238話 禁忌
ルティーナは小鳥をデルグーイにしてしまう薬が流出している施設で、ロザリナが発見した書類に目を通す。
ルティーナ達には意味が全く理解できなかったが、馬琴は液体の研究資料であると語る。
その内容は――。
湖や川に流すと微生物や魚などを媒介にして液体が増殖する事、それだけでなく、人間では30分である時間制限があるが、鳥類であればでデルグーイになる資質があり、時間制限もなかったことが記載されていたのだ。
「お父さんに横領させてた資金だけじゃないと思うけど、それで……こんなものを……」
「私の生活を滅茶苦茶にしてくれた……忌まわ――――。」
「ルナっ! マコマコ! お願いっ」
「まかせてリーナ」
ルティーナは残された液体が入った容器や標本の全てに【固】で完全に固体にし、施設のあらゆる場所に【爆】をこまめに描き歩き、ロザリナと施設の外へ出るのであった。
そして2人は空へ羽ばたき、施設を完全に爆破した。
「――」
(リーナ……)
「ねぇルナ……」
「ん?」
「これで、もう薬に悩まされる小鳥達は居なく……うっく……なるよね?」
「そうね。もう泣かないでリーナ、こんな事は二度と起こらないわよ」
「……う、うん」
そしてルティーナは、湖の水を飲んで間もなく畔で苦しんでいるデルグーイ達を楽に死なせてあげないかと提案する。
ロザリナは自分の中にあるわだかまりが解消しきれていなかったが、その意見に賛同し『シャイン・レストレーション』で一瞬でも元の姿に戻し安らかに眠らせてあげるのだった。
その後、施設の爆発に気づいたサーミャ達が、ルティーナ達の元へ慌てて合流する。
「――な、なんだって! 小鳥がデルグーイの正体だと!?」
「攻撃的でなかったのはそのせいですか? 正体さえ知っていれば……」
(酷い! おとなしい小鳥を化け物にする薬なんて)
(あの薬は、意識は保たれるはずなんだけど――)
「でもよ、なんで皆して南の方に向かって行こうとしたんだ?」
馬琴はこの世界、イスガで見た地図の地理的要素を考えていた。
ここは地軸の傾いた福島県あたりであり、今はない北海道があるとすればそれは東方向になり、千葉は西方向になる。
つまり南側は。
(俺の考えすぎじゃなければ……)
(やめて、マコトの悪い予感……当たるから)
(いやいや、地理的に言えば向こうに黒竜が眠るって聞いた、佐渡島っていう島がある方向なんだ)
(ハルトさん達が言ってたやつ?)
(あぁ……)
「ルナ、どうする? そろそろ日も暮れるぜ」
ルティーナ達は、原因が分かったことと、その原因を封じ込めた上でデルグーイが発生しないことを確認した上で、翌朝、テレンシリア王国に湖を凍らせたことにより全て解決したと報告した。
余談であるが、後にその湖は氷が溶けない湖として有名な観光名所になったことは言うまでもない。
そして、あえて転移で戻らず、翌日の夕方、ノモナーガ王国へ帰還した。
「なんで、アンハルトんとこに転移しなかったんだ?」
「何人も失敗した案件を、いとも簡単に翌日に片づけて帰ったら、ますます私達を異質な目で見る冒険者が増えちゃうじゃない」
「なるほどね、アンハルトに言われた噂を気にしてんだ」
「なんでもかんでも、私達が原因で起こした事件を自作自演で解決して成り上がった序列1位って言われちまいそうだしな」
「そうよ、竜のことだって、秘密裡に退治しないといけないんだから!」
(イルフェ鉱山の件は、結果的に自作自演だったけどな)
(うぐっ)
「そうだな、混乱を起こさせないために黙ってるしかねぇのか……まったく、つらいねぇ~勇者ってやつわ」
ルティーナ達はその足でギルドに立ち寄り、魔物達が増殖した理由を説明し今後は発生しないと報告するのであった。
そして馬琴はルティーナにブランデァに会うように頼み、他の地域でも魔物たちの異変が起こっていないか確認させた。
ブランテァは、ここ最近、ルティーナの言う通り魔物、特にデルグーイの様子がおかしいらしく、ここ1週間で全く姿を見なくなったという。
一部の冒険者の話では、『リステルの森』から西に向かって大量のデルグーイが飛翔するのを目撃したと。
「リステルの森?」
「ワキャガヤン王国とブクレイン王国の国境あたりにある森だね」
(そこから西は――やはり、佐渡島の方向だ)
(黒竜が呼び寄せてるって事?)
(……)
―― だが、これで終わったと思うなよ……くくく ――
その時、馬琴は長明の最後の言葉が頭をよぎっていた。
(これを知ってて、ナガアキはあの施設がある湖を……)
(ルナ、このあとアンハルトさん達のところへ寄って、太平に確認してほしいことがあるんだ)
(?)
ギルドを後にしたルティーナ達は、『碧き閃光』の拠点へ向かった。
「ルティーナ、こいつが例の奴だって何で説明してくれなかったんだよ」
「あーやっぱり気づいちゃいました?」
「それより素人って言ってたのに、あのデタラメな強さはっなんだっ!」
「(俺達、全員でも一矢報いられるかどうかだぞ!)」
(え、そんな強いのか? 正規に召喚されると……)
「か、隠すつもりはなかったんですが……昨日今日で初めて武具を使わせたのは本当なんですよ。そこまで強くなっちゃうなんて、想定外だったんですよ」
「本当に、ごめんなさい」
「というか、ルナリカさん? ルティーナって呼ばれていらっしゃるんですか?」
「「「「「はぁ? る、ルナリカさんんんっ?」」」」」
「え? わ、私?」
「そうですよ」
「は、はい (調子が狂うんだけど)」
最初は生意気だった朝時はアンハルト達と剣を交えているうちに、性格がかわってしまったかのような言葉遣いになっていったという。
「これが、お……んんっ、私の実力なんですよ! 彼らと戦って改心しました。大船に乗った気で任せてくださいっ」
「意外とぉ、いい人なんじゃないんですかぁ?」
しかし、本音は――。
「(最初の印象が悪すぎた)」
「(ここでいい人アピールしておけば、心象が一気に良くなるって効果は抜群だぜ……ちょろいな)」
「すげぇな、ただの陰険野郎としか思ってなかったぜ! これからもよろしくな」
「あはは、ひどいなサーミャさん (くそっ、このアマっ―― おっと、変なことを考えたら首が飛んじまうかもしれねぇ……あと半月の辛抱さ)」
(どうしたのでしょ? 僕を姫って人前で言わなくなりましたよ)
(わかんないよぉ、あいつ結構、腹黒いから)
「(ふふっ、これで誉美も見直してくれただろうな)」
(……)
「それよりタイヘイ? 貴方には聞きたいことがあるの」




