87話 前日譚 ~後編~
朝時は寝室の天井を見上げながら、爆破事件から目が覚めた時に自分がノキア王になっている理由を考えていた。
『勇者召喚の儀』の最中、ノキア王の目に写っていた召喚水晶には、自分の姿とウェディングドレスの姿の誉美が見えていた。
続けて何かが水晶がモヤモヤとした瞬間、謎の大爆発に巻き込まれた。
その事を踏まえて、朝時と誉美は勇者召喚されようとしていたことに間違いはないと確信した。
(しかし、自分の体は存在せず、他人になりきっている……何故――)
「痛っ」
まさか――サデッサが言っていたな。
ノキア王が爆破現場から発見された時、心臓付近に水晶の破片らしきものが刺さっていた。
時間が経過しすぎていた為、取り除く行為は生命の危険が伴い、かつ、再生魔法の限界時間を優先しそのまま――。
俺は召喚の最中に、水晶が破壊されてしまった事により、破片に封じこめられたまま、こいつの体に刺さり乗っ取ったのではないかと結論に至った。
そうすると、誉美の水晶も存在しているはずだと考えた。
(明日、事件現場を確認に行かねば……)
(私のように誰かを乗っ取っているか? それとも水晶の破片まま転がってしまっているのか?)
水晶の破片のままだった場合、自分の好みの女性に刺し誉美を乗り移らせ5人目の妻にすればいいと考えた。
もうここで暮らすしかないと説得すれば納得するだろうと安易な考えであった。
(里美ぃ~、これで誉美は俺のものだぁ! ざまぁ~みろっ! ぶははははっはぁ!)
――そして翌朝。
「ノキア王、もう歩いて大丈夫なのですか?」
「うむっ、この通り問題はないっ!」
「そ、そう、事故現場に来れば、何か思い出すかと思ってな」
「そうでしたか、現場はまだ壁や天井がもろくなっておりますのでお気をつけくださいませ」
「ありがとう」
爆発に巻き込まれた人間は袋に入れられ並べられていた。そして辺りには大量の血が散乱している酷い状況であった。
「(しかし、酷いな……これでよく助かったな)」
「(だが、水晶らしき破片すら見当たらないではないかっ……一体……誰か回収したのか?)」
しかし兵士に遠まわしに部屋にあったものはどうしたのかと質問すると、現場検証の為、何一つ持ち出していないという。
「(どういうことだ……)」
「それより、昨日の爆発が起こった時に変わったことは無かったのか?」
「……そういえば衛兵の数名が、ほうき星以外に流星が城の方から八方に流れていったと言ってましたが――」
「!」
「そ、それは、爆発の後か?」
「我々も、何が起こったか皆を集めていた最中でしたから、おそらく」
「(ちっ、……他の水晶の破片は、外に拡散してしまったってことか!)」
「(誉美の水晶を見つけなければ、一生、遭えなくなるじゃないか……ちくしょうっ)」
「流星はほうき星のかけらだったのでしょうか?」
「そ、そうかもしれぬな」
「そうだ、今回爆発事件について確認した情報があればまずは余に報告するのだ」
「不確定な情報は現場を混乱させてしまうからな。皆にも徹底しておくように」
「かしこまりました」
朝時は、この国を守るために、『勇者召喚の儀』を行っていたことを国内外に知られてはならないと判断し、真実にたどり着きそうな者すべてを処分しようと考えるのであった。
だが、いきなり対象者全員を一度に抹殺しては不自然だと考え、自分直属の暗殺部隊を利用することにした。
「ドグルス、テレイザはおるか?」
「はい、ノキア王。こちらに」
「頼みたいことがある。お前たちのことだ召喚の件は気づいておろう」
「先日、国内で流れ星を見たという者を全て探し出し、何年かかってもよい! 不自然と思われぬように1人づつ、暗殺ないし事故に見せかけて始末するのだ」
「『勇者召喚』の事実だけは、決して誰にも知られてはならぬっ」
「あと、各地にちらばったと思われる『サモナー・ストーン』の破片を見つけ次第回収するのだ」
「はっ、おうせのままにっ」
王室で朝時が画策していた頃、城の外では――。
「バルストっ! 大変だ! アンナさんが血相をかいて、お前を尋ねて来たのでお連れしたぞっ」
「どうした、アンナっ!」
「あぁ、あぁあなた……ル、ルナがぁぁぁぁ~っ」
「落ち着け! ルティーナがどぅしたんだっ!」
バルストはアンナから、ルティーナが森に行ったまま帰って来ないと心配になり探しに行った所、近くの崖から転落して大怪我していたのを発見したのであった。
しかし、アンナには高度な医療魔法は使えず応急処置しかできず、知り合いの回復師の所に連れて行って治療してもらっているところだと説明した。
「ルナの……ルナの意識が……戻らないの――」
「すまんっ、ベルハットっ! 今日は早退さ――」
「あぁ、早く行ってやれっ」
そして翌日、バルストは近衛師団を退団した。意識が戻らないルティーナの介護の為に。
しかし退団手続きは、王都爆破事件で混乱している最中であったため、ベルハットに伝え手続を代行してもらっていたのであった。
――そして6年の月日が流れ、当時の爆発事件のことは忘れられつつあった。
朝時は王として慣れ、ノキア王の記憶と現代社会の教師としての知識を使って、行政を効率よくこなし国を良くしていくのであった。
しかし、彼には相手の弱みを握ると洗脳ができる『能力』つまり黒魔法の『ダーク・マニピュレート』を自由に使えた。その魔法は1度操り終わると解除され、再び魔法をかける必要があるが、朝時は上位版の魔法であり、都合の良いときにスイッチのようにオンとオフが出来ることに気が付いた。
それは何気なく、家臣の悩みを聞いているうちに、不自然に自分の思い通りに動く人間になっていたことで、自分の能力を確信していたのであった。
そして、ヘルアドから、昔の召喚された勇者は3人であり、それぞれ、黒魔術の騎士、光魔法の聖女、不可思議な文字を操る魔法使いならぬ者と聞いていたのだ。
それから、どうしても誉美の存在に出会えない事を諦められない朝時は、2年前に『王国武闘大会』を開催することにしたのであった。
もしも誉美が誰かに乗り移っているなら、なんらかの『能力』に目覚めて冒険者になっている可能性もあると……。
そして今――。
「ふふはふはは、あの子の中には、文字使いの誉美が居るぞ!」
「俺と同じで、誉美自身に違いないっ!」
「やっと夢が……実現できるっ! ぶははぁははっはあっ~」
「しかし……例の件はどうなっているんだ? ダブリスっ」
「もうしばらくお時間を……」
その様子を屋根裏から覗いているスレイナと、暗殺部隊のテレイザがいた。
「(ふんっノキアのやつ何を一人で笑っやがる……気色悪い」)
「(スレイナ、ドグルスはノキア王の任務でバルスト=リバイバの暗殺後、サーミャ=キャスティルが発見されたと情報が入りナガアキ様の任務を再開していたのですが、1か月以上連絡がなく……)」
「(そうかい)」
「(これ以上、長居は無用だな。存在に気づかれてしまう……また頼むテレイザ)」
「(はい、ナガアキ様によろしくお伝えください)」
「(しかし、ドグルスとテレイザが裏切っているなんて想いもしねぇだろ……気楽な奴だ)」
さまざまな思惑が渦巻いていることなど知らずに、ルティーナ達はみんなの健闘を称え合い、朝まで宴会が続いていたのであった。
(第肆章 「武闘会」編 完)
次回から、第伍章 「砂漠ノ王国」編 に入ります。
『武闘会』で賞金を総なめにしたルティーナ達『零の運命』は、金貨1000枚を手についに夢の拠を建てることになります。
しかし、完成まで約1か月かかるため、それまで、4人は旅行に出かけることになった。
その旅行先で4人は不思議な体験をすることに。




