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86話 前日譚 ~前編~

 俺の名前は『太平(たいへい) 朝時(あさとき)』。高校で現代社会・政治経済の教師をしていた。

俺には、4年前からずっと密かな想いを寄せていた国語の女性教師がいたが、突然2年前に転任してきた古典教師に射止められ婚約をしてしまった。

そして結婚式に招待されるという、人生で最大の屈辱の場面に立たされていた。



「「「おいおい、誓いのキスの時間だぜ」」」

里美(さとみ)の奴を焦らせてやろうぜ」


「(くそっ見たくもねぇ~。何で、俺は来ちまったんだこんな所……いっそ、トラックでも突っ込んで来ねぇか)」


「おいっ! どうした太平(たいへい)? 始める前にフラッシュを炊くんだ、お前も準備しろよ」


「あぁ」



そして観たくもない、2人の誓いのキスが始まろうとしていたが――その瞬間、意識が遠のいくのを感じた。





 ――ここは8年前のノモナーガ王国の王宮の大広間。

 王城の薄暗い部屋の中、数人の者たちによって秘密裏に『勇者召喚の儀』が行われていた。

国王らしき人物が、勇者召喚をもちかけた占い師の老婆に語り掛ける。


「おぉ、あれがヘルアドの言う『流れ星』か?」

「ヘルアドよ、本当にデンゴラド――竜の魔物――を倒せる勇者を呼び出せるのか?」


「はいノキア王様、76年ぶりのほうき星が通過する今宵しかないのです」

「私の息子の召喚師の力があれば、2人か3人をこの場に……」


「まさか、十年以内に過去の勇者が封印したとされる黒竜(ブラック・デンゴラド)が再び解き放れるとは……不気味な予言だ」


召喚師が詠唱する最中に、水晶には女性と男性の姿が次々と映し出されていた。

と思ったのも束の間、その瞬間――大広間の各所で大爆発が起こった。


「なっ」


「ノキア王っ危ないっ」




その頃、城の外では城内から爆発音と煙が昇っていたことに敵襲かと大騒ぎしていた。


「おいっバルストっ、今の凄い爆発音……あの王様の部屋の方からだぞ!」


「っ――空に大量の流星?」


「バルストっ何をぼ~っとしてるっ! 急いで皆を集めて大広間に行くぞっ」


「ああ、すまないっ」




 近衛師団の数人が、あわてて大広間に駆け付けた時には、爆破により崩れた壁や天井、そして、その下敷きになったり、爆破に巻き込まれた死体が散乱していた。


「おぇっ! な……なんだこの光景はっ」


「あ、あれはノキア王っ! ノキア王っご無事ですかっ!」


ノキア王は、占い師の老婆が覆いかぶさっていたことで爆破からは身を守られていたが、胸から大量の血を流していた。

しかしこの惨状の中では、王だけが唯一の生存者であった。

そして、回復師による治療がその場で行われ、一命をとりとめるのであった。


「バルストと他の者は、不審者の捜索と付近に危険物が無いかを確認してくれっ」


「ああぁ、わかったベルハットっ。ノキア王の事はまかせたぞっ」




 そんな出来事は後から知ることになるが、俺は目を覚ました。

見覚えの無い天井と、見た事もないまるでヨーロッパの王室かのような光景……俺は……結婚式の最中に気を失った……だけでは?




「おおぉっノキア王っ! ノキア王が目を覚まされたぞっ!」

「「「「おおっ! ノキア王っご無事でっ」」」」


「(はぁ? ノキア王? 誰だそれ? 痛っ――胸が……)」


「本当に良かった」


「さ……サデッサではないか? デーハイグはどうした? (なんでこの男の名前が簡単に出てきた?)」

「余の身に一体何が起こったのだ? (余? つい、王様みたいな台詞を吐いてしまった……一体どうなってる?)」


その瞬間、ノキア王の全ての記憶が、朝時(あさとき)に流れ込んできたのだ。


「(な、なんだこれは、こいつ? この国の王だと? なんで俺が?)」


「ノキア王、大広間で何が起こったのですか? 何か覚えていらっしゃいませんか?」


朝時(あさとき)は、一瞬で状況を察し嘘をついた。


「すまぬ何があったか? 全く記憶がないのだ」


サデッサからは、王宮に賊が潜入し王を暗殺しようとしたのではないかと総員をもって原因を調査していると報告を受けるのであった。

しかし、朝時(あさとき)は自分の暗殺ではなく、秘密裡に行っていた『勇者召喚』を妨害されたということを理解していた。


「このような時にデーハイグ様が不在で、代行の私めには段取りがおぼつかなく申し訳ございません」


「かまわぬ、ところでサデッサ……1つ確認がある。余の胸に違和感がある――」


「その胸の件についてなのですが、大変申しづらい事がございますが……」


ノキア王が爆破現場から発見された時、心臓付近に水晶の破片らしきものが刺さっていたのだ。

しかし、時間が経過しすぎていた為、それを取り除く行為は生命の危険が伴い、かつ、再生魔法の限界時間を優先しそのまま実施したのだと説明をされるのであった。


「――そのため、体内に異物が残ってしまいたが、胸に相当な衝撃とかをあたえない限りは大丈夫かと存じます」

「とはいえ、ご無理はなさらないようお願いいたします」


「そ、そうなのか。そういう状況であれば選択枝は限られておるな。命を救ってくれた判断に感謝する」


「もったいないお言葉……」


朝時(あさとき)は、疲れたと伝え皆を部屋から追い出すのであった。




 ――俺は、ノキア王が大広間で何をしようとしていたか記憶から内容を理解した。


 

 事件の数日前、王国のお抱えの占い師ヘルアドという老婆が厄災が再び起こると予言し、自分の息子の召喚師と一緒に訪問してきたのだ。

彼女が言うには――。


今から約80年ほど前に、勇者を召喚して厄災と言われた黒竜(ブラック・デンゴラド)の封印したが、今後10年以内に理由はわからないが封印が解てしまうという。

そして、新たな『勇者召喚の儀』が行えるのは、1週間後に『ほうき星』が見える夜しか機会がないという。


そしてノキア王は、ヘルアドのいう通りに『勇者召喚の儀』を執り行うことにしたが、彼女からは注意を受けるのであった。

当時の勇者召喚の時、10歳であったヘルアドは母の占いで、3年以内に黒竜(ブラック・デンゴラド)が現れ国を亡ぼすと予言し当時の王に打診していた。

そして勇者を召喚すること黒竜(ブラック・デンゴラド)の脅威の事を隣国に伝えたという。

当時は黒竜(ブラック・デンゴラド)撃退という大義があったため、勇者の存在は問題にはならなかったが、いざ戦いに勝利した後、勇者の扱いに武力の均衡が崩れると近隣国から危険視され戦争になりかけていた。

心配をよそに黒竜(ブラック・デンゴラド)と勇者は相打ちとなったと語る。


ノキア王は、今回、黒竜(ブラック・デンゴラド)との戦いまで10年近く勇者を保有することを近隣諸国に知れると、討伐以前に戦争が起こってしまう可能性が高いと判断し、極秘裏に数人の家臣と召喚師とヘルアドとノキア王だけで、召喚の儀を行うことを決意するのであった。


――そして爆破事件に巻き込まれてしまったのだ。

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