57話 罠ノ逆手
ルティーナは、エルヴァルクの館で出会った、痣のある男――ゲレンガ――がどのような手段を使って魔物と盗賊を操っているかまではわからなかったが、今回の事件の権化である事がわかった。
そしてエレヴァルクが、それにより通商攻撃による護衛費増額を目論み、無理に会計に積むことで国から給付金を得て私腹を肥やしている事実にたどり着くのであった。
しかし、ゲレンガは密かに行動に動いていた。
ルティーナ達は大体の状況を把握ができ、後はロザリナの父親を陥れた、エルヴァルクの尻尾をつかみ制裁を与えるだけとなった。
「ルナぁ~少し眠いぃむにゅむにゅ~」
「しかたねぇ、今日はこの辺で解散しよ~ぜ」
「そうだね、後、今夜は何か起こってもあわてないでね。その時はミヤよろしくね」
「右手を貸して――――これが合図ね」
ルティーナは部屋に戻り、明日に備えて就寝したのであった。
そして、皆が寝静まった深夜――何者かがルティーナの部屋に潜入し、彼女に睡眠薬を嗅がせ連れ去っていったのだ。
だが、連れ去られるルティーナ自身は眠らされてしまったが、馬琴に自分の体でないので意識は失っていなかった。そして彼女の耳から聞こえる情報で様子をうかがうことにしたのであった。
「マジかよ、シャルが朝見たって言う夢の通りじゃねぇかよ。疑われてたってことが、その夢の出来事に繋がってたのか?」
「しかし、ルナも無茶しますね。撃退もできたのに(私の為にそこまで))」
「体を張って逆手にとったってことだろ? 無茶苦茶やりやがる」
「やっぱり館ですねぇ~ルナのぉ反応がぁそこで止まりましたぁ~」
「おぉっ? あたいの右手が消えた……そのようだな、ルナが現地に到着したって合図きたぜっ」
「さてさて、お姫様を助けに行きますかぁ」
さらわれたルティーナは目隠しをされ両手は後ろにされ体を鎖でくくられて袋詰めされ運ばれていた。
さらには寝巻きのまま連れ去られてしまったため、武器は一切持っていなかったのであった。
馬琴は眠らされているルティーナを起こす為に、あらかじめ首元に小さく描いておいた【痛】を『起動』した。
(おぃルナ、起きろ~~っ!)
(い、痛っ? 頭が重い……それより、早く痛いの止めてよ声が出ちゃうよ)
そして、誘拐犯はルティーナを袋から出し壁側に放り投げた。
(こいつら! 後で覚えてなさい)
「?」
「兄貴ぃ~こんなガキをさらってどうするんですぅ?」
「まさか、そんな趣味あったんす――――ぐへはっ」
「てめぇ、人間やめたくねぇなら黙ってろっ」
(人間やめる? どういう意味だ?)
「しかしお嬢ちゃん、ピクリとしたなぁ~? 睡眠薬の効き目が切れるわけねぇんだが……体質かな?」
「……」
「なぁ~起きてんだろ?」
「鋭いですね……ここはどこですか?」
「意外と冷静じゃねぇか? まるで誘拐される事を予定でもしてたのかなぁ~」
(こいつ、えげつないぞ)
「まぁいいわぁ~、お前、実演中に俺の腕をじろじろ見てたよなぁ?」
(あぁ~ルナさん、思いっきりバレてるじゃない?)
(あれれ~)
ゲレンガはルティーナの寝巻きの首元を持ち締め上げながら煽り始めた。
「さっさと言えよっ、それだけじゃねぇよな? 屋敷に何かしてたよな?」
「ぐ、ぐるし――」
「死にたくないなら吐きな! てめぇが死んだって、帰りの道中で魔物か盗賊に襲われたってことにすりゃぁ、ど~とでもなるんだよっ」
(ぐ、ぐるしぃ……マコ……ト、これって……やばいじゃんっ)
(もうちょっとだけ我慢してくれ)
(今、目隠しで見えないけど、この状況って目の前に奴がいるって状況だな……思いっきり足で正面を蹴ってくれ!)
ルティーナは暴れているふりをしながら、不自由な手の平に【弾】を描き足首に手のひらにあたるようにし転写した。
そして、そのままゲレンガの腹部に蹴りを入れた。その一撃で思わずルティーナから手を放しつつ後方に大きく吹き飛ばされたのであった。
その隙に、なんとか体を巻いている鎖を掴み【溶】を描き鎖から脱出するのであった。
「ぶはぁっ、このガキがぁぁぁ~っ!」
「はぁ~鎖をちぎった……だと? 馬鹿力かよっ!」
「さぁ~て、今度は私が質問する番よ」
「武器すらねぇ~ただの馬鹿力のガキなんて、怖くもなんともねぇ~んだよっ」
「野郎共っ、こっちは5人だからと言って油断すんじゃねぇ~ぞっ。あのガキにうかつに近寄るな」
ゲレンガは一瞬でルティーナに近寄るのは危険と判断したが、彼女は起きてはいるが睡眠薬の効果が残っている為に構えをとるが足元がおぼつかない。
「そりゃそうだよなぁ、薬が切れてるわけないよなぁ~」
(ルナっ、無理すんなっ! とにかく不自然にしゃがんで手をつけっ)
ルティーナは崩れるように、床に倒れたのであった。
「「「「ひゃっはは~はっ! ざま~ねぇなぁ」」」」
その時、床の上にゲレンガ達の方に向かって【凍】を描くルティーナであったが、彼は床に広がる漢字が自分に迫っている事に気づいた。
「な、なんだぁ! それはっ、こっちに模様が迫ってきやがるっ」
「おめ~らっ! その場から離れ――」
馬琴はその様子を見て、展開途中であったが『起動』し、氷を展開した。
ゲレンガだけ後方に飛び避け、残りの4人の足元は効果範囲が届いたため氷漬けにして動きを封じるのであった。
「おいおい、危ねぇなぁ~」
「なんだこりゃ? お前、魔法……いや魔力は全く感じない! 何者だ」
(床に広がる漢字を初見でかわすかぁ~、どんだけ用心深んだよっコイツ)
「ガキだと思って甘くみてたわぁ~」
「やっぱお前、何か目的があってエレヴァルクに近づいてきやがったんだなぁ~」
「これで1対1! それに私が質問をするって言ったでしょ?」
「ところでおまえらぁ~……やっぱ使えねぇんだなぁ~(俺が屋敷の指揮に回されたのも分かる気がするぜ)」
「おまえらは、これが片付いたら街道に放おり出してやるっ」
(さっきから、こいつ何を言ってるんだ?)




