243話 決戦
ノモナーガ城で準備万全で構えるサーミャ達に、待ちに待ったルティーナから連絡が入るのであった。
ルティーナはこれから1時間以内に佐渡島に上陸し、安全な場所を確保し次第、再度連絡を入れると。
「あと1時間後には……」
「そうだ! ノキア王、何か持ち運びできる軽食みたいなものを準備できませんか?」
「うむ、ルナリカのものか? 確かに、飛翔するから荷物は持ちたくないと、大した食料は持っていないはずだからな」
「デーハイグ、すぐに準備を」
「かしこまりました」
「さすが、リーナはお母さんだな」
「クスっ、一言多いわよ! お姫様っ」
「私もぉお腹すいてきましたぁ」
「つか、さっき朝飯を爆食してたじゃねぇか!」
(皆、決戦前なのに緩いわね)
(いっつもこんなものですよ、僕はこの緩い雰囲気……みんなの事、大好きですよ)
(そうね、全員、無事で帰って来て打ち上げしなくっちゃね)
(はい)
そんな中、朝時は1人、黙り込んで何かを考えていた。
その様子を見ていたサーミャは、何かおかしいと気付き彼に声をかける。
朝時は昨夜の行動を怪しまれないように、緊張しすぎてぐっすり寝られなかっただけだと払い退けるのであった。
「そうかい、最悪の場合、あんたにかかってんだからな」
「体調が悪いなら、今のうちにリーナに魔法かけてもらっとけよ」
「あはは、大丈夫ですよ」
――1時間後、予定通りルティーナから上陸したとの連絡を受け、サーミャ達はノキア王に別れを告げ5人は彼女の元へ転移するのであった。
そして転移したサーミャ達が目にしたものは、ルティーナの背後に広がる荒れ果てた大地であった。
「ルナ、久しぶりっていうか、この大地は何なんだ? 酷い所にきちまったもんだな」
「あ、これは周辺の魔物を一掃するために、久しぶりに広域系のカンジでドカーンとやっちゃっただけ……」
「お前かよっ!」
「まぁまぁミヤ落ち着いて、ルナはいつも通りの平常運転でよかった」
「それって褒めてんの? エル」
「まぁまぁ、まずは、これを食べなさいルナ」
「おおぉ、まともなご飯~っ! ありがとうリーナ」
「貴方に倒れられたら本末転倒だからね、少しでも体力をつけてね」
「ありがたくいただくわ」
「この間にミヤ――」
ルティーナが指示を出す前に、すでにサーミャはシャルレシカに『エクソシズム・ケーン』を渡し、広域索敵を始めさせていた。
しかしシャルレシカは索敵を初めて数秒後に、無言で腰を抜かし地面にしゃがみ込む。
「あわわわわわぁ」
「な、どうしたのシャルっ? しっかりして!」
「い、今まで感じたことのない魔力……いえ恐怖の塊がぁ、あの山の向こうにぃ」
(シャルが……ここまで恐怖するなんて)
「今まで戦ってきた、竜とは比べ物にならないってこと?」
「は、はぃ……それだけじゃありません」
「どういうことだい?」
シャルレシカの広域索敵にかかったのは、黒竜だけでなく、大陸から姿を消していたデルグーイが数百羽も存在しているというのだ。
馬琴の予想は当たっていた。つまり黒竜は自分の護衛の為に島に渡れる魔物=デグルーイを呼び寄せて護衛させるのが目的だったのだ。
黒竜は8km先に存在しており、それを軸に半径2~5kmにデルグーイの群れがたむろしながら、こちらに移動してきているという。
そして、ここから一番近い群れが1km先に数十匹おり、それがこれから遭遇すると。
(ちっ! もう来たかっ! ルナ、皆の背中に【翼】を描くぞ)
「皆、急いで背中出して!」
「はぁ? タイヘイ、おめぇまで脱いでんじゃねぇよ!」
「戦いを前に汚らわしいものを見てしまったわ」
「うぇ……お嫁にいけないですぅ」
「だらしない体……やっぱり、僕は無理です」
(あはは)
「(みんな、酷でぇ……)」
ルティーナは、先行隊としてサーミャとロザリナとエリアルに迎撃に向かわせ、シャルレシカは飛翔させず朝時と2人で地上で待機させた。
そして自分は2人のすぐ近くで、岩肌や地面に出来る限りの攻撃漢字を描き移しながら、自分にとって有利な地帯を作り始めるのであった。
「シャルっ、通常索敵になっちゃうけど、2km以内に奴が来たら教えてね。それまで作業するから」
「ルナリ――ルティーナさん、私はどうすれば?」
「タイヘイは、もしミヤたちがグルーイを仕留め損ねて、こっちに来たらシャルを守ってあげて! 今はそれでいいわ」
「わ、わかりました(これは好機だな)」
一方、迎撃に向かったサーミャ達は、日ごろの練習の成果もあり、空中戦ではデルグーイに引けを取らない戦いを繰り広げることができていた。
「やつが来る前に全部始末しておきたいな……」
「この中には小鳥ちゃんもいるのかしら?」
「多分な、だけどそうも言ってられないぜ! 今だけは割り切りなリーナ」
「うん(流石に、元の姿には戻してあげるほと魔力を無駄に使えないか……ごめんなさい)」
予想以上のデグルーイの数に無駄に魔力を消費し続けるサーミャとロザリナであった。
それを見かねた誉美は、エリアルに1つ提案をしたのであった。
(え、大剣を捨てる?)
(両手を使った大技を繰り出す為すよ。だから、一時的にリーナに渡しておいてほしいだけ)
(そうですね。リーナならコレぐらい持てますね。わかりました)
「みんな、ここは僕にまかせてくれっ! リーナこれを預かってくれ」
「(結構、重たい……こんな物をいっつも振り回してたの?)」
「任せたぜ、エルっ」
エリアルはロザリナに大剣を預け、2人が下へ避難したのを確認しつつ槍を頭上に高く横向きに両手を使って構え回転させ始めた。
動作が始まると、誉美が『能力』で穂先に火炎を帯びさせて、どんどん伸ばしていき攻撃範囲を広げつつ、周辺のデルグーイを一蹴し焼き払うのであった。
「すげぇ技だぜ! エル」
「これで、かなり減りましたね、一気に行きましょう!」
そんな勢いが付く中、シャルレシカが竜が2km以内に近づいたことに反応した。
それを聞いた、ルティーナも飛翔しサーミャ達に竜が近づいてくることを伝えまわった。
ルティーナは飛翔する前に、シャルレシカに竜の動きを監視するように伝え、朝時にはそのまま護衛役を任せたのであった。
そしてルティーナ達は、デルグーイ減らしに躍起になり、シャルレシカは再び索敵で集中状態に入った。
――その瞬間を、太平は見逃さなかった。
すかさず、昨夜、彼が城内で探していたのは医務室であり、そこにある睡眠薬の入った注射を盗んでいたのであった。
そして、その薬を集中しているシャルレシカの首筋に注射し意識を失わせた。
普段であれば、身近な悪意を見抜けるシャルレシカであったが、今回は竜の巨大な魔力に当てられた上、索敵で集中してしまっていたため、完全に虚を突かれてしまったのだ。
「(さぁてと、これで人質をとった。これで首輪とはおさらばだ)」
「(……はずさせれば、後は俺様の天下だ)」




