72話 一回戦 ~其ノ参~
『武闘会』の1回戦の第3試合と第4試合が行われ、結果2回戦第2試合目の組み合わせはブライアン対サーミャとなった。
ブライアンはサーミャに何かしら因縁がある様子であり、サーミャも自分と死別したヴァイスと同じ苗字である彼の反抗的な態度に不満を持っていた。
そして、第5試合が始まろうとしていた。
ロザリナとヘレン
簡単に勝利を収めたサーミャであったが、偶数試合の勝者であったため、不満そうに東門に移動させられるのであった。
ただ、ブライアンの態度はヴァイスが死んだことと何か関係があるのではないかと悩んでいた。
「ミヤはあっちに行っちゃいましたね」
「そうだね、ブライアンの件はミヤに直接、戦いの中で語りあってもらうのが一番だろうな」
「そうですね。見守りましょう」
そして第5試合、ロザリナの西5番がコールされる。
「って、今度はリーナじゃんっ! がんばれっ!」
「では、行ってまいりますっ!」
「私、ロザリナ=ノザラっ、銀の回復師見習いですっ!」
「「「「おいおいぃ、今年はどうなってるんだぁ? 職業無しでもビックリなのに、今度は回復師って……」」」」
観客の罵声にイライラを募らせたロザリナは、格闘の演舞を華麗に披露し始めたのであった。
観客からはただの回復師じゃないと歓喜の声に変わり始め、彼女はしたり顔で機嫌が良くなっていた。
「すごいものを披露してもらいって気合を感じますっ、では東3番っ! 闘技場へっ!」
「私は、調香師エベンス=ブレッサルです。銅の冒険者ですっ」
「「「「こっちは、調香師って! こっちも戦闘系じゃね~ぞっ!」」」」
「では中央へっ! 試合を開始しますっ!」
ロザリナは速攻で格闘術を駆使し息もつかせない連続攻撃でエベンスに襲い掛かるが、予想外の身のこなしをされ間合いが取れずにいた。
しかし、エベンスには別の目的があり、ひたすら逃げに徹していた。
「おらおらおらっ! どうしたの? あなたも罠師と同じように逃げ回るだけですか?」
ロザリナは攻撃の速度を上げ、エベンスを追い詰めるが怪しい動きに一瞬、危険を感じ身を引くのであった。
「(なんだろ? 殺気が……?)」
「感がいいんですね。もう手遅れですよ」
「!」
エベンスは両手を広げた瞬間、ロザリナは急にひざまづくのであった。
「あれ、なんで体が……痺れて……まさかっ」
「そうよ、私は風上になる場所を探してたのよっ」
彼女は風上から白い粉を撒き、ロザリナはそれを浴びてしまう。
その内に、なんらかの薬であると気付くが、『痺れ』『頭痛』『睡魔』などさまざまな不調が一気にロザリナを襲うのであった。
「さぁ、そのまま棄権しな――!」
エベンスの余裕を払拭するかのように、急にロザリナの体が輝き始めた。
「えっ何っ!」
「ふ~う、危なかった」
「へっ」
ロザリナは状態異常が自己治癒能力で解消され、油断したエベンスの懐に飛び込むのであった。
「わ・た・し、回復師って言いませんでしたっけぇ?」
「そ、そんなの知ってるわよっ! たとえ状態異常が判断できたとしても、それぞれの魔法の詠唱なんてしてないじゃないっ」
「あ~、自動で発動するんでおかまいなく」
「では、このまま拳をぶち込みますがどうされますか?」
「くっ……参りました……」
「エベンス降参によりっ、第5試合勝者ロザリナ=ノザラっ!」
「「「「「「「「おおおお~っ」」」」」」」」
「では、勝者のロザリナさんっ、一言お願いしますっ」
「回復師なめんなよっ!」
(性格が変わっとる)
ロザリナは大逆転で2回戦に駒をすすめ、対戦相手となる、第6試合が始まろうとしていた。
「西門3番っ! 闘技場へっ!」
「あっリーナぁ~お疲れぇ~っ!」
「ひざまづいた時は、一瞬ひやっとしたよ」
「あはは、勝手に状態異常解除が発動しなかったら危なかったわ」
(さすが全自動)
ルティーナはそれ以上に、第6試合がシャルレシカでなかったことで、誰も2回戦では当たらないことが確定したことに歓喜した。
そう、金貨1000枚の現実味が出てきたからである。
そんな喜びもつかの間、第6試合の東門の選手が発表される。
「それよりぃ~東門はぁヘレンさん、みたいですよぉ~」
「ってことは、2回戦は私と戦うのはヘレンかぁ……私と真逆の闇魔法かぁ~見るの初めてだもんなぁ楽しみ」
(そういえば、ヘレンの相手は、あの人形? を使うやつか? 傀儡?)
「では中央へっ! 試合を開始しますっ!」
傀儡師は2体の自分より一回り小さい人形を両脇に立たせ身構える。
そこへヘレンは先制攻撃で、闇魔法で周りに飛んでいる鳥を呼び集め襲わせる。
「動物操作か……そうか、おまえも闇魔法が使えるのかっ」
「人形は生き物じゃないわっ! (闇魔法では無機物は操れないわ! そうよハッタリよね)」
続けてヘレンは城内敷のネズミを集め、鳥で上に目線を集中させ傀儡師の足元を襲撃させた。
「ヘレンって、相変わらずネズミを操るの好きだなぁ……」
(というか、この城……ねずみ、居すぎじゃね?)
「えっ、あれが闇魔法なの? 想像してたより……ね」
足元にネズミにあしを取られ自由を失う傀儡師に対して、ヘレンは『ロック・バスター』を打ち込む。
しかし、1体の人形に身代わりをさせ破壊されることで難を逃れた。
ヘレンは続けて魔法を放とうとした瞬間、彼女の身に異変が起こった。
「さ、寒い……ひ、貧血? それに……体のそこら中に腫れ?」
「自由は奪わせてもらうぞ」
「ど、どういう……黒魔法では、条件を満たさないと人間は操れないはず――」
体の自由を奪われたヘレンはその場に倒れこんだ。
そして、残った1体の人形の腕から刃物が吐出し、無抵抗なヘレンを切り刻み始めた。
「きゃぁぁ~~っ」
その様子を居ても立っても居られないロザリナは、ルティーナの制止も聞かずに闘技場に飛び出してしまう。
「リーナっ落ち着いて、今飛び出したらヘレンが反則負けに――」
「こんな状況、どっちにしても、同じよっ!」
「し、試合終了っ! ヘレンを戦闘不能とみなしっ、第6試合勝者ワイズ=ブレッサルっ!」
「「「「「「「「おおおお~っ」」」」」」」」
「救護班の急いでっ彼女を!」
「ヘレン~~~っ!」
ロザリナはすでに闘技場に飛び出していたため救護班より先にヘレンを治療し始めたのであった。
そして、リーナは怒りのままに『シャイン・レストレーション』でヘレンを包み込み治癒し始めた。
「(うぅ~ん、暖かい……ロザリナ……やっぱりこの感覚、覚えが……)」
「ワイズっ! あんたは私が絶対許さないっ! 2回戦、覚悟なさいっ!」
「ふんっ! 格闘をかじった回復師なんぞ、私の敵でないわっ! 楽しみにしておくよ」
「え~っとぉ、(なにか2回戦は因縁の戦いだらけになってきたなっ)第7試合の抽選を始めますっ!」