81話 準決勝
2回戦第4試合での事件により、準決勝以降の試合組み合わせに大改編が起き観客は混乱していた。
そんな中、ブライアンはアンハルト達からサーミャについての話しを聞き、自分が誤解していたことを理解した。
そして、兄が愛したサーミャと、彼女を冒険者の道に連れ戻し仇討ちを手助けしてくれたルティーナの戦いを見守ることにするのであった。
サーミャvsルティーナ
ルティーナとサーミャは、試合開始の合図がかかったにも関わらず会話を始めた。
「ミヤ、意外とあなたと一緒に居るのに戦ったことなかったね」
「そうだな。やっと私たちの時間だ、戦いで語ろうぜぇルナっ」
「あははは、あいかわらわずの戦闘狂ね」
(ルナっ、この試合も任せて大丈夫か? 相手はミヤだぞ)
(もちろん、私にさせてっ!)
馬琴はルティーナに2つアドバイスした。
お互い手の内がバレているからサーミャの行動や攻撃はある程度読めるが、明確な弱点はわかっていない。加えて、以前ルティーナは『能力』の弱点をサーミャに話してしまった内容を忘れないように注意した。
それと、次のエリアル戦をふまえて出来る限り手の内は見せないように伝えた。
「悪りぃな、今日優勝させてもらうぜ」
「(そういえば……あいつ、高みの見物してやがる! くそっ)」
「さぁ、いくよっ! ルナ恨みっこ無しだからね」
「『フレイム・ランス ――炎の槍――』っ」
(って、いきなり仕掛けるのか! しかも見た事ない技を)
炎ら槍のようになり、勢いよくルティーナにめがけて飛んでいくが、ルティーナは落ち着いて手の平から水を放射し技を相殺するのであった。
「「「「おいおぃ、あのお嬢ちゃん手から水が噴き出したぞっ! あれは水魔法か?」」」」
「「「「それなら、魔法使いで登録されるだろっ」」」」
相殺を見越していたサーミャは複数の『ライトニング・アロー』を展開しており、すぐさまルティーナに打ち込んだ。
彼女は、ルティーナが『能力』を展開するには強い技ほど時間がかかる、つまり、自分と同じ詠唱時間と技の強さに比例することを理解していたため、猶予を与えないようにしていた。
「さすがに、あたいの詠唱のほうが早いし、効果範囲も近接戦ならこっちが有利だよ」
(ちゃんとカンジの欠点を理解して、対応かんがえてるね。でもっ、こっちも同じよ)
ルティーナは『ライトニング・アロー』を交わさず、数本のクナイをサーミャに向けて投げつけた。
クナイは雷を吸収しながらサーミャを襲う。
「ねぇ、シェシカお姉ちゃん、ミヤお姉ちゃん凄く楽しそうだね……お友達なのにルナお姉ちゃん……なんで?」
「それはね、ルナリカのことを最強の友達って認めてて、対人戦で思いっきり戦えるからうれしいんだよ」
「そうんなんだ」
「ルナお姉ちゃんもそうなの?」
「きっとね」
「さっきのブライアンよりえげつない反撃すんじゃないか?」
ルティーナは、お互いの弱点とか欠点とか手探りなんてするのも堅苦しいと、自由にやるようにサーミャにけしかける。
サーミャも同意見で、好きなようにやる彼女にさらに好意が沸くのであった。
そして、ルティーナは手裏剣を4枚取り出し、サーミャに向かって1枚づつ投げつけた。
「(って、いい事言いながら、いきなり……いつもの作戦じゃねぇかよ?)」
サーミャはルティーナには時間を与えたくなかったため、すかさず氷魔法を放ち手裏剣を凍らせ叩き落とす。
それに対してルティーナは、再度、地面に手をついて【棘】で広範囲攻撃を仕掛けたが、それを見透かしていたサーミャが追い打ちで『アース・クエイク』で地面の棘を破壊しながら『フレイム・ランス』を放とうとしていた。
その瞬間、ルティーナは左手を突き出し【輝】を使い、サーミャの目標を外させた。
「複数詠唱も想定済ってか? おもしれっ」
しかし、ルティーナは目くらましをしている隙に地面に大きく【霧】を展開していた。
「今度は罠師の真似か? そんなの風魔法で……『ストーム・サイクロン』っ」
サーミャの放った魔法で一直線に霧をなぎはらうも、再び霧に埋め尽くされる。
「(ちっ、ルナの能力は自分で止めない限り、その場所から無限に発生するんだったな――)」
サーミャはルティーナが居た場所に向かって、『アース・クエイク』を放ち闘技場のその部分をゆがめたが、霧は止まる気配もなく、ついには場外に漏れ初めていた。
「え、これでも消えねぇのかよ」
(残念っ、起動する前ならカンジを破壊できたから、その攻撃は有効だったんだけどね、その事を喋ってなくてよかった~)
(あと10秒したら止めてね、マコト)
(了解っ)
霧はどんどん密度を増し、サーミャの腰ぐらいの高さまでかかっていた。しかしルティーナはしゃがんで身を隠していた。
サーミャは『アース・クエイク』を放って反応がなかったってことは、すでに移動してると判断し対応しようとしたが、先に不用意に投げられていた手裏剣の存在に疑問が沸いた。
「(さっきの手裏剣は絶対仕込みをしているはずだ……どこに投げてた?)」
「(……かといって、まさか、隠れながら闘技場のあちこちに落書きしてねぇよな? うかつに動けねぇ……してやられたっ)」
(そろそろ、ミヤはいろんな情報に混乱してるかな?)
(あ、それで何も書いてない手裏剣を投げたのか)
(こうしておけば周囲に移動もできないでしょ?)
(ルナ、おまえ罠師の素質もあるんじゃないか?)
サーミャは、これ以上ルティーナに何もさせないために、火魔法を手当たり次第にぶち込み始める。
ルティーナに当たれば当たるでそれでよし、あたらなくてもある程度爆風で一瞬でも霧を晴らし、彼女の姿を確認ないし漢字の位置を確認したり、手裏剣を弾き飛ばせると判断したのだ。
「どこだっ? 姿を消しても無差別爆撃なら――」
だがサーミャの予想外にも、ルティーナは既に場外に降りており、サーミャの後ろ側に回り込んでいた。場外にあふれた霧で見えないのをいい事に、場外の10カウントをとらせていなかった。
そして場外から闘技場に手をついて、サーミャに向けて【凍】を展開してサーミャに届いた瞬間に『起動』し足元を凍り付かせた。
「し、しまったっ!」
サーミャは自分の周りに『フレイム・インボルブ』を放ち炎で溶かそうとしたがすぐに溶けるものではなかった。
そして霧は晴れ始め、自分の背後にしゃがみこんだルティーナがいることに気づいた。
「――簡単に自分の周りだけ都合よく溶かす魔法ってないのよね」
「な、ルナっ?」
「ミヤ、これで決まりよっ」
サーミャは足元が奪われていたため腰をひねり振り向き様『フレイム・ボム』を放つがまともに狙えずに交わされた。
そしてルティーナは【雷】を描き込んだクナイをサーミャの足元の氷に投げつけた。
「炎で氷を溶かそうとしたのは失敗だったわね」
クナイからは雷が発生し、サーミャは足元の氷を溶かそうとして滴った水に感電し、気を失うのであった。




