55話 俄《ニワカ》ナ遭遇
ルティーナ達は無事に館に潜入し、彼女はエルヴァルクにうまく取り入ることができた。
姿を消したサーミャ達も一緒に侵入しており、ルティーナがエルヴァルクと護衛団を外に連れ出し実技演習をするのを待っていた。
そして――。
ルティーナ達は、食後に館中央にある広場に移動し、しばらくするとぞろぞろと護衛をしている男たちが集まってきた。
そのころ、サーミャ達は――。
「(おっ、なんかみんな外に行き始めたな)」
「(シャル、危なそうな人の気配がなくなったら教えてくれっ)」
「(はぁ~い)」
「(でもミヤ、護衛が一番居たってシャルが言ってた1階の奥の部屋……領主の部屋かしら?)」
「(可能性は高いな、時間も限られてるから、まずはそこから調べよう)」
「(おっ、ルナ達は始めるみたいだぞ)」
「んっん、初めまして、私が手裏剣の開発者のルナリカ=リターナと申します――」
「「「「(えぇガキじゃねぇか……)」」」」
(なんか、こいつらもシバイてあげようね。マコト)
「なんだなんだぁ~お前ら。ルナリカ殿はこう見えても19歳のお嬢さんなんだぞ! 失礼が無いようにな」
(あんたが一番失礼だよっ! 子供のおもちゃとか言いやがってぇ~)
ルティーナは実際に手裏剣とクナイを使った実演を始める。
手裏剣はだいぶ使い方はある程度は理解されていたが命中率からするとクナイの方がよい事など、場面場面による使い方の違いを細かく説明し注目を集めるのであった。
「クナイには、なぜ手持ちに穴があるのですか? ルナリカ殿」
「それは、紐を通して結ぶことで、例えば、このように低空で投げることで、足掛けの罠を張ったりすることも出来ます」
(へぇ~)
(って、お前が関心するなっ)
「さぁ皆さんも、いろいろ試してみてください」
(時間が稼げても、あと30分ぐらいかなぁ~)
(ちゃんとミヤ達やってんのかなぁ~)
クナイの実演に参加者が夢中になり、盛り上がっていたその時――。
(ねぇマコト、あそこの男――)
(どうしたルナ?)
その目線の先にいた男の腕の袖からかすかに見え隠れしていたが、例の痣が見えたのであった。
(間違いないよね? あんまり見てると警戒されるから、目線をはずしたけど……)
(でも、よく気づいたなルナ、洞察力が養われてきたのかな?)
(えへへ~もっと褒めてぇ~。たまには役に立つわよぉ~どっちかが気づけばいいんだから。視線を2人で共有できるってのはいいよね)
(そうだな、だが、あの男がこの館の護衛をしてる? リーナのお父さんはここで務めてたんだろ? それみ盗賊の中に居たんじゃ? なにか裏があるって事だなぁ)
(接触してみる?)
(うかつには……それに存在が確認できただけでも十分さ)
(でも、さっきから何度も館をちらちら見てるんだよね。その素振りが気になっちゃってさ)
(館? 館を見てたのか?)
(どうしたのマコト)
その痣の男は、館の中のただならぬ気配に気づいていた。
それを察した馬琴は、ミヤたちに撤退を知らせる方法を考えるのであった。
「ん? ルナリカ殿、どうかされましたか? 顔色がお悪いですよ」
「え、いえいぇ~、旅の疲れですかねぇ~」
「あ、そうだぁ、紐を通したクナイは投げるだけでなく――」
ルティーナはクナイを輪投げの要領で上空に振り回し始めた。紐には指で1cmの『切』を描いた状態で……。
「おぉ~、これはうかつに近づけないですなぁ」
「これは牽制したり、そのまま投げつける攻撃もできますし、高いところに上るときに上に引っ掛けたりとか、色々な使い方がありますよ」
(そっか、振り回しているからカンジは誰にも見えないね)
(ルナ、とりあえずもう少し前に出てくれ)
(もうちょっと広い場所に移動しながらそのまま振り回していてくれるかい?)
馬琴は皆に悟られないように、ちょうど館の2階の窓にクナイが向く瞬間に『切』を『起動』した。
クナイはそのまま館に飛んでいき窓ガラスを割って通路に転がるのであった。
「きゃぁ~、ごめんなさいっエレヴァルク様、本当に申し訳ございませんっ」
「紐が切れてしまったみたいで、調子にのって振り回してしまいました」
「あぁ、まぁこういうこともある。仕方ないさ」
「窓ガラスは弁償させていただきますので、お許しください」
「いいですよルナリカ殿、今日は有意義な時間を過ごさせていただいたんだ。授業料代わりで不問にしませんか?」
「ご配慮ありがとうございます」
(ま、裏金たんまりもってるもんな)
「えっ、なにか?」
「いえいえ、本当にエレヴァルク様はお優しい方だなぁと」
ガラスが割れた音に気づいたミヤ達はあわてて、ガラスが割れた通路に駆けつけたのであった。
「(あれって、ルナのクナイじゃない)」
「(なんでクナイが……)」
ミヤ達は外を見ると、領主に頭を下げているルティーナの姿が目に飛び込んだ。
「(あいつ、何やってんだよ~)」
「(ねぇ~ミヤぁ~、ルナのお尻ぃ~見て下さいぃ)」
「(はぁ? お尻? んっ――)」
「(そうかそういうことか! 急いで館の外に出るぞっ)」
ルティーナは謝りながら、手を後ろに回し、さりげに外を指さししていたのだった。
(誰でもいいから気づいてぇ~)
そう思っている間に嫌な予感は的中し、腕に痣のある男は数人を連れて館の中に入っていったのであった。
「ルナリカ殿、今、何人かが片づけに行きましたので、今日はこの辺で終わりにしましょう」
「本当に楽しい時間をありがとうございました」
「また、機会がございましたら」
(ね~よっ)