実行犯は全員、護衛団の施設に連行されていった。
院長であるミレイユは、彼女達を見込んである依頼をしようと孤児院の客室に集めるのであった。
ミレイユはエリアルに小さな箱を渡し開けるように指示した。
そして、彼女は語り始めた――。
ミレイユは、ルティーナ達に『イスガ王国』の話しを聞いたことがあるか確認したが、皆、予想外の話に呆然としていた。
エリアルはミレイユから渡された箱をあけると、その中には1本の鍵が入っていた。
「ただの鍵……ですよね?」
ミレイユは、その『鍵』は『イスガ王国』を完全に消滅させるための物であると説明し、ますます話しがぶっ飛びすぎて混乱するルティーナ達であった。
そんなルティーナ達に追い打ちのように『イスガ王国』は今もなお砂漠の下に存在していることをほのめかし、王国の真実を語り始めるのであった。
――その話の下りは、以前エリアルがルティーナに話していた通りであったが、そこへ巨大な空飛ぶ魔物が攻めてきたところから話の内容が変わっていった。
80年ほど前、その魔物は突然現れ王国はいとも簡単に火の海となってしまった。
ほとんどの民は死に絶えてしまったが、王国は技術が進化していたため地下に強固な避難施設が建設されており、国の要人と研究者および関係者達は避難して災害を逃れていた。
「しかし、あの魔物は一体……」
「我々は大変なものを作り出してしまった……あの魔物は天罰を与えに?」
「それとしか……だが、我が国が一瞬で火の海になってしまうとは……本来なら有効活用できる技術も沢山あるのに……それも活かせずに簡単に終わってしまうのか……」
「民も守れぬとは……王としてこれほど情けない事はない」
「王のせいではございません」
「他国にまで、この魔物を野放しにはできん! ガザスっ、例の技術を使う」
イスガ王の決断は、イスガの大地を全て魔物ごと地下に封印する決断であった。
側近のガザスは同意するも、王の強行の決断を要人や研究者が納得すると思えないと不安視する。
「ガザスよ、すまんが避難している全員を何も知らせずに例の薬を部屋に流し、……そのまま眠らせてくれ……私は、最低な王だな」
「……英断だと私は思います。では、皆が眠ったのを確認後、砂漠化の技術を発動させ、私も眠らせていただきます」
「ですが、眠らせてから起動しますので1時間はかかります。――この作戦がうまくいったかを確認する為に……王と王妃と姫だけでも生きてください……さぁ避難用の棺に」
しかしイスガ王はガザスの提案を却下し、自分も一緒に眠ると伝えた。
もし魔物を巻き込めなかった場合に、他の国にこのことを伝える役目は2人でいいと、最後に王としてのわがままを言うのであった。
「世も、30分ほどしたらそちらに行く、一緒に起動させよう」
そして、イスガは妻と娘が避難している部屋へ向かうのであった。
そこには、不安そうな顔で王を見つめる王妃と姫の姿があった。
「あなたっ、私たちはどうなるのですか?」
「お父様っ」
「今日はミレイユの7歳の誕生日だったというのに……すまんな。父親失格だの」
そう、ミレイユはイスガ王の娘であった。
彼女は、王妃であるつまり母親のフレーディルと2人でブクレインに逃げのびていたのだ。
「お前のことはずっと愛しているよ……」
イスガ王はミレイユを抱きしめながら、睡眠薬をかがせたのであった。
「お、おとう……さ……」
そしてイスガ王は今回の決断についてフレーディルに遺言のような形で今の現状と施策を話したのであった。
その時、爆発音とともに、地下施設の天井にひびが入り始めたのであった。予想以上に暴れる魔物の攻勢に強度を誇っていた施設が崩壊するのも時間の問題となった。
「くそっ! フレーディルよ、わかっておるな! 王妃としての役目を――」
「……わかりました。あなた、いつまでも愛しています」
「かなわぬ願いだとしても……お会いできる事を……」
「あぁ先にあの世で待っておるぞ……」
「そして忘れるな! 私の『無事』を決して祈るでないぞ!」
「うううぅ」
イスガ王と別れたフレーディルはミレイユをかかえ、退避用の棺に入り蓋を閉じその時を涙を流しながら待つのであった。
そして数分後――。
爆音と共に王国のまわりの地表が砂漠に変り、地上高く撒きあがるとともに津波のように魔物と王都を巻き込み一瞬で数km深く沈んだ。
その砂漠の中をまるで魚雷のように棺がブクレイン近くの森に放たれるのであった。
地上に逃れることが出来たフレーディルは棺の中でミレイユが目を覚ますのを待っていた。
「――お母様っ……ここは? ! お父様~っ!」
現実が受け入れられないミレイユは棺から飛び出し、森の中を必死で父親を探していたが、そのうちに疲れて黙り込んでしまった。
フレーディルは遠く煙が上る方角を見つめ、イスガ王国がなくなったことを感じ取っていたのであった。
例の魔物は逃げてしまったのか? それとも砂漠の海に巻き込まれたのか? あれだけ猛威をふるっていたにもかかわらず、全く存在すら無くなっていたのであった
フレーディルはイスガ王の言う通りに、2人は王族の服を脱ぎ捨て、棺の中に準備していた平民の服に着替え棺に入れなおした。そして棺についている消滅装置を作動させ棺の存在自体を消した。
そして森から街道に出て、バルステン王国に入国するのであった。
イスガ王国は、技術流出を恐れ国交を行っていなかったた独自の金銭を使っていた為、ブクレインなどの他国での共通通貨を所持していなかった。
フレーディルは入国の際に「所持金をなくしてしまった」と言い訳し、持っていた宝石などを売りお金にし生計を立てることにするのであった。
偶然にも彼女たちには都合よく、当時のバルステン王国は近隣諸国と戦争をしており終戦したばかり政治機能は混乱している最中であった。
しかし、ミレイユは街の片隅で、人の捨てたものを食べて生き延びる戦争孤児たちの姿を目にするのであった。
「お母様っ……あの子達は?」
「この国はこの前まで戦争をしていたのよ。――あの子達は親がいなくなってしまったみたいね」
「可哀想……私にはお母様が居ます……何かしてあげられませんか?」
「そうしてあげたいけど、もう私たちは王族ではないのよミレイユ……」
逃げ延びた2人であったが、フレーディルはミレイユが幼少であるため宿暮らしはしていたものの、そろそろ働らかなければ資金の底が尽きるのが目に見えていた。
そしてある日の事、ミレイユが笑顔で宿に戻って来た。




