最終話 門出
ルティーナ達は、ノキア王に報酬として領土の割譲と、新しくエリアルを女王とした国家『中立武装国家イスガ王国』を建国し自分たちはそこに属すると宣言するのであった。
「――なるほどの。確かにお前達の戦力を、この国でかかえると国家間の力関係が崩れてしまうのは危惧していたが、そういう前提で国を作るのであれば各国も文句はなかろう」
「竜の脅威からこの世界を守った者たちによる平和監視か……面白い! お前達にノモナーガの領土の一部をくれてやるっ!」
「ありがとうございます」
祝賀会を始める前に、ルティーナの提案で馬琴と誉美も参加してほしいとサーミャに頼み、朝時の召喚の時に使った『サモナー・ストーン』を準備してもらい召喚魔法で彼らを召喚する。
5人は、ついに馬琴達に逢えたことに感激し盛り上がっていたが、2人は結婚式の衣装だったため、さすがに恥ずかしいと、帰還する日まで貴族服を借りることにした。
そしてシャルレシカの予知夢の通り7人揃って楽しい食事になり、いろいろ募る話で盛り上がった結果、祝勝会は朝まで続いたのであった。
ルティーナ達は翌朝、城からの帰り道で『碧き閃光』の拠点により皆に挨拶をした後、一度、拠点に戻り馬琴と誉美は留守番をし、5人でアジャンレ村に報告するためバルストの元へ転移するのであった。
そして、黒竜を討伐した報告を聞き喜ぶバルスト達であったが、エリアルがイスガ王の忘れ形見で、さらには5人で王国を建国することになった話を聞き呆然とする。
「(やばい、姫様に滅茶苦茶な特訓させて……筋肉隆々にしてしまった……)」
「あ、気にしないでください。これからも師匠でいてください」
「それと――」
エリアルからの提案というか馬琴の入れ知恵であったが、ルティーナが近衛師団長になるのでバルスト夫婦には補佐として着任してもらうことを依頼した。
そして、新しく国を作るために、国民はたくさん居るにこしたことはないと村人全員もイスガ王国へ来てほしいと懇願する。
結果として、エリアルとロザリナは村の守り女神としてたたえられているため、その2人が居る国からの招待を断る村人は一人もいなかった。
「じゃあ、占い師稼業はおばあちゃんにぃ」
「こらっ、ふざけるでないわ! 真面目に働け! 馬鹿もんが」
「ひぃっ!」
そしてロザリナは……春斗と尼帆のお墓を国に作り直す事に決めるのであった。
「ありがとうみんな! (これで、あとはミレイユと孤児院の皆だけだ)」
「私はロザリナの手伝いをしてくるから、3人で行ってらっしゃい」
アジャンレ村の引っ越し準備を進める中、エリアルは今の話しを手土産にミレイユのところへ、サーミャとシャルレシカの3人で転移するのであった。
だが、転移先でエリアルが目にしたものは――ミレイユの葬式が行われていた場であったのだ。
一体何が起こったかもわからず、葬儀に参列していた皆も突然現れたエリアルに驚きをかくせなかったが、孤児院の子供達が彼女に泣きつき、叫んだ。
「エリアルお姉ちゃんぅ! み、ミレイユ様がぁ!」
「落ち着いて、どうしたの? みんな」
「えっく、2日前お祈りをした格好のまま亡くなってしまったのがお部屋で見つかったの」
「お医者様は心不全じゃないかって言ってるんだけど……」
「「「お姉ちゃん、私たち、これからどうしたらいいのぉ?」」」
「くそっ……せっかくこれからって時に……なんでだよぉ」
「あのぉ、まだ亡くなられて2日しか経ってないんですよねぇ? かすかな記憶があるうちにぃ……」
シャルレシカはミレイユの身に一体何が起こったのか? 彼女の遺体に触れさせてもらい記憶を読み取り皆に説明を始めた。
彼女は幼少の頃、イスガを脱出し地上に逃れた時に、父親の無事を祈ろうとしたが、フレーディルにそれだけはしてはいけないと言われていた。
王冠についている石は、その人の身に何かが起こると、安否を祈る者が身代わりになってしまう物だったのだ。だから祈るとミレイユが死んでしまい、彼が死ねないとフレーディルは止めたのだった。
本来は、万が一に王の身に何かあった時に、自分が身代わりになるためのお守りだったのだ。
ミレイユはそれを思い出し、自分の身に何かあってもエリアルが無事であればそれでいいと、石の秘密は教えずに渡していたのであった。
秘密を知ってしまったら思う存分戦えないと、案じた上でエリアルのやりたい正義を見守りたいと祈り続けていたのであった。
そして、エリアルがやられた瞬間――。
「……おばあ様……僕の身代わりに(ありがとうございます)」
「守ってもらったこの命は、大切に使わせていただき、墓前に誓います『立派な王になると』」
それから数日後、孤児院の皆とアジャンレ村の民を連れ、イスガ王に割譲してもらった領地で小さいながらも『新イスガ王国』を立ち上げるのであった。
月日は流れ2ヶ月後、無事に国として軌道に乗り始めた頃、ついに別れの時が来たのであった。
「俺が世話できるのはここまでだな」
「あとはみんなと楽しくやるんだぞルナ」
「お目付け役だっけ? 今まで、本当にありがとうね」
「泣くなよ」
「そうよ、この出会いは無意味じゃないわ」
そんな中、ルティーナは泣きじゃくりながら馬琴をひっぱたいた。
「最初に言ったわよね? 約束だったんだからね! 私の事を忘れたら承知しないんだから、一生と覚えてなさいよ!」
「きっと、また逢えますよぉルナ」
「そうだねシャル (気持ちだけでもうれしいよ)」
「んじゃ、みんな元気でな」
馬琴達は皆から熱い抱擁をうけた後、サーミャが逆召喚魔法の詠唱を始める。
2人がだんだん消えかかり、元の転移された時間に戻りつつある中、ルティーナ達は寂しそうな顔は一切せず笑顔で消えていくのを、ただただ見守る事にしたのであった。
そして時間は遡り、馬琴と誉美は無事に結婚式当日の誓いのキスの続きの場面に戻ることができたのだった。
2人は人生を再開するのであったが、そこには出席していたはずの朝時の姿はなく、式が終わった後、行方不明になったと大騒ぎになっていた。
その理由を知っている2人は、やるせない気持ちであった。
それから1週間が過ぎ、2人は幸せな家庭を築き始めていた。
「何、ぼーっとしてるのよ、いろいろやる事があるんだから、手伝ってよ」
「あ、すまない」
「また、ルナちゃんたちの事を考えてたんでしょ?」
「バレバレだな」
「私だって寂しいわよ。 ところでさ世界が滅ぶとか守護のドラゴンが存在するって話、世間に公表するの?」
「そんな話、誰も信じないさ。……そんなことで、未来が変な方向になっちゃったら、ルナ達に申し訳ないからな」
彼女達の笑顔を、一生忘れることはないだろう。
この先、自分たちの技術で潰してしまう未来の先の未来で、楽しく生きてほしいと願う2人であった。
「そうね。あの子達、ちゃんと仕事しているかしら?」
「俺の自慢の教え子達だからな、心配ないさ」
「ねぇねぇ、私も早くルナちゃんみたいな子供が、欲・し・い・な」
「おれは、シャ――」
「あ~ん?」
「い、いえ、なん――――でぇっ!」
突然、馬琴達の目の前に見慣れた黒い空間が発生し、2人は、そんな馬鹿な事がと慌てる中――。
「っしゃ成功だ! マコマコ! 元気してたかぁ?」
「ほ、本当にマコトだ! 会いたかったよぉ~っ!」
「ねぇ、やっぱり、また逢えましたねぇ!」
「冗談でも、やってみるもんですね」
「これが過去ってところですか? ところで、この見た事もない道具は? 僕の冒険心をくすぐりますね」
「な、なんでお前ら――――――――っ」
☆見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました (完)
――さてはて、この先、どうなりますやら。
この続きは、機会があれば……。




