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4話 決意

 夜の帳が降りたにも関わらず、馬琴(まこと)は結局、寝ることはできなかったが、ルティーナが眠っている間は意識は遮断されていたようで、彼女を起こすとなく安心するのであった。

そして翌朝、ルティーナは外から窓を見渡せるぐらいには動けるようになっていた。しかし7年前に自分が住んでいた光景と違うことに何があったかを、アンナに問うのであった。


 7年前に瀕死の重傷を負ったことを知らされたバルストは、迷う事なく護衛団を退団し、トレンシリア王国の広大な平原にひっそりと佇む一軒家へと居を移したという。

そして、アンナはルティーナの献身的な看病を始め、バルストは再び冒険者の道へ身を投じ、日々の糧を得ていたそうだ。


ルティーナは、自分が知っている知識でトレンシリアについて馬琴(まこと)に説明するのであった。

トレンシリア王国は、ノモナーガ王国と同盟を結んでいる近隣諸国であり、ノモナーガで開発された魔物が嫌う能力を秘めた『バリア・ストーン』ってのを開発して、自国と同盟国の国境周辺に設置しているらしい。

『バリア・ストーン』とは、ノモナーガの地下資源で発掘された鉱物らしく、完全ではないがその石のおかげで、ほとんどの魔物が近寄ってこなくなり国防の役に立っていることを聞かされた。


(魔物……がいるのか?)


(居るわよ……私は1度しか見た事ないけど……マコトの居たところには居ないの?)


 しかし、馬琴(まこと)は『バリア・ストーン』が壊されたら魔物が暴れたい放題ではないかとルティーナに問うが、魔物が近づけないのだから破壊できるわけないと話を払いのけられるのであった。

可能性としては魔力切れがあるというが、定期的に王宮の魔術師団が管理しているからそれもありえないという。


(……なぁ、人が壊すとか考えないのか?)


(人が壊すですってぇ? なんで壊してまで、わざわざ魔物に襲れたいって思うのよ?)



 ――そして半月が過ぎ、ルティーナは、普通の生活ができるまで体力が回復してきたある日の事。


(そういえばルナ、上機嫌だな?)


(ふふ~んっ、わかる? 今日はね~)


今日はルティーナの誕生日。そして夕食の時間を迎えた。


「ルナ、誕生日おめでとう! また、こうやってお祝いできるなんて、うれしいわ」

「8年前なら、お人形さん欲しがってただろうけど、さすがにもう大人だもんね、何をあげようか迷ってしまったら、これぐらいしか思いつかなかったわ」


アンナは、早速ルティーナに青く透き通る綺麗な石のついた首飾りを渡した。


「わぁ、綺麗~」


その宝石は、アンナの宝物らしく『ヒーリング・ストーン』と呼ばれていた。これは怪我をしたらこれを握りしめて『キュア・ヒール』と叫ぶことで1回だけ上級魔法回復が発動する代物であった。


「お母さんがいっぱい魔力をこめておいたからね! 使ったらまた魔力をこめてあげるわ」

「明日から外出してもいいけど、夕方には必ず戻ってくること! いいわね」


アンナのプレゼントに興奮するルティーナであったが、そのやり取りをうらやましそうに見ていたバルストも、おもむろに袋を取り出した。


「お、お父さんはな、街でいっぱい服を買ってきたんだぞぉ!」


 鼻息、荒々しくルティーナに手渡したが、袋を開けた瞬間が言葉を失うのであった。


「……わ、私には、少々大きすぎる気がするのですが――」


 両親は凍り付いた。

ルティーナは11歳から寝たきりであったため、ほとんど体が成長していないのに、大人物で可愛しい服を店員に適当に選んでもらったのであった。

沈黙するルティーナを見つめ、しょんぼりするバルストであったが、馬琴(まこと)に服が似合う女性になると言うように諭した。

その言葉にバルストは感動のあまり、ルティーナに抱きつき号泣し始めた。


(恒例行事になりつつあるな……どんだけ娘が好きなんだよ)


「あなたっ! いい加減になさいっ! せっかくのご飯が冷めちゃうじゃないっ」

「今日の主役が……これじゃ!」


 結局、アンナはルティーナをバルストから引き離し、料理を温めなおす間に風呂に入ってくるように勧めるのであった。

お風呂に入るといつものように、体に視線誘導しないように天井を見ながら不自然に体を洗うルティーナであったため、いつも1時間ぐらい上がってこない事が恒例となっていた。


そしてルティーナは風呂から上がり食卓に戻ろうとした時に、2人の会話が耳に飛び込んできたのであった。


「アンナすまんな、今月も稼ぎが少なくて。護衛団の頃の貯蓄が底をつきてしまったしどうしたものか」


今の生活について2人が今後をどうするか吐露していたのだ。

冒険者に戻っても過去の栄光も50歳すぎていては案件が取れないうえ、大規模案件になると参加できても危険度や長期遠征になってしまうので避けたいと仕事を選びたいが選べない状況であった。


(マコト、私のせいよね? どうしたらいいと思う?)


(――ルナ、俺達で生活を助けられるといいな)


(マコト、手伝ってくれるの?)


(そりゃ当たり前だろ? この不思議な『能力(ちから)』の事をもっと知れば、きっと何かの役に立つはずさ)


(うんっ!)


(とりあえず、ルナのお目付け役ってところかな?)


(何よそれ?)


「ごめんねぇ! 髪がなかなか乾かなくってぇ」


 ルティーナは、何も聞いていなかったかのように振る舞い、食卓に戻り、家族団欒の温かい誕生日祝いを満喫するのであった。


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