39話 良キ旅路
ルティーナ達を紹介された頑固な依頼主ガイゼルであったが、彼女達の初見で命を預けることは出来ないと拒否するのであった。
そんな中、グルバスの入れ知恵もあり、3人は実力を示すことで彼を納得させ、無事に案件を受けることが決まったのであった。
ルティーナ達はグルバスを見送った後、ガイゼルと仕事の詳細について話し合いを始めた。
そんな中、ガイゼルは作業員から積荷の準備ができたとの連絡を受け、早速出発することにしたのであった。
「ルナリカさんっ、出発準備が出来ましたよぉ~っ! 行きましょうか?」
(なんか低姿勢になったよね)
先頭の馬車には荷物を積載しサーミャが構え、後続の馬車にはルティーナとシャルレシカがガイゼルの護衛として乗車し商会を出発するのであった。
しばらく馬車で移動しアウリッヒ王国の国境を越えたあたりから、シャルレシカは盗賊警戒の為、索敵魔法の展開を始めた。
「シャルっ、不穏な動きがあったら教えてね」
「はぁ~い! がんばりますぅ~」
(なんか護衛っぽくなってきたね)
(んぁ、なんだぁ~楽しそうだな、ルナ)
「おーいルナぁ、何をニヤけてやんだよ! 盗賊相手だと人を殺すことになっちまうかもしれないんだぜ……あいつらは全力で殺しにかかってくるからよっ気を抜くなよ」
「(ま、あたいも、結果的に殺しちまったことはあるけど……あんまり気分がいいもんじゃないな)」
(確かに、この前の盗賊相手も致命傷は与えてないか……)
(でも、そんな畜生は魔物と同じって割り切ってみせるわ……できれば殺したくないけど……覚悟は出来てるわ)
(ドグルスには、そこを突かれちまったからな、お互い気を付けような)
ガイゼルは、ノスガルドの国境を越えたあとはアウリッヒ王国の外側の山脈側を最短ルートで通りブクレイン王国の国境手前で野営初日を送る計画をしていた。
しかし、アウリッヒ王国の山脈側は『バリア・ストーン』の恩恵が薄いためなのか、シャルレシカは2km先に魔物の群れが10匹程存在していることに気づく。
あくまでも道なりに進むと遭遇すると聞き、最短ルートをあきらめ、アウリッヒ王国の中心部寄りにコースに変更したのであった。
「す、すごいな索敵魔法って……そんなことまでわかるものなのかい?」
「護衛依頼をしいて、初めて出会ったよ」
「これなら、安全な旅になりそうだよ」
(ま、ガイゼルさんも満足しているし、何もなければいいんじゃないか?)
(でも戦闘もしたいなぁ~『零の運命』の知名度も上がるじゃない?)
(どっちもどっちだなぁ)
大回りした為、当日中に国境手前まで行けなかったルティーナ達であったが、近くの森で野営することにしたのであった。
「しかし、シャルさんは一日寝ずに索敵するのかい?」
「まさかぁ~……お腹ペコペコでぇ、眠いですぅ~」
「(え、えぇ~聞いてないぞ)」
「そのことは、頭脳派無職にお任せをっ」
「とりあえず、食事しましょうか?」
「(ま、まだ根に持たれてる……)」
ルティーナは夕食の片づけが終わると、早速、地面に手をつき【窯】を8mぐらいの大きさで描き、馬車2台を包み込むのであった。
「な、ななんだぁ~何が起こってる? 暗いぞ? 何も見えんぞっ」
ルティーナは続いて、数本のクナイを取り出し【灯】を描き、天井に向けて刺し『起動』するのであった。
「えっ、明るい……しかも岩に包まれてるのか……確かにこれなら襲われる事なく安心して寝られるな」
「ほんとうに、何でも出来るんだな……ルナリカさんは……だが、頭脳派無職の事は悪かったよ……勘弁してくれよ」
「あはは、やだなぁ~言ってみたかっただけですよ」
「っつか、シャルはもう寝てるしっ!(欲求に忠実だな……)」
「「「あはははは」」」
そして翌朝、一行はブクレイン王国への移動を再開し、峠を越えると国境を越えるところまで差し掛かっていたがシャルレシカが悩み始める。
「なんかぁ~2キロ先でぇ悪意が行ったり来たりぃしてぇ、他の10数人ぐらいはぁ、じっとしてますぅ~」
「ん、それって、監視されてんじゃねぇか?」
ルティーナは、積荷の馬車を後ろに回しガイゼルも移動させた。そして3人は馬車を止め外で構えるのであった。
「えぇ~やっぱりぃ私もぉ~?」
「ん? シャルっ、もう慣れたでしょ? 堅くなるの」
「あなたが居ないと、敵をけちらしたか? わからないからね~」
「ひぇ~」
しばらくすると、シャルレシカが盗賊の接近を知らせようとしたが、それ以前に何かが飛んでるくと騒ぎ出す。
サーミャは矢に違いないと、『アース・マグネ ――地面から磁場を発生させる――』を地面に打ち放ち、矢の先端が磁石にからめとられるよに地面に吸い寄せた。
「何よそれっ面白いっ」
「これは鉄なら吸い寄せることができる魔法さ、任意のものに事前に魔法をかけておくと元の位置に戻したりもできるぜ」
「へぇ~私も負けてられないわね」
ルティーナは次の攻撃が始まる前に、目の前の岩場に【爆】を描いた手裏剣を、いろんな方向に何枚か投げ込んだ。
矢の第二波が飛来するもサーミャが難なくさばき、攻撃が通用していないことを悟った盗賊が崖の上から飛びかかってきた。
ルティーナは紐を繋いだクナイを、輪投げの要領で頭上で回転させ襲ってくる盗賊を牽制するのであった。
躊躇する盗賊に対しては、サーミャが『ライトニング・アロー』で次々と盗賊を狙い打ち失神させる。
サーミャを裂け、ルティーナに襲い掛かろうとする盗賊達であったが、回転するクナイにけん制されながら手裏剣の場所の近くまで、まんまと誘導され爆発で岩崩れに巻き込まれるのであった。
しかし一人だけとり逃した盗賊が、後続車のガイゼル達に刀を向け飛び掛かった。
「お前らだけでも、殺してやるぅぅ~っ」
「た、助けてくれぇ~っ」
すかさずルティーナは紐付きクナイを投げ、盗賊の首に巻き付け地面に叩きつけガイゼルを守り切ったのであった。
結局、3分もかからず盗賊達は壊滅した。
「……」
あまりにも手際のよさに、あきれるガイゼルであった。




