248話 切札
シャルレシカは索敵の応用か彼女の真の力かはわからないが、皆が弱気になっていることを悟り、戦場に響くほどの大声を張り上げた。
「私にはぁこの先ぃ~みんなと食事してる未来が見えたんですぅ! マコマコもトモミンもみんな一緒にぃ楽しくぅ~っ!」
「シャル……」
(……シャルには参ったな、そういえば、自分が切り札って……なるほど、そういう事か)
「みんな揃ってですか? なら、こんな魔力が空になった私でも役に立てそうですね」
「あははシャルの奴、気休めでも無茶言ってくれるぜ……動けねぇが、あたいもまだ、あきらめちゃいねぇぞ! エルっ! どこだ? 生きてるなら返事をしてくれ!」
「シャルなりの鼓舞ですね。彼女が言うならこの決戦に負けは無いということですね! とにかくミヤと合流を急ぎましょうトモミさん」
(と、トモミンって? 私の事ぉ?)
皆、それぞれ思うところはあったがシャルレシカの言葉に勇気をもらい、一度消えかけた、黒竜に立ち向かう心に再び火が灯るのであった。
ルティーナは、ロザリナと硬化したシャルレシカを解除し、岩陰に盾にしながら作戦を練り直すことにした。
エリアルは致命傷かと思われた体に異常がないことを確認し、動けなくなってしまったサーミャの援護に走る。
サーミャは駆け寄ってくるエリアルの防具がボロボロであったため絶望視していたが、無傷であることに驚くのであった。
「あの石が守ってくれたんですよ」
「そうなのか? ミレイユさんが言ってたことは本当だったんだな」
黒竜は、戦意を消失するどころか逆に火をつけ、さらにはルティーナ達に全く致命傷を与えられなかったことに焦りと怒りを感じていた。
「き、貴様ら~っ!」
「(これ以上、無理はしたくないが止む得まい!) 貴様らなど、空からこの一帯を防ぎきれない業火で全てを薙ぎ払い終わりにしてくれるわっ!」
そして空に飛ぼうとする竜であったが、数回、翼を羽ばたかせ、体を空中に浮かばせようとした瞬間に異変が起こる。
突然、体中のあちらこちらから血が吹き出し、苦しみながら墜落し地面に沈んだ。
「……ぐはっ! な、何が起こったのだ? 俺の体がぁ……」
(奴に何が起こっ――そうか!)
『空を飛ぶと爆発する』
彼ら竜の体は、体内に特殊な石を取り込むとその特性を得てしまう体質である。
そして不運にも朝時を始末する時に捕食してしまった――そう、呪いのかかった『カース・ストーン』ごと捕食したのだ。
つまり、食べたものは小さな石だったが、石の大きさは関係なくその石の特性が体中に反映されたのが原因だったのだ。
黒竜は、空を飛ぶ条件を満たしてしまったことで体中に小爆発が始まり、それに加え、先の攻撃で鱗を飛ばして薄くなってしまった表皮から血しぶきが噴き出し苦しんでいた。
(太平……こんな形で)
(よし、これは最後のチャンスだ! ルナっ! すこしは動けるようになったかい?)
(さすがに戦闘は無理だけど、動けるよ! いえ、動いてみせるわ! 何でも言って)
(一発勝負だ! 切り札のシャルに賭けるぞっ!)
そしてルティーナは、シャルレシカにサーミャとエリアルにこっちにっ転移するように、さっきと同じぐらいの大声を張り上げて呼ぶように指示する。
何かを始める気だと理解したサーミャは、エリアルにしがみつきルティーナ達の元へ転移するのであった。
「あいつの体、何かしたのかルナ?」
「後で話すわ、とにかくシャルに――」
そしてサーミャは、シャルレシカに『エクソシズム・ケーン』を託した。
「後はぁお任せくださいぃ! 切り札シャルレシカ、やるときはやりますよぉぉぉぉ~っ!」
シャルレシカは容赦なく自分の知っている様々な魔法をでたらめに放ち、黒竜の脆くなった体に叩きつける。
さすがの黒竜も、シャルレシカの心は読めないため次の一手がわからず、未だに体中のあちこちで発生する小爆発により血が噴き出す体で防御もままならないまま、反撃すらできずに攻撃を受け続ける事しかできなかった。
「シャルが時間を稼いでくれている間に、最後の作戦よ」
「すまねぇ足をやっちまって、あたいは動けねぇ!」
「ということは、まともに動けるのはリーナとエルだけってことね……って、そうには見えないんだけどエル大丈夫なの?」
そしてサーミャとエリアルはルティーナに何が起こったかを簡単に説明する。
その状況を把握した馬琴は、早速、皆に指示を与えた。
たが1点だけ確認しなければならないことがあった。
それはサーミャの話が本当なら、エリアルは致命傷な打撃を受けていたことになるにもかかわらず復活していることになり、偶然ではあったが自分たちと同じような事が起こってるのではないかと想像していた。
まず、サーミャには魔力が残っているかを確認し『ダーク・コンバート』で魔力をロザリナに全て譲り、『シャイン・レストレーション』でサーミャの足の応急処置をさせ、『シャイン・エンベッド』を1回分使えるだけの魔力を残してほしいと伝えるのであった。
そして、ルティーナはエリアルにはある作戦を伝え、自分を軽くしロザリナに担いでもらいながら2人は姿を消し、黒竜の元へ走っていくのであった。
(馬琴、大丈夫よね……)
(大丈夫ですよ。今までマコトさんの作戦が失敗したことなんてありませんから!)
(さぁ、こっちも準備しましょう! 本当に僕が漢字を操れるようになったのか試さないといけませんし)
シャルレシカの攻撃が弱まり、飛翔しないことで『カース・ストーン』の影響も薄れる中、黒竜は反撃を開始しようとしていた。
しかし、そこへ姿を消したルティーナ達が近づいていることに気づく余地はなく、ロザリナは全魔力を使い『シャイン・エンベッド』で拳に光を集め、透明な巨大な手を作り黒竜を鷲掴みにする。
突然の何かにつかまれているように身動きが取れず動揺する中、ルティーナは無理をおして消えたまま飛翔し黒竜の胸に手を添えた。
そしてその胸に【脆】を描き写し、ロザリナの魔力が尽きる3秒間の間、漢字を大きくし続けるのであった。
(半径1m! 上出来だ! 『起動』っ!)
そしてルティーナは、シャルレシカに残りの魔力全部を使って竜の周りを『ロック・ウォール』で固め、一瞬だけでも動きを止めるように指示をだした。
遠くから様子を伺っていたエリアルは、槍の穂先を黒竜の胸に向かって伸ばし続けた。
その穂先には、ルティーナから預かった【爆】とかかれた爆弾が【貼】で貼りつけてられていたのだった。
ルティーナは爆弾にもともとしかけている小さく固くした漢字を『停止』し、爆弾を脆くなった胸板の上で大爆発させたのであった。
さすがの竜の雄たけびがこだまする中、心臓に致命傷を浴び大きな巨体は大地が響くほどの勢いで倒れこみ、完全に沈黙するのであった。
そして、5人は小さく拳を突き上げ、勝利を無言で分かち合うのであった。




