76話 二回戦 ~其ノ弐~
ついに2回戦第1試合開幕、ルティーナは初陣となる。
罠師のドルントの突然爆発する攻撃のカラクリを見破り、馬琴の『能力』を有効に使った彼女が完勝するのであった。
そして準決勝の相手になる、因縁のブライアンとサーミャの戦いが始まろうとしていた。
ブライアンvsサーミャ
ルティーナの完勝という予想外の展開に観客席は、大きく盛り上がるのであった。
観客はルティーナが武器を投げつけて、それをかわそうとしたドルントが自爆しただけという評価があった。
「ど~だ! 見たかぁっ! ルナお姉ちゃんは勝ったのよぉ~! 準決勝はもっと凄いんだからぁ~っ」
「そうじゃ、そうじゃっ! 鑑定士のわしが太鼓判を押しとるんじゃ! ルナリカを舐めるでないわっ」
「「「「(え~、あんたが……『職業無し』って鑑定したんじゃんっ)」」」」
観客内では、ルティーナが使っていた手裏剣やクナイを見た事がないと盛り上がり始めた時に、そこへ武器屋のタリスが席から立ち上がった。
「ありゃぁ、手裏剣とクナイってんだ」
いきなり周囲の観客に商品説明をしながら売り込みと宣伝をちゃっかり行っていた。
その様子をみたオリハーデは仲間と見込み、一緒にルティーナを応援しようと誘うのであった。
(なんか、変な集まりが増えてる~)
「では、勝者のルナリカさんっ、一言お願いしますっ!」
「ん、ん~っ! こらぁ~サーミャ=キャスティルっ! 東門で1人ウジウジしてんじゃないわよっ」
「過去の因縁をとっとと清算してきなさいっ! 先に待ってるわよっ!」
「(ふんっ、ルナ言ってくれるじゃないっ、そうだな悩んでも仕方ないよな……ありがとう)」
一方、試合を観戦していたノキア王は少しイライラしていた。
ドルントが煙幕を使う攻撃を仕掛けたため、実際ルティーナがどのような『能力』で勝利したのかを見極めることができなかったからだ。
さすがに準決勝こそ使わざる得ないであろうと、残念そうに彼女を見つめるのであった。
(ルナ、あれが王様なんだな)
(そうみたいだね。でも、なんかこっちをすごく見入ってるんだけど……とりあえず笑顔をふりまいとこうかな?)
(それよりルナ……ちゃんと経験した事を糧にしてたな、よくやったよ)
(先生がいいのよ、きっと)
(あはは、さてミヤは大丈夫かな?)
そして、ついに第2試合が始まり、ブライアンとサーミャが闘技場に登った途端、お互いは睨みあいを始めるのであった。
「よぉブライアンっ、やっとあんたと戦えるなっ」
「やっと仇が討てるぜ……まさか、てめぇと戦えるなんてな……兄貴が導いてくれたに違いないっ」
「兄を殺したてめぇだけは絶対に許さねぇからなっ」
「やっぱりね……それしか理由がないと思ってたわ……誰に吹き込まれ――」
「シラを切ってんじゃねぇぞっ」
「いきなり2人で物騒なやり取りがされてますがっ、試合……開始っ」
「あんたの誤解を解くまで、やられるわけにはいかなくなっちゃったわねっ」
サーミャはすぐさま、『ライトニング・スプレッド』をブライアンに対して放つのであった。
「速攻で仕掛けてくるのかよっ! 剣士はこういうのが一番やっかいなんだよな――」
あざ笑うかのようにブライアンは自分の剣を一旦、鞘におさめ、盾の裏に装備している小剣を取り出し雷に向かって放り投げ、避雷針の代わりにするのであった。
雷の勢いが消えた瞬間、ブライアンはサーミャの懐めがけ再び剣を振るい突進した。
サーミャもすぐさま『アース・ウォール』で闘技場に大きな岩壁をつくりだし、ブライアンの突撃を阻止したのであった。
「あんたさ! 人の話聞けっつうの! だから誰から聞いたんだよっ!」
それでもブライアンはサーミャを無視し、高速な移動と剣捌きで追い詰めるがサーミャは風魔法や土魔法で防御しながら距離を保っていた。
しかし、サーミャの方が詰められる分、攻撃がしかけられず苦戦していた。
「見れば見るほど、ヴァイスを思い出しちゃうぐらいな剣捌きじゃねぇか」
「うるさぃっ、その剣捌きに殺されるなら本望だろっ」
「あんたさ、私とヴァイスが付き合ってたの知らないわよね?」
それを聞いたブライアンは激怒し、兄はサーミャのようなズボラな女は趣味じゃないと一蹴する。
「(ず、ズボラねぇ…………あんたらやっぱり兄弟だわ)」
ブライアンは少しづつ、サーミャを恨む理由を語り始めた。
名前は知らない兄の知人という人物から、サーミャに兄の首を魔法で爆散され殺されたと聞かされたと……。
そして仇討ちの為に、子供のころから兄貴と学んだ剣術に更に磨きをかけ、サーミャの行方をずっと探し続けていた。
「首を……(そんな事を知ってるのは……ドグルスっ)」
「(あたいが行方不明になった後、弟に嘘を吹き込んだあげく、私の刺客として復讐鬼に仕立てあげてやがったのか?)」
「(そうか……因縁はまだ終わってなかったのね)」
「2年間も行方をくらませてたくせに、何食わぬ顔で冒険者として戻ってきやがって! だが、探す手間が省けたぜ」
しかしサーミャはブライアンに腰抜けだと煽り返した。
それは復讐というなら『武闘会』でなく、いつでも闇討ちできるはずと。
彼女の予想通り、ブライアンには覚悟がなかった。『武闘会』であれば殺しても罪にはならないと甘えていたのを見抜かれていたのであった。
「黙れっ黙れっ!」
しかし防戦一方のサーミャであったが、怒りに身をまかせていたブライアンの攻撃の隙をつき、剣を持つ手首を狙いほぼゼロ距離で『ライトニング・ニードル』を放った。
しかし、ブライアンは激痛に耐えて剣を手放さなかったが、しばらく剣が振れなくなる。
すかさずサーミャは距離を取りなおし、小さな『ロック・バスター』を複数展開し威嚇をしつつ氷魔法を詠唱していた。
「そんな何者だてめぇ! 一度に別系統魔法を同時に!」
「『フリーズ・ブリッド ――氷の弾丸――』っ!」
飛んでいく岩がつららの様になり、ただの『ロック・バスター」なら思わずブライアンは盾で防ごうとしていたが、盾を持っている腕ごと包み込み凍りつかせたのであった。
「しまっ!」
その時すでにサーミャは『ライトニング・アロー』を複数展開し、いつでも射出できる態勢でブライアンの前に仁王立ちしていたのであった。
「くそっ! 負けだっ」
「ブライアン降参により、第2試合勝者サーミャ=キャステルっ!」
「「「「「「おおおぉ~っ!」」」」」」
「殺せよっ、兄貴のように……」
「あたいは、あんたには恨みはないし、人の話を聞けっつうの」
「何で最愛の人を殺さなきゃなんねんだよ……お前は本当は弟になってたかもしれないんだしっ」
サーミャは今の攻撃で容赦なく殺して口を封じることができたのに、何故しなかったのかを自問自答をしろとブライアンに怒鳴りつけた。
そしてヴァイスの情報を吹き込んだ男こそが犯人だと伝え、それを聞いたブライアンは複雑な心境に追い込まれていた。
「……わかったよ、話を聞いてやるよっ」
「よぉ~し素直な子は、お姉さん好きだぞ」