92話 昔話ト魔物
ルティーナ達は砂漠の調査の後、疲れた体を休めるために街道の脇に岩壁でつくった窯の中で熟睡していた。
そんな中、偶然通りすがりで『武闘会』の決勝で戦ったエリアルがルティーナを起こすのであった。
エリアルは、故郷がルティーナ達が旅行に行こうとしているブクレイン王国であり、大会後、帰郷していたがルティーナとの約束の為にノモナーガ王国を尋ねていた。
しかし、彼女が不在と聞き、トンボ帰りする途中に出会えたのだ。
そして2人は意気投合し、エリアルが騎乗してた馬にシャルレシカを小さくして乗せてもらい砂漠の街道を駆けるのであった。
エリアルとシャルレシカ 砂漠を疾走中
エリアルにとっては寄り道であったが、ルティーナが一緒に乗っていることを考慮して、馬の速度を調整しながら走っていた。
本来であれば夕方過ぎには街道を抜け宿場まで到着できたが、当日中の深夜になってしまうことにルティーナは謝罪した。
「いいよ、確かにもっと早く走れるけど、さすがにルナが振り落とされちゃうからね」
「それに一人旅よりは会話相手がいて楽しいし、これぐらいの速度の方が、話もしやすい」
「うん」
「ところで、例の能力の話の前に、ルナ達はどうしてバルステン王国に行くんだい?」
ルティーナは、『武闘会』で4人の賞金で『零の運命』の拠点の建設中に、サーミャが葡萄酒をもう一度飲みたいという理由だけでブクレイン王国に旅行することに決めたと説明した。
それを聞いたエリアルは、あきれ顔で大笑いするのであった。
「私たちってそんなことで行動しちゃうんですよ。そうだ拠点は一ヶ月後に出来るからエルも遊びにきてよねっ」
「是非」
「あと、ミヤとリーナは、私たちより年上だけど『さん』付けいやがるんだよね。だから逢ったら、気さくに呼んであげてね」
「そうさせてもらうよ」
そしてルティーナは、エリアルが18歳で冒険者になり2年目と話していたことを思い出し、冒険者になった理由を聞いた。
「……実は」
エリアルは、会食の時に嘘を言っていた。
数年前に自分の祖父がとある洞窟を探索している際に偶然発見し、自分が18歳の成人の祝いに託してくれた――。
彼女はブクレイン王国にある孤児院で赤子の時に拾われ育てられていた。
その魔剣を成人の祝いにもらった話は間違いないが、祖父からではなく孤児院の院長からであった。
そして孤児院に恩返しするために、魔剣と院長から教わった剣術で稼げる『武闘会』に参加することを決めたのであった。
「そして優勝したんですよね? 金貨500枚……まさか」
「そうだよ。孤児院に全額寄付したよ」
「え~えっ」
彼女は、今大会の準優勝の賞金300枚も寄付したという。
その賞金で一緒に育った子供たちに少しでもいい布団や設備で生活させ、そして、おいしい物を楽しく食べてもらいたいという想いしかなかったのだ。
「……あ~なんだか大金で旅行に浮かれていて、本当すみませんっ」
「あ、ごめんごめん、そんなつもりじゃないから。これは僕の問題だからさ」
それからというもの彼女は長距離移動し砂漠を1日で通過する為に、乗馬を勉強し2年目の大会に出場していた。
1年目の大会で優勝賞金を寄付したころから付近の治安が悪くなったため、ギルドの任務をせずに孤児院を1人で守っていたという。
そして今回のように不在にするときは、護衛団に依頼して外出しているのであった。
「僕も、ルナみたいに自由奔放な冒険者にあこがれているんだけど、しかたないんだよ」
(だから、ノスガルドで見かけた事が無かったのか)
「でも、真面目そうなエルでも嘘はつくんだね」
「笑ったでしょ今? そういえばこの魔剣の話を聞きたかったんだよね? 正直に言うけど――」
エリアルはこの剣を使い剣技の技を磨いていた時に、偶然、炎の剣が使えたらカッコいいなと頭の中で『ソード・オブ・ファイア』と浮かび叫ぶと、突然、現実となった話をされルティーナと馬琴は呆然とした。
その内に、こんな事ができたらいいなと魔法の属性に近い能力が使えるようになったという。
だが、この剣がどうしてそういうことができるのかは全く知らずに今に至るのであった。
「そうかぁ~」
「私は訳があって、あることが片付くまで真実を多くをここでは語れないの……ごめんなさい」
「(何か訳アリなんだね)それじゃ、ルナも王様に嘘を?」
ルティーナは、3年前に落雷には遇っていないことをエリアルに説明した。
馬琴の事は秘密にしながらも、正直に自分が事故で7年間意識不明になっていた後に、考えた事が具現化できるようになったことだけを伝えた。
「そっか、考えたことが実現するのは同じなんだね。僕の魔剣の事が……何かわかるとおもったんだけどな……でも、いつか話してくれるとうれしいな」
(……)
数時間、街道を駆けていくうちに、宿屋の灯りがぼんやり道の先に見え始めたのであった。
ふと、ルティーナはさっき調査していた魔物は『イスガ砂漠』に王国があったという話が何か関係していなかと、『砂漠』と『王国』の話を何か知っていないかエリアルに聞いてみた。
(とりあえず、あの件は伏せておくぞルナ)
(うん)
「その噂なら知ってるよ。それじゃ院長から聞いた昔話をしてあげるよ」
――エリアルは、聞き伝ての話を淡々と語り始めた。
約80年前に、イズガという技術が発展した、まわりが砂漠に囲まれた小さな王国があった。
そこは他国との交流を断絶していたが、さまさまな平和を目的とした研究がおこなわれていた。
だが突然、巨大な魔物の襲撃に遭い王国はほぼ壊滅状態となり、その時に研究者が国を砂漠の下に沈めて技術を封印した……。
その時、偶然、脱出できた人間が存在していて、その話を後世に噂のように広げたと――。
最近では、その噂話を夢見てお宝目当てに王国を探しに行った者が、そのまま行方不明で帰って来た者は誰もいないという。
「行方不明か……ヘギンズさんが言ってた通りね」
(途中から砂漠では無くなるんだから、海で溺れたのが正解だろうね……)
「でも巨大な魔物が攻めてきたって……そんなのが来たら近隣の国だって滅んでない?」
「そうなんだよね。だから作り話なんだろうなって、皆、そう言ってる」
(しかし、それらしき反応があった……やはり、何かある)
そうこうしているうちにバルステン王国手前の宿場にたどり着き、検問所にミヤたちが気を利かせて宿泊先を伝えており、深夜遅くにはなったが皆と無事合流することができた。
そして、シャルレシカは宿の布団の上で目を覚ましたのであった。
「あれれ~? ギンさんとミヤとリーナがいる? ルナもエリアルさんも? なんでぇ~?」
「おいおいシャルっ酷いなぁ~、僕はエルじゃないのかい?」
「そうでしたエルですぅ」
「おいおいお前たち、今、ワシの事、ギンさんって言わなかったか? こいつ」
「あ~ぁ、ヘギンズさんも、あだ名を付けられちゃいましたね。さん付けだけど」
「おいおい、簡便してくれよぉ~」
「「「「あははっは」」」」
そしてエリアルは名残惜しかったが、翌朝に孤児院に戻り用事を済ませなければならない為、そのまま寝ずに移動すると去ってしまうのであった。
ブクレインに着いたら、孤児院を尋ねてほしいと言い残して。




