246話 絶望
ルティーナの悲鳴を聞いたサーミャ達は、ただ事ではない何かが起こっていると焦り、自分たちの居場所が知れてもいいとサーミャは風魔法をエリアルは大剣で竜巻の刃を飛ばし、必死に粉塵を蹴散らすのであった。
――しかし彼女達の目に飛び込んで来た光景は、血まみれで岩壁に打ち付けられた無残なルティーナの姿と、それを眺める黒竜の姿であった。
「ふんっ、姿を隠し1匹づつ片づけてやるつもりだったが、そう焦るでないわ!」
「とりあえず2匹は片づけた、残りはお前たち3匹だけだぁ」
「2匹? ですって! まさかシャル……」
「シャルは意識介入できないはずだから……逃げ切れるはず」
「ということは、タイヘイが?」
「(くそ、ル、ルナっ! あいつは死なねぇっ!)」
「ミヤ、落ち着いて! 岩場にカンジが浮かんでいるとトモミさんが言っています。つまり、ルナは生きてます! ここは僕がここから牽制しますから、2人でルナを助けに行ってくださいっ!」
サーミャはロザリナを抱きかかえ、ルティーナのいる場所に転移をした。
2人が突然目の前に現れ、驚く黒竜であったが、すかさず口から炎のブレスを放ち、ロザリナは特大の『シャイン・ウォール』を展開し皆を守る。
エリアルは天空から槍を伸ばし黒竜への攻撃し注意を引き付ける。
再び地上では粉塵が舞い上がり、エリアルに注意が向けられている間にサーミャは重体のルティーナを抱えて安全な場所に避難し、ロザリナとシャルレシカを『サモン・オーバーコール』で召喚し呼び寄せ合流した。
「ルナっ! お願い目を覚まして! 『シャイン・レストレーション』っ!」
「リーナ、シャルなんだが、なんで寝てるかわからねぇが、その後、起こしてやってくれ!」
「ルナの事は任せたぜっ! あたいはエルと一緒に時間を稼いでくるっ!」
「お願いっ」
(これはリーナの魔法か?)
(ルナっ! 起きろっ……リーナが来てくれたぞ!)
(う……)
(良かった、意識はあるようだな!)
(しかし予定が大幅に……いや、最初っから作戦を練らないと……あの馬鹿野郎っ……死んでどうするんだ)
馬琴はもともと、戦闘になった場合はルティーナとエリアルと朝時の変則攻撃で攪乱させつつ、状況に応じて2つの作戦を考えていた。
①サーミャが『クロノ・モラトリス』で動きを止め、その隙にルティーナが触れ【脆】を全身に展開させ、全員で一気に総攻撃をする。
②ロザリナが『シャイン・プリズン』で小さい規模でも部位を拘束して動きを封殺し、全員の集中攻撃で気をそらしている隙に朝時の封印魔法で動きを止めた後に、漢字で粉砕する。
しかし①の作戦には懸念があった。
『あの巨体を10秒も時間を止められるのか?』
『デメンジョン・コフィン』も同様で、効果に保障、いや実績がない魔法で、作戦を推奨できないのだ。
もし通用しない場合、ロザリナで動きを封じる手段をとったとしても、動きが完全に止まるわけではないので安全にルティーナが10秒も触れていられる保証がないのだ……だから過去に実績がある封印魔法が有力であった。
だが、封印でなく洗脳魔法という汎用性が高い魔法がある――朝時は通用すると思い込んでいたようだが、馬琴は前の闘いで長明が何故使わなかったのか? 使ったが通用しなかったのか? という懸念が捨てきれなかったのだ。
そのため洗脳魔法は、大量に生息しているであろうデルグーイ達が、黒竜との闘いで邪魔になった時に、こっちの仲間として朝時に全て操作させる保険で考えていたのであった。
しかし、今となっては朝時はもう居ない。
(とにかく今は、ルナが早く動けるように…………だが、怪我から回復しても――出血が酷いはず……)
(うぅぅ……ま、マコト、い、痛いよぉ)
(意識が完全に戻った? 良かった! もうちょっとだけ辛抱するんだ)
(しかし、まだ、まともに戦ってもいないのに、打つ手がどんどんなくなっていく)
(ミヤがアレに気づいてくれれば、時間が稼げるんだが――)
「ルナ、目を覚まして! しっかりして! もう傷は全部治したわよ!」
「(そういえば、シャル……怪我はしていなさそうだけど、巻き込まれて気絶しているだけなのかな? ルナが復活するまで待っててくださいね)」
その頃、サーミャとエリアルはルティーナ達から注意を反らすため、必死に反撃をしていた。
サーミャは地上から不自然に噴き出す水場をみつけ、『スプラッシュ・バイパー』で竜の手足を拘束し、それに便乗したエリアルは大剣攻撃で翼を攻撃していた。
馬琴は黒竜にルティーナが薙ぎ払われた瞬間に、身を守る手段がないと判断するや否や、事前に地上に描いて用意していた【水】を『起動』していたのだ。
2人が時間を稼いでくれている中、ついにルティーナは意識を取り戻した。
だが馬琴の予想どおり、大量に出血していたため、まともに動くことはできなかった。
「ルナ~、良かったぁ」
「あ、ありがとうリーナ」
「それよりシャルを起こしてあげて! タイヘイに麻酔薬で眠らされているだけよ」
「あの豚野郎! やられたって本当なの?」
「うん……奴に食べられて死んだわ」
「裏切るからよ! 馬鹿っ!」
馬琴は黒竜と遭遇してから、何故、地上に降りたままで攻撃をしているのか、ルティーナの治療中考えていた。
結論としては、こっちに向かってくるときの不安定な飛翔姿、つまりまだ完全体ではない事も理由であろうが、飛翔すると翼を動かすことで身を隠す粉塵を晴らしてしまうため、地上での攻撃を優先しているのだと予想した。
だから、先ほどのように粉塵にまみれ、巨体を隠しながら静かに近寄り攻撃してきたのだと。
だが、地上戦をしてくれるのは好都合で、これならルティーナが動けなくても、描き残した漢字でサーミャ達の援護ができる。
そしてルティーナは、ロザリナに戦闘中のサーミャ達が見える位置に連れて行ってもらい、岩壁を背にもたれにし隠れながら、戦闘の様子を観察することにしたのであった。
「ルナ、無理しないでね! 『シャイン・ウォール』は残しておくけど過信しないでよ! 私はシャルを起こしてくるね」
「本当にありがとリーナ」
(さぁマコト、あいつは私を始末したって油断してるから、この反撃は読めないわよね?)
(あぁ、大地を一部破壊されてあきらめていたけど、まだ無事な漢字は4つ残ってるな)
(やっちゃぇ!)
(もう少し後ろに来いっ! 今だっ『起動』っ!)
(……)
(んっ?)
(何してんのよ! 今、でしょ? マコト)
(なんで、あそこの【爆】を爆発させないのよぉ~)
(『起動』っ! くそっ『起動』っ! 『起動』っ! 駄目だ全く反応しない……一体何が!)




