98話 冒険ノ切掛
ついに襲撃が開始された。主犯格のバッシュはエリアルの『武闘会』の賞金を我物にできると余裕の表情であった。
しかし、国外に出たはずのルティーナ達が存在し護衛していることに驚愕する。
そして、正門と裏口でのそれぞれの戦いが始まった。
ユルゲンは、ロザリナに殴り飛ばされ壁にめり込みながら気絶していた。
そして彼女に後をまかせてルティーナは状況を確認するために一旦、シャルレシカに合流していた。
一方、正門側では逃げようとする男達はサーミャが相手をし、エリアルは敷地に入ってきた男達を相手にしていた。
しかし、5分もしないうちにバッシュとタッセの2人だけを残して、全員失神させ追い詰めていたのであった。
「エルっ、こっちは終わったぜぇ! 脚でも凍らせて逃げれないようにしとくから、そっちはまかせたぜ」
「貴方たちは僕が――」
「……なんなんだ、こいつらっ瞬殺じゃねぇかよっ」
「(おいタッセ、外の女が入ってくる前に、おまえはエリアルに飛びついて死んでも動きを止めろ)」
「(おれは、施設内で子供1人でも人質にすりゃ勝ちだ)」
「(苦茶言わないでくだせぇよ、本当に殺されちまいますぉ~)」
「(心配すんな、周りの奴らを見りゃわかんだろ? 殺しはしねぇよ)」
「あ、兄貴の邪魔はさせねぇぞっ」
「こ、こいつ」
タッセはエリアルに殺意が無い事を理解し、とにかく抱きつくことで身動きを封じようとしたのであった。
「な、なによこいつ! 放しなさい、どこ触ってるのよっ!」
「『ソード・オブ・ボルケーノ』っ」
(【炎】)
エリアルはタッセに炎の剣で衣服を軽く斬り付け、服に引火さられたことで彼女から手を放し、慌てて地面に転がり火を消そうとする。
「ぎゃっ~っ!」
しかし、その隙には既にバッシュが玄関を開けようとしていた。
彼女と「し、しまっ――」
「まかせなっ! 『ライトニング・ニードル』っ」
サーミャが急いで雷を放ったが、バッシュは冷静にその場に倒れている仲間を盾にし回避した。
「なっ」
「孤児院に入られてしまうっ」
しかし、バッシュが孤児院の扉を開けようとドアノブを掴んだ瞬間――。
「な、俺の手がぁぁぁ~」
バッシュの腕が扉にくっつくように氷漬けになるのであった。
「えっ、何がどうなってるの?」
「エルっどいてっ! 『ライトニング・スプレッド』っ」
「ぐばらぁ~っっっ!」
サーミャは、動けないバッシュを雷で包み込み失神させるのであった。
すると、扉が開きルティーナが顔を出す。
「ルナぁ~、助かったわ」
「何をしたの?」
ルティーナはシャルレシカから玄関に1人がこっそり近づいてきていると聞き急いで、先回りし扉に【凍】を描いて瞬間を待っていたのであった。
「よぉルナ、こいつらで全部かぁ?」
「そうねシャルはもういないって。裏口も片付いてるわ」
「お~い! 大丈夫かっ? ルナリカっ!」
「あ、ギンさん」
ちょうど事が済んだタイミングで、ヘギンズの呼んだ護衛団が駆け付けたのであった。
そして彼がうまく説明していてくれたおかげで、話しがスムーズに進み取り押さえた犯人達は全員連行されていくのであった。
ルティーナ達は、後から警備所に出頭するように言われ、孤児院の後片付けを始めた。
「皆、本当にありがとう」
「これで、明日にはあいつらの事が街中に広がりますね……これで、馬鹿なことを考える奴が抑止されたらいいのですが」
「それなんだけどさ、ギルドに孤児院の護衛任務を出してみない?」
「白の冒険者って任務を受けるのが大変なのよ。だから、子供が大好きな人って居そうだし、護衛料も安くていいんじゃないかなぁ。レミーナさんに打診しといてあげるわ」
「そういう話し助かるよ。ありがとう……(それなら……)」
そして後片付けが終わる頃、孤児院の中から漢字を解除されたミレイユが出てくるのであった。
「動けるようになったので、事が終わったのかと外に出てきたのですが……」
「あ、ミレイユ。ルナ達のおかげで無事に終わりましたよ」
「本当に……あなた達はやっぱり、すごいのね」
「そういえば、ミレイユ……事が終わったら、僕達に話したいことが――」
「そうですね。そうねちょうどいいわ……」
「外では子供達が起きちゃうから、客室に皆さんで来ていただいてもよろしいでしょうか?」
ミレイユは5人を客室に招いて、しばらくそのまま座っておいてほしいと部屋を後にしたのであった。
「院長さん、急にあらたまって何かしらね?」
「何かお礼でもしてくれるんじゃねぇか?」
「ミヤったら、ここは孤児院だよ、そんなの無理でしょ」
「そっか」
「そう言えばさ、エルは外に冒険に出かけるのが夢だったんだよね」
「あっ、その件は孤児院のみんなには内緒にしておいてくれないかな」
「さすがに、ここを守るってここの皆に誓ったからね。その夢は胸にしまっているんだ」
「そっかぁ、そうだよね。ここはエルの大事な場所だもんね」
「残念だな、ちょうど『零の運命』は剣士募集中だったんだけどな」
「「「あははは」」」
「……」
そこへ、ミレイユが小さな小箱を持ち再び部屋へ戻って来たのであった。
「ミレイユ、その手に持っているものは?」
「これを、エリアル……あなた達に託します」
「(おっ? 宝箱じゃねぇのか?)」
「(コラっ! ミヤっ)」
「(まだ早かったかもしれませんが……これをエリアルに渡す日が来るとは……スウェン……これでやっと――)」
そして不思議そうに箱をあけようとしたエリアルを横目に、ミレイユが語り始めた。
「ルティーナさん、あなた達の実力を見込んでお願いしたいことがあるのです」
「私達にお願い?」




