40話 街ノ片隅
ルティーナ達はガイゼルの護衛を始め、初日はシャルレシカの索敵のおかげで何事もなく過ごせたが、2日目に盗賊団に襲撃されてしまう。
しかし、ルティーナとサーミャはいとも簡単に迎撃しガイゼルは唖然としていた。
ルティーナ達は退治した盗賊たちを縄で縛りあげ、街道に放置したままブクレインに向かうことにした。
「それにしても、なかなかの手際でしたな……ところで、あいつらは、あのままでいいのかい? 仲間が助けに――」
「さすがに運ぶわけにもいかないですし、国境についたら、警備隊に事情を説明して確保してもらいます」
「仲間がいるならシャルが反応してますから」
「(ところでよルナ……今回は、持っていかないのか?)」
「(えぇ~嫌だよぉ~毎回毎回、カンジを3文字づづ描いては制御するって、地味~に時間かかるしっ。ガイゼルさんの前で見せられないじゃん)」
「(てっきり、毎回楽しんでるのかと思ってたわ――)」
「(ないないっ! でも、警備隊への説明はミヤよろしくね。私だと相手にしてもらえないと思うし、そっちの方が早く終わるでしょ……)」
「(げっ)」
2人がくだらない会話をしているうちに馬車は国境に到着し、入国手続きをガイゼル達がしている間にサーミャが盗賊の確保に向かってもらうように説明するのであった。
そして何事もなく入国後、納品先まで一直線で馬車を走らせるのであった。
「ルナリカさん、おかげさまで日が暮れる前に無事に到着できるよ。ありがとうございました」
「そういえば、このままこの街でしばらく滞在するだっけ? さすがに街中までくれば護衛はもう大丈夫だ。この先の道を抜ければ繁華街だから、そこでおろしてあげるよ」
ガイゼル達は繁華街に入ると馬車を止め、ルティーナ達に金貨30枚を支払い下車させるのであった。
「お気遣いありがとうございます」
「ルナリカさん、また頼んでもいいかな? 次回は是非指名させてもらうよ」
「ガイゼルさん、次からはグルバスさんの時みたいに気さくでいいですよぉ」
「では、またのご利用をお待ちしてますぅ~」
任務を終えたルティーナ達は、意気揚々とそのまま繁華街に繰り出すのであった。
「さぁ~て、お金もいっぱいもらったし、今日は知らない街で贅沢三昧で行きましょうっ」
「おっ、さすが頭っ太っ腹ぁ~」
「手裏剣の副収入もあるから、しばらくは贅沢が出来るわよっ」
「でも明日からは3日ぐらい情報集めするから、ちゃっかり働いてもらうから」
「へいへい」
「さぁ~て夕飯は、いっつも堅くされちゃってご機嫌斜めの腹ぺこシャルちゃん? 何が食べたい?」
「わ~い! それじゃぁ~肉ぅ! がつ~んと肉がぁいいですぅ~!」
「「(そりゃ…………実るわなぁ~)」」
「ん?」
「あ~なんでもない、なんでもないっ! 肉行こうっ肉っ~! おいしそうな店ないかなぁ~」
「ルナぁ~夕昼飯食べたら、新しい服も買ってくれよぉ~……さすがに着替えがほしいぜ(いっぱいあってもルナが小さくして持ち運びできるからな)」
「しかたないなぁミヤさん……んじゃ、みんなの服を新調しよう」
「わ~い!」
3人は飲食街に足を運ぶ途中、裏路地から女性の怒鳴り声が聞こえたと思った瞬間、そこから大男が吹き飛んできた。
「悪意がたくさんむらがってますぅ……」
シャルレシカが感じた気配通り、裏路地に駆け寄ると1人の女性がやさくれた奴等数人に囲まれていたのであった。
「まずくないか? ここは、あたいが――」
「って待て~~~っ! 何っ街中で『エクソシズム・ケーン』構えてるのよっ」
「ここは頭に任せなさいって」
ルティーナは普通に歩いて忍び寄り、野郎の2人の背中に触れながら、威嚇を始めた。
「ダメじゃな~い? おじさん達」
「寄って集って、女の子にイケナイことしちゃ~」
(この子、私たちと同じぐらいかな? しかし赤い髪って派手だなぁ……)
「あ~ん? なんだ~ぁ? ガキっ」
「お兄さん達はおこちゃまには興味ねーんだよっ、お人形さん遊びでもしてなっ」
(マコト……こいつらに鉄槌をよろしく)
「ふ~ん、わかったぁわ、おじさんっ! 私、お人形さんで遊ぶねぇ~」
(あ~ぁ、怒ってる怒ってる……か、かしこまりましたお嬢様っ)
すると突然、ルティーナに触れられていた2人の男が、大声をあげて震え悶えのたうち回るのであった。
「「せ、背中が……じ……じびれ……ぐる……じぃ」」
背中をたたいた時、【痺】を転写し1秒程触れることで、25cm程の大きさで描いていたのだった。
「っ? ま、まさかっガキっ! テメぇ毒でも刺したのかぁ~?」
「おめ~ら離れろっ! このガキやべぇ~ぞっ!」
「うるさいなぁ~お人形さん遊びしてろって言ったくせにぃ~どこ行くんですかぁ~」
(ルナさん……そこまで行くと、ただの危ない人だよ~)
狙ったとおり、男達は警戒して距離を取り始めた。
ルティーナは【油《あぶら》】を描いた手裏剣を1枚に取りだし、そんな男の群れのど真ん中めがけて投げこんだ。
そして噴水のように油を発生させ全員を油にまみれにした。
滑って転んだり、目に入って悶えたりと混乱させている隙に、地面に手をつき【熱】を全員を包み込む大きさにまで展開し『起動』した。
「「「「「ぎゃ~っ! 熱い、熱いっ、焼ける~っ」」」」」
男たちは、油で焼かれながら悲鳴を上げ逃げ去っていくのであった。
「大丈夫だった? お嬢さん?」
(あれ、この娘、目の色が左右違う?)
(ホントだ――)
「な、な、な……なんてことしてくれんのよ! あんたっ!」
「え?」
「だ、誰が助けてなんていったのよっ、逃げられちゃったじゃないっ! まったく、余計な事をっ!」
その少女は礼も言わず怒りながら、そそくさと去って行ったのであった。
「……なっ、なにっ! 私が何でぇキレられなきゃぁいけないのよぉぉぉ~」
「ルナっ平和的解決ご苦労様……と言いたいところだが、ありゃないな……」
「ま、飯食べて気分を変えようぜ! 行こう行こうっ」
しかしその少女は、ルティーナ達が去るのを物陰から見つめていた。
「あの子供? 何をどうしたらあんなことが出来るのかしら?」
「あの格好は冒険者よね? でも助かったわ……予想より仲間が居やがったから一人では正直キツかったし」
「素直に『ありがとう』って何で言えなかったのでしょうか……」
「絶対……印象悪かったですよね……怒ると見境ないなぁ私」