236話 覚醒
ルティーナ達は、苦渋の決断ながらも、かつての敵であった朝時を勇者召喚しなおし、無事に目の前に呼び寄せることに成功した。
そして、彼は本来の召喚が行われたことで自分の本当の能力に目覚めることが出来た。
「俺を召喚したのは、そういうことだろ? 里見!」
「察しがいいわ――」
「ば、馬鹿かぁてめぇは? 俺が『はい』って、貴様のいう事を素直に聞くと思ってんのかよぉ」
「むしろエリアル姫以外の全員をここで封印し――」
そしてルティーナは予想通りの朝時の反応に飽きれながらも、エリアルに例のものを装着させるように頼んだ。
「ねぇ、タイヘイ。僕のいう事は聞いてくれるんだよね? (何で僕がぁ)」
「ひ、1つお願いがあるんだけど、目を閉じてくれないかな?」
「は、はいぃ~エリアル姫~喜んで」
「「「(バカだ)」」」
((バカだ))
油断した朝時の一瞬を突き、その隙にエリアルは首に『カース・ストーン』のチョーカーを装着し、朝時に聞こえないくらいの声でぼそぼそっと発動条件を付与するのであった。
「――て! エリアル姫! こ、これはぁ~っ!」
「ごめんなさいね~」
「エリアル姫はそんな酷いことはしない! 里見っ、姫を呼び出したのはこの為かぁぁ!」
「うっさいわね! それ……どういう意味か、あなたなら解るでしょ?」
「くっ、貴様らの下僕になれと……」
「そうそう! 理解が早くて助かるわ」
「ごめんなさいねタイヘイ」
「下僕だなんて、僕はそんなこと思ってないですよ。こうしないと、皆が安心してくれないんですよ」
「トモミさんの為に我慢できますよね?」
その言葉を聞いた朝時は、一瞬で態度を変え、あっさり共闘することを了承するのであった。
だが――。
「(くそっ! 発動条件はなんだ? 姫はなんて言ったんだ? 浮かれて聞いてなかった……クソっ)」
「(それにしても、なんなんだこの異様な石の大きさは! 変なコトしたら、絶対、爆発するよなこれ?)」
石の大きさは朝時を消沈させるには十分であった。
しかし、礼服姿はともかく、戦闘経験もない自分に何ができるのかとルティーナに質問をするが、彼女からの返答はただ1つ、これから半月の間、特訓をするように指示されるのであった。
「と、特訓だとぉ? しかも半月ってどういうことだっ!」
「……どれだけ閉じ込められていたかしらねぇが、もう封印がとけちまう時期なのか?」
「いいから、とにかくついて来なさいっ」
ルティーナは、朝時を一般着に着かえさせた後、事情を説明しながら武器屋タリスの店へ連れて行き、寄り体に合う防具と剣を調達することにした。
そして、ぎこちない動きのままで『碧き閃光』の拠点に連れて行くのであった。
ルティーナ達の突然の来訪に、唖然とするアンハルト達であったが、彼女たちに今後協力できることがあればと言っていたことを利用され朝時を無理やりに押しつけられるのであった。
そして、彼に最低限の戦闘ができるように闇魔法剣士として特訓するように依頼した。
彼を預けたルティーナ達は、自分達も特訓するために、空中戦が主体となる任務を探す為にギルドへ足を運ぶのであった。
ギルドに到着したルティーナ達は案件の貼り紙を見渡そうとするが、予想外にレミーナから声がかかる。
その案件とは、2週間前から原因不明でデルグーイが増えているというテレンシリア王国の西にあるバイデルの森の原因究明と駆除をする任務であった。
ルティーナ達がギルドに通っていない間にそれなりの力をもった冒険者達が依頼を受けていたが、原因つきとめることができず戻って来たというのである。
「2週間も放置されてたら……近隣の街って、滅茶苦茶になってるんじゃ」
「それがね、意外と被害が出てないって話なのよ」
(? 2週間前か……)
ルティーナ達は早速、その任務依頼を受け、いつもフォレスタ平原に移動している方法を使い、エリアルの乗馬でテレンシリア王国へ駆けるのであった。
「さぁて、とりあえず入国はできましたよ」
ルティーナ達は元の姿に戻り、近くのバイデルの街の様子を見ることにした。
想像した悲劇的な状況は見受けられず不思議に思いながらも、とりあえず宿泊先を見つけ、その足で情報を聞くために夕食もかねて酒場に入ることにしたのであった。
一方、朝時の特訓を任されたアンハルト達は――。
「はぁはぁはぁ」
「ななんだ、コイツ! 最初は素人かと思っていたが……つ強すぎる……」
「本当に初心者なんですか? 達人級ですよアンハルトさんっ」
「俺の剣技ではもう……」
「ブライアン、回復魔法をかけるからじっとしてて!」
「きゃぁ~っ」
「ヘレンっ!」
「私のねずみちゃんたちが……操り返されて――」
朝時は、自分の操る剣と闇魔法に酔いしれ始めていた。
アンハルト達と剣や魔法を交えて、まだ半日も経って居ないにもかかわらず、『碧き閃光』を1対1の戦闘で圧倒してしまうのだった。
「さぁ、どんどん来いよっ! お前たちの実力はギルド序列2位なんだろ?」
「……タイヘイ……そうか! お前っ王様に乗り移った勇者かっ?」
「(ルナリカの奴、詳しく話していないのか?)ふっ、気付かれちまったらしょうがねぇな」
朝時は、自分は黒竜を倒す切り札として召喚されたと自慢げに言い出し、今は改心してルナリカ達に力を貸すことしたのだと。
それを聞いたアンハルトは呆然としてしまったが、ヘレンが首についているチョーカーの石に気づく。
「(アンハルト、あの首についている石って私が……)」
「(なるほど……だから力を貸す羽目になってるのか)」
「どこが素人だよルナの野郎、俺達が歯が立たねぇってことじゃねぇか」
「まぁまぁ、俺も戦うまではどうかわからなかったんだ。文句を言うなよグルバスさんよ」
「1対1だとこんなものか、明日は、2対1でもいいぜ(なんだよ俺、めっちゃかっこいいじゃねぇか!)」
「この調子で、もっと実践をさせてくれよ」
しかしアンハルトは、シェシカの回復のし過ぎによる魔力枯渇を気にし、今日は夕食にしようと修行を終わらせることにした。
「寝床は拠点で用意する。客部屋を使ってくれ」
「ありがとよ。ご飯かぁ……何年ぶりだろう。(いつもノキアが食べてたから実感できなかったからな)」
「だが、俺は結構食べるから覚悟しとけよ」
「(さすがにシャルちゃんみたいなことは……ないよね)」
「あぁ今日は油断したが、連携なら個人技のルナ達よりは上だぜ! 覚悟しておけよ」
「あぁ楽しみにしてるよ」
「(ルティーナ……確かに、なんでも力を貸すとは言ったが、これは大変な事になってきたぞ……早く帰ってきてくれ)」




