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5話 実験

まだ薄暗い中、バルストはルティーナの寝顔に満足しつつ旅支度を整えていた。

ルティーナに気付かれないよう静かに家を出ると、一日の道のりを馬車で揺られ、ノスガルド王国の冒険者ギルドへと向かうのであった。今回の依頼は、この地に巣食う魔物の大規模な討伐であり、一週間ほど家を空けることになるという。

それから数時間後、アンナと朝食をとるルティーナであった。


「おはよう、お母さん。お父さんはもう出かけちゃったのね」


「それより、ルナぁ外出を許したとたん、お出かけ服なのね」

アンナは、嬉しそうに支度していた娘に呆れながらも、首飾りを付けていることに安心し優しく声をかけた。


「ちゃんと夕方までには必ず帰ってくるのよ」


 ルティーナは後ろめたい気持ちがあったため返事をにごしながら外出するのであった。そして歩いて一時間ほどかかる草原へまで足を運んだ。

だが、いきなりの長距離移動でルティーナは疲れ切ってしまった。しかし、それは『能力(ちから)』の実験をするために必要な条件であったためできるだけ遠くで人目が無い所に行く必要があったのだ。


(ごめんねルナ、無理をさせて。いやしかし、本当にどこまで歩いても平原や草原なのだな)


見渡す限りの景色に馬琴(まこと)は改めてこの異世界の広大さを感じていたが、ルティーナは大の字で草原にころがり始め仮眠するのであった。



 それから1時間後――。

ルティーナはさっきまでの移動の疲れを吹き飛ばすかのように実験に生き揚々としていた。


まずは、地面に手を添えた。そして、馬琴(まこと)が心に描いた【(みず)】の文字が、彼女の手を通して地面に鮮やかに写し出された。


(ものに触れるとそこに転写されるんだな)


関心していて手を地面の付けたままでいると、漢字がどんどん大きくなり始めたのだ。慌てて手を放すルティーナであったが、【(みず)】は2mぐらいの大きさで描かれていた。

触れている時間だけ大きくなるらしい。ルティーナの機転で手を離さなければ極大の漢字になり、想像を絶する水が噴き出したかもしれないことに言葉を失う馬琴(まこと)であった。


(さて、どうすれば水が噴き出すんだ?)


ルティーナはできるだけ【(みず)】から離れ、馬琴(まこと)がどうやって水を噴き出さすのか興味深々であった。

しかし、馬琴(まこと)は色々な掛け声を順番に言い始めたが、全く反応しなかった。そのうちにだんだん厨二病な掛け声を言い始め、ルティーナに意味がわからないとあきれられるのであった。


(あ、あのぉ、マコトさん……)


(全然わかんねぇ~だんだん俺のボキャブラリーに限界が……厨二的発想? ひらめき? どうしたら――)


そう思っていると、突然、水が勢いよく噴き出した!


(水が噴き出したわよ! 出来たじゃない!)

(――で、どうやって止めるの?)


(え? なんで水が吹き出したんでしょうね……)


(え? マコト……まさか偶然?)


(実は、勝手に止まったりするのかな?)



 ……一分経過……


(これヤバくない? マコト、まるで小さな池だよ……)

(そんな場合じゃないわ――あの時ってさ、止まれとか連呼してなかった? そんな感じでなにか意識すればいいんぢゃないのぉぉぉ~)


(この前は止まれって、意識してない――)


そう思った瞬間、水の噴出はピタリと止まるのであった。


(と、と、止まった……わね。やっぱり、止まれって思えばいいんぢゃないの?)

(止まれって思ったのはルナだろ? でも何か水が噴き出す時と止まる時……なんか違うんだよ)


何かきっかけがあるはずなのだがすっきりしない馬琴(まこと)

冷静に水が噴き出したり止まったときに何を言った、いや、何を考えていたかを浮かべていた。


(そうか、意識だから単純に文字の羅列……。古典が一文字ずつ漢字の羅列のように、一文字ずつのひらがなで並べたと考えれば……)



 正直、どうにでも読―― しょうじ<きどう>にでもよ ――

 ひらめき? どうした―― ひらめ<きどう>した ――


 俺って、意識しか―― おれっ<ていし>きしか ――

 止まれって、意識―― とまれっ<ていし>き ――



(そういうことか!)


馬琴(まこと)は条件に気付き、もう一度、ルティーナに手のひらを地面につけさせ、再び【(みず)】を描いた。

そして、『起動きどう』と叫ぶと、思った通り水が噴き出した。続けて、『停止(ていし)』と叫ぶことで、噴き出すのが止まったのであった。


(マコトぉ~! すごいすごいっ! 起動と停止って思えば、描いた漢字が、具現化できるのね!)


(むふふふ! これは楽しい! 楽しすぎるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~!)



 そして二人は時間の立つのを忘れ、平野に好き放題に漢字を地面に描き実験を続けていた。その内に空は茜色に染まり、夕暮れが迫っていた。


(げぇ! 早く帰らないとお母さんに怒られちゃうよ!)


(試してみたいことがあるんだけど……服を少しずらして、鎖骨を出して真ん中あたりに手を当ててみてよ)


言われるままにルティーナが鎖骨を露わにし、そこに手を当てると25cmほどの【(つばさ)】を描き、『起動きどう』を念じた。

すると、ルティーナの首の下から、まるで服を避けるようにして白い羽が生え、その小さな羽ばたきだけで、彼女の体はふわりと宙に浮いた。


(す、す、す、す、すご~い! マコト! わ、私っ浮かんでる?)


(しかし思った通りだったが……フラフラだな)


(うるさいわね、鳥じゃないんだから浮いてるだけ褒めてよっ)


(これ羽を動かすの意外と難しいのよ……。こうやったら前に進むのね)

(とりあえず歩くよりは、早く移動が出来そうだね)


(明日から、練習だな)


ルティーナは、不安定ながらも空を舞い、無事に家へと戻った。アンナに外出の件をとがめられることもなく、その日の夕食を迎えた。


「ところで、ルナ……縮んじゃった? 服、首元がブカブカよ」


「え……、え~と……。なんだろう?」


(そういえば、あの池どうしたっけ?)


(――そんな事よりマコトさん……背中が筋肉痛なんですけど)


(あはは若いねぇ……明日はゆっくり休むもう)


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